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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
勇者狩りの幼女
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※支部長室の密談


 私とフェイは支部長室で正対して、話を続けている。

「騎士団はワーウルフ討伐の遠征に失敗しています。公式に発表はありませんけど。騎士団が想定していた、ワーウルフの生息地は、もっと北の方でした。つまり、偶然かどうかわかりませんが、ポートマット騎士団、ブリスト騎士団、ウィザー城守備隊、この三つの部隊から見ると、守備担当地域の、丁度境界線に近いところに潜んでいる可能性があります」


 フェイは私を見て黙っていた。そのうち、ソファに腰を降ろした。じっくり聞いた方がいいと判断したのだろう。私は遮音結界が生きていることを再度確認する。

「……続けてくれ」

「はい。この微妙な位置関係は、どうも偶然じゃないのではないか、と。誰かに指定された位置なのではないか、と」

「……なるほど。……だが、誰がどんな目的で?」

 私は顎に手を添える。説明しようワトソンくん……。


「魔物が各騎士団の担当地域を把握して行動することは、恐らく考えられません。人間の言葉が理解できる魔物が入り込んでいる可能性はありますが。または魔物を操るようなスキルを持った人間がどこかにいるかもしれませんけど」

「……ふむ」

 フェイの眉根が寄る。

「目的について言えば、おそらくは―――勇者を殺害した者のあぶり出しではないかと」

 私が言うと、フェイは目を丸くした。

「……捜査をするにしては時間が経ちすぎている気がするが。……それにやり方が乱暴過ぎる」

「時間を掛け過ぎてしまって、手段を選べなくなっているのでは?」

 それは次回の勇者召喚が近い、ということかもしれない。半年も経ってないんだけど。

「……勇者を殺害した者と相対させるには、ワーウルフでは弱すぎないか?」

「あちらの考えはわかりません。ワーウルフの集団で十分だと思われているのか、とりあえずの強者をリストアップできればいいのかも」

「……怪しいと思われる者を根こそぎということか」

「はい、それも、ポートマット限定ですね。ポートマットの騎士団か、冒険者ギルド所属で、ポートマットを活動拠点にしている者。なおかつ、前回の勇者襲撃時に、所在が確認されていない者」

「……むう。……騎士団も疑われているのか」

「スキル構成でいえば、騎士団長のアーロン・ダグラス卿、副団長のフレデリカ。疑われているのは、おそらく、この両名ではないかと」

「……フレデリカは勇者殺害の該当時刻には騎士団にいたことが確認されているが――アーロン……子爵が証言していたのなら、それも含めて疑われているということか。……スキル的にはそうかもしれんが、立場上はどうだろうな?」

「立場?」

「……アーロンは宰相ゴヴァン・ダグラスの息子だ」

「へぇ……」


 国政の実質的な長の息子が、衛星都市の防衛軍の長。肩書きこそ『騎士団長』とはいえ、都落ちという印象はある。実力かコネかは不明だけども、一定の地位を確保していることには違いないのだけど。

「……アーロンは三男だそうだが。……中央へ戻る野望はあるかもしれんが、その足がかりになる騎士団を犠牲にしてまで勇者殺害を行うか否か。……王宮がどう判断しているのかはわからん」

「うーん、王宮にしてみたら、野望が感じられる時点で脅威じゃないですかね。ワーウルフの件を王宮が主導していると仮定したら、勇者云々じゃなくても、アーロンは政治的に潰しておきたくなりませんかね?」

「……なるほど、そう言われてみると、王宮主導としか思えなくなってくるな……」

「最悪、無茶な理屈を押しつけて、誰かを勇者殺害犯として処理してしまうかも知れませんしね」

「……お前が押しつけられる可能性もある」

「その時は全力で抵抗します」

 ニヤリ、と笑うと、フェイもニヤリと笑みを浮かべていた。


「それでですね。ワーウルフの件はひとまず置いておいてですね、もう一件あるんです」

「……ふむ?」

「杞憂かもしれないんですけど」

 ソファに座りながら、日光草の種を、枯れたボウズごと取り出して、テーブルの上に置く。小さな種が無造作にこぼれ落ちた。


挿絵(By みてみん)


「……なんだこれは?」

 ああ、フェイは採取には疎いのかな。

「日光草の種です。体力回復ポーションは、これの葉っぱを材料にしています。通常はこの種を何かの材料にすることはないんですが、これ、多分、精製するとアヘンに似たものが出来ます。まだ試したことはないんですけど」

「……ほう……」

 フェイは召喚された異世界人だ。召喚された時代は今よりも百年近く前だったとのこと。そのフェイにも麻薬の知識はあったようだ。

「この世界の常識には疎いので、幾つかお聞きしたいのですが?」

「……うむ」

「医療用に日光草の加工品は使われていますか?」

「……体力回復ポーション以外は……聞いたことはないな」

 これはトーマスにも訊いていたけど、確認だ。

「過去に中毒になった人は……特に採取専門の冒険者とか。いませんか?」

「……具体的にはどういう状態を指すんだ?」

「多幸感と倦怠感が出るそうです」

「……調べてみないとわからんな」

「それらの効果……いえ、症状は精製して長期に渡って大量に吸引しないと出ないかもしれません。葉っぱの採取程度では中毒にならないかも」

「……それも調査してみよう。……しかし、いきなりどうして、こんな案件を持ち込んだ?」

 私は日光草の種を指しながら、

「この種を専門に採取している人物を見つけたからです……」

 少しだけ口ごもる(フリをした)。

「……面倒な立場の人間なのか?」

「大手チーム『シーホース』のジャックさんです。ジェイソンさんの義理の息子さんの。ジャックさんは『錬成』スキルを使えます」


 一瞬、フェイの視線が宙をさまよう。名前と顔を思い出しているのかもしれない。

「……なるほど。それでお前は冒険者ギルドの関与を疑っていたというわけか。……それは断じてないな。……ジェイソンも無関係だろう。……特に金に困っているわけではないだろうからな」

「金になる、ということは、少なくともリスク、つまり犯罪ではあるんですか?」

「……いや、特に禁止はされていないな……そうだな、これは『元の世界』の発想か」

 アヘンの製造と販売が禁止されていない以上は、リスクが金を生むわけではない。だけど、それは今の段階で、の話だ。

「……しかし、遠からず揉め事は生むだろうな。……この世界の人間がアヘンに気付かないのなら放置でいいと思うが、そうはならないだろう」

「それは同感ですね。そのうち、莫大な利潤を生む商品になると思います」

「……この件が『シーホース』主導かどうか、も問題だな。……チーム、もしくは幹部がやっているなら、少なくとも領主か、それに近い人間が関わっている可能性がある」

「ああ、あのチームって、やっぱり領主の子飼いなんですか。道理で色々優遇されてると思いました」

 領主からの依頼は割のいいものが多い。その殆どを受注しているのが『シーホース』だったりするわけで、これは指名依頼以外のものも含むわけだけど―――。

「……おそらくは、だが。……採取の殆どを、お前がこなしてしまっているから、連中の商売が圧迫されているのだろうな。……それで違う商売を考えついたのかもしれん」

「あー、そうだったんですか。そんなに影響があるとは……」

 全く思ってなかった、といえば嘘だ。大手チームにちょっとした嫌がらせのつもりもあったのだけど、藪を突いて(アヘン)が出たということか。

「……まずは広がりを掴むところからだな」

「そうですね。今のところは犯罪じゃないのなら、割と大っぴらにやってると思います。現場を押さえるのは問題ないとして。販売経路と最終使用者の把握ですかね」

 まだ、アヘンの製造はジャックの試作段階で、流通はまだ、という可能性もある。もしそうなら、最善の先手を打てることだろう。

「で、ですね」

「……うん?」

「このアヘン、そのアーロン・ダグラス卿も絡んでいる可能性があるんですよ」

「……なんと……」

 フェイは結界の遮音性能を確認するかのように周囲を見渡した。今さらだとは思う。

「どういう意図があるのかは不明です。ただ、ジャックさんに早朝から単独で接触するとなると、怪しさ倍増といったところです」

「……それは、いつの話だ?」

「ズバリ今朝、目撃したでしょう」

「……修正されそうな新鮮さだな」

 フェイは渋く切り返す。飛田展男っぽいな。

「まあ、現段階では、どの程度の関与なのかは不明です。ただ、立場を考えると浅い関係だとは思えません。また、早朝とはいえ、冒険者が動く時間帯でもあります。目撃される危険性を気にしなかったのだろうか、という疑問はあります。急ぎ接触しなければならない理由があったとか」

「……ワーウルフの件で金銭が必要になるだろうか……」

「まだリスクが増大していない現在では、それほど即効性のある金儲けとは思えません」

「……確かに。……アーロンと領主――ノーマン伯爵――の関係も、雇用主と従業員以上の何かがあるのかもしれん」

 その喩えはどうかと思ったけど、頷いておく。

「ノーマン伯爵からの保護を厚くしてもらうための、保身用に急ぎ金銭が必要だとか? アーロン卿がそこまで中心的な役割かどうかは考えにくい気もしますね。ああ、その辺りの関係っていうのは、冒険者ギルドの方で、調査とかはしてなかったんですか?」

 これは少し咎めるような口調で。

「……恥ずかしながら、ないな。……冒険者ギルドは政治とは切り離された組織として成り立ってきたから、意識的に調査してこなかったんだな」

 唸りながら、フェイは腕を組んだ。

「そうでしたか。その辺り、トーマスさん、というか商業ギルドの方に話を通してみてはいかがでしょう? アヘンの件を持ちかければ共同調査という形にできるかもしれませんし、商業ギルドには『調査部』って部署がありますから、業務提携の形にすれば両方に利益があるはずです」

「……それはいいのだが……。……いいのか? ……これはお前が持ってきたネタだろうに?」

 ああ、フェイは義理堅いなぁ。

「どのみち、私一人じゃ調査は不可能ですし。情報を流しているだけですし。私にも共犯者が増えて安全度が増すというものです」

「……わかった。……話を聞いたからには、冒険者ギルドも無関係ではないしな」

 私は大きく頷く。大手チームを監督する存在でもある冒険者ギルドが、この事態を把握していなかった事は失態と言える。そこに助け船と解決策を提示してみた。あとはフェイが判断して動くだろう。まあ、まだアヘンがどういったものなのか周知されていない現状では、失態だと断言するのは可哀想に過ぎるというものかもしれない。


「ワーウルフの方に話を戻しますけども。アーロン卿は冒険者に連絡が行くだろう云々言ってまして。私も呼び出すぞ的な事を言われました」

「……そうか……。……誰が台本を書いて、誰が役者なのか、わからん状態だな……」

「まずは情報でしょう。騎士団が冒険者ギルドにワーウルフ討伐の助力を要請してくるのは確定として、こちらも上手く乗り切れるだけの面子を揃えなければ」

「……人選は進めておこう。……ああ、後でトーマスを呼んでくれるか? ……これらの件、利用できるところは利用しないとな」

「ええ、そうですね。少なくとも利用される、ということが無いように立ち回りたいものです。その上で、搾り取れるものは搾り取りましょう」

 ニヤニヤニヤ、とフェイが笑うのに釣られて、私も笑う。



――――日光草の種は、薬味に使われることもあるそうです。



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