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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
迷宮を掌握する勇者狩り少女は巨人を操る土木作業魔術師兼魔道具製作者兼鍛冶師でガラス職人かつ道具屋従業員で、その正体は変な名前の、見かけより体重の重いドワーフである
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王城への侵入者


(王国暦122年2月30日~3月1日)


 実際問題として、王都へ向かうには街道を使うのが一番早い。ほぼ直線だから。

 この道を暗殺者として使ってこなかったのは、馬車の往来が激しいから。しかし今は、第一騎士団が通った後で、しかもポートマットと王都間の流通は止まっている。つまり無人の街道を透明人間(影アリ)が突っ走っているというわけだ。

 周囲に人影はなく、魔物もおらず、馬車も通らず。ここで『風走』も併用すれば八半日(三~四時間)で到着しそう。だけど『風走』は魔力を追尾される危険性がある。普段堂々と使っているのは、敢えてそうしているというだけの話。

 今は隠密行動が大事。


 時々第一騎士団の馬車と思われる一団と遭遇する。王都からポートマット方面へ向かう馬車がチラホラ。第一騎士団の本隊は、私の遙か後方、ポートマット方面にある。

 馬車が通る時には足を止めて、『隠蔽』も併用してやり過ごす。漏れる魔力は殆ど無いから、『隠蔽』使用時に魔力を感じたとしても、リスが跳ねた、くらいにしか感じないだろう。

 王都に近づくにつれて、進行速度を落とす。


 深夜になり、王都ロンデニオンの四つめの城壁、つまり一番外のそのまた外、俗に第五層と呼ばれている地域(エリア)に到着する。このエリアはロンデニオンであってロンデニオンではない。侵入し放題なのだ。


 正式な門番は第四層の壁から配置されることになっている。第四層より内側は責任を持ちますよ、ということらしい。実際、ロンデニオン市民(シビリアン)として税金を払っているのは第四層から内側の人達だし、税金も払わずに町に寄生状態の第五層の住民(バガボンド)の安全など知ったことではないのだろう。


 チラリ、と第四層の門番を見たけれども、これが十人ほど、ガッチリ扉を閉めて守っていた。第四層の門は、確かに大人が十人は並べられる広さではある。それにしても深夜とはいえ、この厳戒態勢はいかがなものか。

 うーん、これは一体……。

 ちょっと考えてみよう。


①普段からこんな感じである

②勇者召喚があるので厳戒態勢である

③第四騎士団が勝手なことをしているので他の騎士団が警戒している


 以前に王都に来た時は、これほど物々しくはなかった記憶があるし、第四層の門は深夜でも閉まることはなかったから、①はない。となると②か③になるか。

 ②は当然警戒しているとして、警戒するなら召喚した場所、もっと言えば勇者本人にべったりくっついている方がいいわけだ。今の段階で外部からの侵入を防ごうというのは難しい気がするし、日中も門を閉め切っているわけにもいかないだろう。それこそ戒厳令でもなければ……。

 まさかねぇ?


 スッと塀を見上げると、軽装の騎士が塀の上を哨戒していた。

 塀の高さは五メトルはない、か。しかしジャンプして届く高さでもない。

 短剣を石組みの間に噛ませて登るか。


 丈夫な黒鋼の短剣を使った方がいいんだろうけども、あれは重すぎるのと長すぎるので、今回も『雷の短剣』と『ミスリル・ストライク・ダガー』を取り出す。『隠蔽』を使用して、石組みの隙間に短剣をねじ込む。

 うん、さすが研ぎたて……。すっと目地に入る。

 カッカッカッカ、と短剣を突き立て、抜き、を繰り返してリズミカルに上り、塀の上へ。哨戒の兵はおらず、そのまま下に、再度短剣を目地に噛ませて降りる。直接降りると体重ですごい音がするんだ……。こればっかりはどうしようもない。


 うーん、しかし月明かりもないし、実に潜入日和じゃないか。

 一応の街灯はあれど、中央通り(っぽい)にしか灯りはない。『気配探知』は住民が多すぎて機能しない。動く光点にだけ注意して進むしかない。

 遠目に第三層の扉を見ると、やはり第四層の扉同様、厳重に警戒がされていた。

 しかも、塀の上の哨戒は、動き回らずに、担当の場所を維持している。

 ここで石を投げて他に気を逸らす……なんていうのは愚の骨頂。徹底的に探されてしまうし、警戒レベルを上げてしまうだけ。

 そう考えるとウィザー城なんかザルだなぁ。侵入した後の目的地が近いっていうのはそれだけで(こちらにとって)メリットなんだと改めて気付く。この広い都市の間を仕切る壁は大いなる障害物だ。侵入時はもちろん、撤退時にはもっと厄介に感じるだろう。

 それでも第三層の塀は、歩哨の間を縫うようにして、『隠蔽』様々で突破できた。


 今回はポートマット方向からの侵入だったので南側から侵入している。

 第二層の塀攻略のため、逃亡ルートの検討も兼ねて、西側に回り込んでみる。

 王都から見て北西方向には、王都西迷宮がある。先日ウィンター村に向かう際にかなり近づいた迷宮だ。仮に、の話だけど、王都に第六層、いや第七層があるなら、王都西迷宮も含まれるくらいの距離だ。

 以前はそこに籠もったこともあるし、ちょっと懐かしく思う。


 見てみるだけ見てみよう、と思った第二層の扉には、二十人くらいの騎士が完全装備で立っている。これは……強行突破は(しないけど)無理だなぁ……。補給や交替もあるだろうし、絶対に開かないわけじゃないだろう。

 機会を窺うしかない。


 あ。


 持久戦になるか、と諦めた時、王城の方から大きな魔力が感じられた。

 軽く見上げてみると、白い光の柱が王城の方に見える。

 魔力的なものではあるけど可視光線でもある。一瞬明るくなり、思わず『隠蔽』を使う。

 門番たちの集中力も削がれている(空を見上げている)。チャンスかな。


 一気に塀を上り、ついに第二層内部へ侵入に成功。

 残るは第一層の塀のみ。


 第二層内部の東側は騎士団の駐屯地がある。結構な人数――――聞いた話だと、第四騎士団、後方部隊まで合わせて千人だか千五百人だか、そのくらいはいるらしい。ポートマット騎士団のミニマムサイズが泣けてくる話だなぁ……。

 いまいる西側には、これも石造りの立派な建物が並んでいて、どうやら政治機関やら王城に付随する秘密工房(どんなのだろうね?)やらがあるらしい。


 光の柱が立ったのは………北側の建物か。

 第二層エリアの西半分が騎士団駐屯地なわけで、それはそれは……視線が向いた先には必ず騎士がウロウロ警戒をしている。

 この警戒は、内に向けての物だろうか、それとも外に向けての物だろうか。

 警戒中の騎士たちの視線を見るに………。どちらにも取れるというか……。


 うーん……。王都で政治的な何かが起こってはいるみたいだけど、五層も四層も三層も静かなものだったし、市民革命の類ではなさそう。となると、お偉方同士が何かやってるのに加えて勇者召喚? 勇者がどう絡んでくるんだかサッパリだけど、やることやったらさっさと帰りたいな……。


 と、そんなことを考えていたら、東の空が明るくなってきた。ポートマットから王都までの道中の時間と、王都内部の移動時間がほぼ同じか。見つからないように本丸へ移動してるんだから当然か。


 第一層の様子を窺うと、ちょっと面白いことに、門番は当然いたけれど、塀には歩哨はいなかった。王城に近いから遠慮しているのか、第二層だけで十分と判断されているのかはわからない。なので、軽々と第一層の塀に上ることができた。


 そこから見える王城は、白い石造りで、流麗というよりは本当に要塞、という感じ。ガチ要塞風の建物の左右に小さな建物を造り、廊下の代わりに全部繋げてみました、という追加建築の跡が見て取れる。微笑ましいけれど、一国の城としては優雅とは言えない。


 第一層の塀の直径は小さく、王城を囲っているだけ。門……は南側に一カ所だけ。見た目にも浅い堀があり、そこを跳ね上げ橋で繋いでいる。


 これはさすがに渡るのは面倒………。と思ったら、王城の門が開いた。跳ね橋が下がってくる。おお、この世界の技術で、あれだけの仕掛けが出来るとは……。しかし、対岸の、つまり手前にある門は開いていない。王城の門からは馬車が出てきた。

 パッシブの『気配探知』と『魔力感知』で馬車を見る。

 馬車に乗っているのは………。この魔力の大きさ。間違いないな。勇者が乗ってる。


 カツラ、仮面、付け耳。

 手で触って再度確認。

 準備はよし。太陽が昇り始める。影ができない位置に移動して……。

「―――『加速』『筋力強化』『隠蔽』」


 そろりそろり。


 第一層の塀から跳ね橋にゆっくり降りる。

 馬車の御者が鞭を入れた。馬車がこちらに向けて走ってくる。

 王城の方からは、まてーとか、とまれーとか、そんなことを叫びながら騎士たちが出てきた。


 えーと。

 状況を察するに、勇者が逃げてるのかな?

 しかしこれ、勇者を説得するタイミングが取れないなぁ。出来れば殺したくはないのだけど、今回はどうも勝手が違う。

 橋の端を歩く。うん、トンチがポクポク言いそうだね。


 二頭立ての馬車が止まる。このまま走っていたら開いていない門に当たるから。

「勇者様!」

 女の声。聞いた事があるな、この声。国王スチュワートの次女、オーガスタか。

「ああ?」

 オーガスタの切羽詰まった声とは反対に、気怠そうな声がする。


 馬車の横についていた出入り口から、女と、男が二人、出てくる。

 王城から騎士たちがゾロゾロと出てきて、馬車に近づいてくる。

「ダグラス卿! 諦めよ!」

 騎士の誰かが叫んだ。

 え、宰相本人? って………若いな。息子の方か?

 女の方はオーガスタで間違いなかった。去年よりなんかやつれてる。

 そして、もう一人の男が、勇者だった。


-----------------

【レイジ・オダ】

性別:男

年齢:25

種族:ヒューマン

所属:なし

賞罰:なし

スキル:気配探知LV3(物理) 長剣LV4 両手剣LV4 二刀流LV5 強打LV4(汎用) 高速突きLV4(汎用)

魔法スキル:火球LV2 水球LV1 風球LV1 土球LV1

      初級   火刃LV1 水刃LV1 風刃LV1

補助魔法スキル:光刃LV1

ユニークスキル:不死LV1

生活系スキル:ヒューマン語LV3

-----------------


 ちょっと待てよ……。

 何だ『不死』って。しかもレベルがあるぞ……。

 ええい、ままよ。説得する機会は得られなかった。仕方がない。

『隠蔽』で隠された姿のまま、静かに勇者オダの背後に回り込み、短剣を構える。

 勇者よ、さらば!


「ぐあっ!」

 勇者オダのくぐもった声が響く。

 ミスリル・ストライク・ダガーの高速突き、勇者の背中から三連打。刃は横向き。

 もう一発、首も刎ねておくか。


「―――『光刃』」

 ブィン、と鈍い光に包まれるミスリル・ストライク・ダガーで一閃。

 ドチャッ、と首の落ちる音。


――――ユニークスキル:不死LV1を習得しました


 殺したね。死んだね。

 任務完了、逃げよう。


「キャアァアァァァァァァ!」

 オーガスタが半狂乱になって叫ぶ。うんうん、もっと混乱してください。こちらの脱出が楽になります。

「―――………!」


 殺気!

 背後!?


 ちぃいいい。

 身体を捻りながら思い切りしゃがむ。勢いのある黒い短剣が目の前を通過した。


「ちっ!」

 慌てて前に飛ぶ。これは…………!

「さすが『ラーヴァ』、ということですか……」

 何でここにいるんだ!

 ブリジット!


「下がれ! ―――――『水刃』」

 水っぽい艶のある声がして、バシバシ、っと水刃が違う方向から二枚飛んでくる。

 避けられない!

「チッ」

 ミスリル・ストライク・ダガーで魔法を迎撃する。水刃が霧散する。

 正面のブリジットがしなやかに、新たに短剣を取り出す。短剣二刀だ。

 新しく取り出したのは『ミスリル・スネーク・ダガー』だ………。


「―――『闇刃』」

 ブリジットが闇刃を短剣に通す。さすが(わたし)の作、魔力の通りがいい!


「ヒュッ」

 短い呼吸音と共に五連続の突き。はやっ!

 これはいけない!

 小刻みに下がりながら何とか回避する!

「ブリジット!」

 エイダが叫ぶ。くそ、エイダはどこから撃ってきてるんだ?


「来るな!」

 ブリジットが叫ぶ。

 魔力感知すると……エイダは橋の下か!


「フッ」

 ブリジットは黒鋼の短剣と蛇の短剣、二刀流で私の足を殺す。上背と腕の長さを生かして、上からと下から、同時に違う方向から攻撃が迫る。

 私は後にダッシュしながら転がって避ける。ガキン、と両者が交錯し、黒鋼の影響で、自らの闇刃は消失する。


「ちっ」

 私は転がりながら、雷の短剣をしまう。距離が取れた。黒鋼のソードブレーカーを取り出して左手に持たせる。

「……」

 ブリジットが何も言わずにスキル発動。死角移動か。

 私は背後を見ずに、気配だけで右手の短剣を振るう。


 ガ イン


 金属の鈍い音。

「くっ」

 ブリジットの攻撃を止めた。歯噛みするブリジットを後目に、私は後に振り向き、ブリジットから離れるように、素早く移動する。

 そこに中級単体魔法、『水弾』が飛んできて私の足が止まる。

「!」

 ブリジットが再度接近してくる。距離を取らせてくれない。

 くそっ、これ、いつかやられる!


 飛んできた水弾は左手の黒鋼の短剣で払う。

 流れ弾が第一層の門に直撃、一瞬退路が見える。

「門は開けるな!」

 エイダらしくない声。しかし、増援を出そうとしていたのだろう、門はエイダの声を聞かずに開けられてしまう。チャンスだ。


「馬鹿め!」

 騎士団に罵倒の言葉を投げながら、ブリジットが逃げる私に向かってダッシュをかけてくる。

「逃げるな!」

 ブリジットは鬼神の表情だ。

 とは言いましても……。

 くっ、足の長さが違う。一歩で間合いが瞬時に消える。

 ブリジットの七連打。それに反応して私も片手で七連打。


 キキキキキキキン!


 短い金属音。私の足が止まり、追撃してくると思われたブリジットが離れる。

「――――『水姫』」

 ここで水姫だとおおお!



――――ヤバイです!





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