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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
迷宮を掌握する勇者狩り少女は巨人を操る土木作業魔術師兼魔道具製作者兼鍛冶師でガラス職人かつ道具屋従業員で、その正体は変な名前の、見かけより体重の重いドワーフである
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ポートマットの防衛戦3


 体力と魔力を一緒に失った私は、倒れてから丸々一日寝込んでいたわけなんだけど、隣のベッドにいたフレデリカが手を握ってきてくれて、彼女が無事だったことに安堵した。


 使ってみてわかったことがあるのだけれども、『最上級治癒』『最上級範囲治癒』は、魔力と一緒に体力も激しく消耗する。

 ヒーラー勇者の背後にいた、溶けたお姫様を思い出す。つまり、彼女は、高レベルヒールで体力を失った勇者の回復をしていたのだ。そう考えると彼らの治癒魔法は無限ではなかったことになる。

 ちょっと強引過ぎた……気はするけど、あれは一気に殺さなければこちらの魔力が先に切れていた。

 長い名前の王子……の戦いも余計だった。

 あの王子を見ても、コピーできるスキルは得られなかった。使っていたのは細剣だったので、恐らく、フレデリカと同等以下のスキルレベルなのだろう。

 だけど、フレデリカに、あの王子の動きができるかどうか、と言うと、それも否だと思う。

 スキルレベルだけで判断できない、総合的なセンスやら経験やら……というのが、王子の強さを支えているのかもしれない。

 スキルさえ得られれば、その人物と同等……と考えるのは早計なのだと。

 変なところで不便な、この世界の作りからすると、まあ、納得のいく考え方ではある。


「お姉様………」

 で、看護してくれてるのはエミーで、ここは教会の礼拝堂に仮設された療養所。

 ああ……缶詰のミカンか黄桃が食べたい……。出来れば中国産以外の……。

 エミーなら買ってきてくれそう……だけど、この世界には無いんだろうな……。

「んっ……」

 端末を取り出して、寝ていた間の短文のやり取りを見る。


 西の漁港戦は、あの後無事に投降者を収容したようだ。

 投降者の処理は騎士団が担当、セドリックの第一班が北門へ向かった。ところが数人の(もう、敵と断言していいだろう)王都第四騎士団が西門から侵入。エドワードが移動中のセドリックに知らせて、セドリック、エドワードが対処して事なきを得たそうな。その時の短文を見ると、足の遅いやつは南通りを、セドリックと足の速いやつは西門を経由してくれ、というフェイの指示があった。エドワードが報告してからセドリックが対処に向かうまでのスパンがもの凄く短い。エドワードの超人的な勘が西門の危機を救ったとも言えるか。


 その間にフェイ自身が北門に向かい、我が第四班をこき使って牽制を続けた。


 クリストファーの第二班は、東岸の警戒を続けていて、生存者を五名救助したとのこと。この連中は捕虜として確保されたんだけど……高位の魔術師が一名含まれていたのが問題になった。治療の可否をフェイに問うたところ、フェイは殺ろすように指示を出したようだ。まあ、治療後に町中で攻撃魔法を炸裂させられたら、と考えると、危険物扱いされちゃうだろうなぁ。ちなみにウィートクロフト爺の死体は上がらず、生死不明。魔法攻撃をしてきたのが、爺本人だったのかどうかもわからない。

 第二班はそのまま東岸の警戒を現在も続けているみたいだ。


 セドリックは西門に二十人ほどを預けて、残りの面子は外壁沿いに北門へ向かった。

 この時点で、王都の第四騎士団は名目上の『近隣の町を助けに来ました』が嘘だとばれたのに気付いた(別働隊が捕まったか、処理されたことに気付いた)ので、強引に押し通ろうとしたらしい。第四騎士団は到着時点で八十名ほどいたらしいのだけど、我が第四班が見事な連携で防いだ、とのこと。

 その間にセドリック隊が北門に、連中の右側から到着。

 で、現在もにらめっこ中だと。


 ちなみに、第四班を大いに助けたのは、自動で動かしたタロスだった。角度と距離バッチリな、私のBASICプログラミングも捨てたものじゃないなぁ。ちなみに方角と距離はLINE文で決めたんだよ(笑)。

 そのタロスは、町の構造物も壊さず、素直に北門前で威嚇したそうな。

 02がその時は盾で防御して、01が敵部隊の五メトル手前に威嚇で矛を投げつけた。02はその時の『障壁』、01は矛を回収して定位置に戻ってから、稼働時間の限界が来たらしく、それから動かなくなった―――らしい。

 ううっ、タロス、ありがとう! 動かしたのは私だけど!


 ところで一つ謀というか、ノーマン領主が亡くなったそうだ。どうも事前に侵入していた暗殺者に毒を盛られて逃げ出して、足下が怪しくなり、屋上から転落死した、とのことだ。曖昧なくせに、具体的な死亡状況の説明だなぁ。

 これについては、ついにやったか、というのが私の感想だ。

 確かに、今なら()()()()()にして殺せるものね………。

 アイザイアの目は義憤と野望に満ちた目をしていた。一つの町の掌握や発展で終わらせない人だと思うけどなぁ……。まあ、フェイには武力があるし、最悪は私という戦略兵器もあるわけだし、アイザイアより長生きするだろう。その辺りをアイザイアがわきまえて理解しているかどうかが、今後のポートマットの平和を決めるんだろうなぁ。


 なお、ドロシー、アーサ、ベッキー、カーラ一家(と、シモダ屋のお客さんが数人)、ルーサー師匠も無事。

 第四騎士団の件がまだ解決していないので、念のため、まだ外に出ないように言っておいた。


 そういえば隣で寝ているフレデリカは、やっぱり部下を庇って自分が傷付いたとのこと。あんたが死んだら意味ないじゃんか……と窘めたら、全くその通りだ、と素直に謝罪された。庇った部下はちゃんと生存したらしく、第二隊に死亡者はいなかった。第一隊には三人ほどの死亡者が出ていて、彼らは英霊として扱われ、町葬になるだろう、とのこと。スーパースリーは無事で、大活躍だったみたい。


 冒険者の方は、死亡者はセドリック隊に五名、クリストファー隊はゼロ。セドリック隊はまだ騎士団と対峙中なので、もしかしたらまだ増えるかもしれない。それでも五倍の人数相手に、損失はたったの五人、と考えると、これは大勝利と言える。セドリックの指揮がよかったか、その五人の運が悪かったのか、それはわからない。今の私には合掌して冥福を祈ることしかできない。


 第四班はセドリック隊が到着した時点でお役ご免。待機に入った、というカレンの短文が私の端末に入っていた。たった十五人の初級冒険者が、怪しい目的を持った現役騎士団八十名を止めてみせたのだ。彼らこそ殊勲賞かもしれない。


「ん……」

 また短文が入る。フェイからだ。『遣いを送るので冒険者ギルドに移動してくれ』とのこと。体調を心配する一文さえないところに愛を感じるね!

「エミー、マリア、支部長が冒険者ギルドに移動してくれ、って言ってきてるんだ。大丈夫かな?」

「もう一日くらい~寝ていた方が~」

 歌うようにマリアが言う。マリアの歌は、エミーの治療魔法の効果を劇的に高めた。それもあって、どうにも振る舞いがミュージカル調というか。マリアはいわゆる『吟遊詩人』的なスキル構成なんだけど、場の空気も考えて歌ってほしいよね……。

「そうですよ。昨日は瀕死だったんですよ……?」

 エミーが私を窘める。他人(フレデリカ)の非難なんかできませんよ、と。それもそうかなぁ。そういう意味では私とフレデリカは似たもの同士か。

 異世界人であるというメンタリティがそうさせるのかもしれないけど、本質的には自分の死じゃなく、他人の死を見るのが辛いのだ。そして、自分の命を軽く思っているという点も同じかもしれない。


 しばらくすると、第四班の数人が担架を持ってやってきた。

「小さい隊長!」

「ラルフしょ……さん、ご無事で何よりです。活躍されたそうですね」

「隊長もご無事で……」

 ラナたんも一緒だった。

「みんなも無事でよかった。死者が出ていたら泣いてましたよ」

 ハハハ……と乾いた笑いを見せる。

「まだ動いてはいけませんよ」

 明らかに私を拉致しようとしている第四隊の面々の前に、エミーが立ち塞がる。


「エミー、大丈夫だよ。ギルドに移動するだけ。そっちで休むだけだからさ」

「無理は……しないでくださいね?」

 言ってもムダなのは理解しているのだろう。大きなため息をついて、エミーが許可をくれた。よかった。私を倒してからいけ! とか言われなくて。エミーがマジになったら第四班は全滅だよ……。



「あれって、聖女様ですよね?」

 ラナたんが、担架で運ばれている私に向かって訊いてきた。ちなみに男衆四人が左右二名ずつを分担している。私の体重が重いのをわかっている、フェイの気配りが憎たらしい。

「えと、うん、正面からやりあったら、ラルフさん、ラナさんでも完敗するよ?」

「えっ……そうなんですか……」

「うん、接近すれば勝てるかもしれないけど、ちょっと離れたら魔法で負ける。私がやりあったら……先に笑顔に負けちゃうかな」

 私のジョークに、全員が苦笑する。


 敬虔な信者というわけではないけれども、何だかんだと教会には行くことになる機会は多いもの。そこで自分たちと同年代(実際にはエミーは少し下だけど)の美少女が、圧倒的な存在感を持ったシスター(本当は見習いだけど)として働いている。

「女神って本当にいるんだなぁって思いました」

 担架を持っている男の子の一人がそう言うと、全員がうんうん、と同意を示した。神様はいないけれど、偶像としては存在してもいいよね。


「安息日にさ、歌を歌う時間があってさ」

「ああ、マリア様かぁ」

 え、マリアが様付けですか?

「あの子も凄いよねぇ。マリア様が歌い出すと、世界中から祝福されているような……それにつられて、聴いてる私たちも幸せになるような……」

「わかるわかる」

 だから、嫌なことがあったり、気分を変えたい時などは、安息日に教会に行くのだという。そう思っている人が多いのか、安息日の教会は大盛況なんだとか。要するにマリアのコンサートみたいなものか……。


 魔法的に言えば、マリアの歌声は、自分の声に魔力を乗せて、表現力の幅を広げている、ということになる。マリアのような、俗に『吟遊詩人』と呼ばれるようなスキル構成の人は、意識して、スキルとして表現力を高めることができる。

 ところが、マリアと同じスキルを持っていても、マリアの再現は不可能だったりするのが不便で面白いところだ。技術として再現は出来るものの、マリアの表現は、マリアにしかできない。モノマネの域を出ないのだ。

 ついでに言うと、マリアのように他者を感動の渦に巻き込むようなことにもならない。歌の上手さと、感動させる歌を歌えることは、ちょっとベクトルが違う話なんだな、と実感したものだ。


「先に演習場へ寄ってくださいな」

 担架に乗せられた私は(いやもう普通に動けるんだけどね……)、先に第四班の駐屯地である、演習場へ連れていってもらうことにした。


「小さい隊長、ご無事で!」

「小さい隊長!」

 小さいは余計だよ! ええい。

「えー、第四班、集合して下さい。お話があります」

 担架から降りて、一同を整列させる。ちなみにカレンはフェイの応援に行っている。


「現在、フェイ支部長とカレン先生は、北門にて、謎の騎士団と対峙しています。隊長たる私は、体調不良のため、辞任致します。現時点をもって、第四班は支部長の直下となります」

「そんなっ」

 声を上げたのはラルフ少年だった。

「皆の活躍は聞き及んでおります。全然指揮とか出来ませんでしたけど、楽しい経験でした。みんな、ありがとう」

「小さい隊長っ!」

「小さい隊長ぉー!」

 小さいのは余計だっつーの。ええい、続けるか。


「これから第四班は、再度北門へ向かってもらうことになります。そこで支部長から指示を受けて下さい。えーと。その槍はそのまま差し上げます。今後の狩りや活動に役立てて下さい。なお、防衛戦終了後であれば、武器や装備の相談に乗ります。私の鍛冶の師匠に紹介してもいいですし。その槍を潰してもいいけど、それだと作れても短剣くらいかなぁ……。まあいいや。それでは、第四班の皆様、ご武運を」

 私が合掌してお辞儀をすると、全員が神妙な面持ちで、同じようにお辞儀をした。

「では、移動開始。私は歩いてギルドの仮眠室に行きます。運んでくれてありがとう」

 ニコっと笑う。

「はい! 行ってきます!」

「ご自愛下さい!」

 ラルフ少年、ラナたんの視線が最後まで私を捕捉していたけれど、何も言わずに送り出した。恋の相談以外なら乗るよ?


 第四班がいなくなったところで、フェイに短文を送る。

『第四班を北門に向かわせました。指揮権を支部長に委譲してあります。私は冒険者ギルド演習場着(意訳)』

『了解した。そちらもよろしく』

 とだけ返信がある。

 王都の勇者召喚の対応に行け、と言われているのだ。『神託』通りなら、明日か明後日には召喚がされることになる。


 今回は王城での召喚、か………。いつもならウィザー城なわけで、その分ポートマットから近いこともあって時間的には楽だったのだけど、今回は距離が問題になりそう。

 もう一つの問題は、今現在、ポートマットは()()によって封鎖されている状態だということ。膠着状態でもあるし、時間を惜しんでの強引な突破はどうしても目立ってしまう。

 北門に行くとタロスとのリンクが回復して所在がばれそうだし、東の岸壁はまだクリストファーの隊がいるだろうし、南、もしくは南西の海から迂回しようとしても、まだアーロンたち騎士団が捕虜の処理中だろう。となると西門一択か。


「ふう」

 息を吐いて、身体を捻ってみる。

 うん、体調は最悪でもないし最良でもない。魔力はフルチャージ状態から比較すると半分くらいだろうか。

「―――『加速』『隠蔽』」

 周囲に人がいないのを確認してスキル発動。ゆっくりとギルドの受付へ向かう。

 何だかすっかりギルドで野営している不思議状態に慣れてしまったというか。

 受付に待機している冒険者たちは、とりあえず船団による大規模攻撃が終息したという安堵からか、弛緩しきっている。まだ北門で睨み合いが続いているんだけどなぁ……。


 王都の第四騎士団が()()()謳っているのは、侵略者からの防衛戦への応援、ということなんだけど。

 その本音は、裏情報で、王都騎士団、というか王宮の指揮下から離脱したことがわかっているので、第四騎士団の騎士団長とやらが()()()ポートマットくんだりまで来たとして、それが味方の行動だとは思えない。なにしろ、タイミングよく、プロセア軍の到着に合わせて背後を突く形で、しかも宣言も伝令もなしに登場したのだから。


 この伏兵を動かした黒幕は誰か。フェイはその辺りを推し量っているのかも。まあ、解任直前の宰相の最後っ屁だとは思うのだけど。

 ホント、適任者がいないとか寝言は無視して、今すぐにでも首を刎ねた方がいいんじゃないかなぁ。ロクなことしないよ。王都や王宮はそれでもいいかもしれないけど、実際に被害にあってるのはポートマットなんだよね。自己中心的に物事を進めないと施政者にはなれないものなのかな……。


 ギルドの建物を出ると、東の空が黒く染まろうとしている。西の空はまだそれなりに明るい。

 焦げた女騎士の銅像がちょっともの悲しさに拍車を掛ける。

 ごめんね、帰ってきたら直すからね。

 銅像に軽く触り、心の中で話し掛ける。

 と、銅像がこっちを向いた。

 うわっ!


『タロス00とリンクしますか はい/いいえ』


 驚いて尻餅をつくと、リンクを問うウィンドウが表示されていた。

 はい、を選択しないわけにもいかず、女騎士像とリンクをする。


 リンクしてなるほど、と思ったのは、この『00』は、大型の、本来のタロスの試作モデルだったということだ。

 材質は見た通りの銅。

 緑青が少し浮いているけど、誰かが毎日手入れをしてくれているのだろう。表面の状態は悪くない。内部構造にもガタはきていなかったし、ちゃんと銅製の人型を模した人形として機能しそうだ。


 うーん、勢いでリンクしちゃったけど……。

 んっ、暑くなってきた。『隠蔽』の限界時間が近い。

 急いで『ステルスウナギの革鎧』に着替えて『不可視』を発動、『隠蔽』を解除する。

 ふう。一息吐けた。


 とりあえず、だ。

 この騎士像を使って、北門の連中を揺さぶってみるかな。

 王都第四騎士団全員がポートマットを攻めにきたという、国の裏切り者であるなら、馬上の乙女騎士(銅製)が成敗してくれよう。

 ってストーリーで行ってみるか。


 ロータリーからの距離はちゃんと測っておかないと、あとで自動で戻せなくなっちゃうな。

「銅像が!」

「なっ? 動いてる!」

「奇蹟だ!」

 ロータリー前にいた冒険者たちが口々に叫んでいる。もしくは口を開けている。

 私は00に北上を命じた。


 00は速歩(トロット)で歩き始める。馬上の女騎士はちゃんとバランスを保っていて、この辺りに製作者の拘りを感じる。

 私は不可視を保ったまま、銅像の後を付いて走る。

 北門まで来ると、北門にいた全員の視線が、集まり、すぐに驚愕に彩られた。そりゃ驚きもするか。


 00には一旦停止を命じる。

「何で銅像がここに?」

「いま、走ってきたよな……?」

 タロス01、02ともリンクを回復、魔力を少し注入する。

「巨人も動いたぞ!」

「巨人から離れろ!」

 フェイがキョロキョロしながら厳しい表情をしているのが見えた。


 タロスの操縦はアリバイになるはずだ。半自動で動かせることを知らないはずだから。

 だって、BASICみたいな言語で動かしてるなんて、この世界の人間が思い付くはずがない。だから、このタロスシリーズ全般は、元の世界に関係した人物が作り上げたのだろう。

 いまはその出自については置いておくとして、とりあえずは威嚇しよう。


 00を常歩にして、ゆっくりと王都第四騎士団の正面へ向かわせる。

「なんだ?」

「銅像だと?」

 歩み寄ってきた騎士が銅像であることに、騎士団は驚き、手を出せずにいる。

 いきなり接近してきた敵性の銅像に、恐怖の感情が高まっているのだろう。兵士たちの中には震えている者もいる。


 緊張が一帯を支配する。その中心は、この歩いている銅像だ。

 瞳のない女騎士が、中央にいる騎士団長を見つめる。

 銅像なのに、意思を周囲に伝播させたのだ。今からお前の首を取りに行くぞ、と。


 カッポ、カッポ


 銅の馬はゆっくり歩みを続ける。

 タロス01、02は三歩前進すると、そこで仁王立ちになり、静止した。

 00は第四騎士団に近づき、兵は手を出せぬまま、陣形を真っ二つに割る。

 膠着していた時が動き始める。

 ちゃんと蹄の音がするのが面白いな、なんて思いつつ、少し離れた位置から00を操作する。


 ざわつきは消えて、第四騎士団はおろか、対峙している冒険者第一班、第四班も成り行きを静かに見つめている。

 曇り空が一瞬晴れて、西の空から赤い太陽が馬上の女騎士を照らした。

 そして、馬が騎士団長とおぼしき人物の前に立ち、止まった。


 騎士団長は震えている。

 こんな得体の知れない事があってたまるか。

 そんな顔だ。


「タ チサレ」


 うーん、上手く喋らせられないな。長文は難しいか。

「なにっ?」

 銅像と会話してる騎士団長。伝説になるよ?

「コクゾ ク ハ タチサ レ。コ コハ。ポートマット、ダ」

 よし、01と02、五歩前進、と。


 ズン、ズン


 タロスの威圧感が、夕陽に照らされて倍増。ウフフフ。

「うわあああ」

 恐怖に駆られた騎士団の前衛、後衛が慌てて北上していく。

「慌てるな! 魔法隊! デカブツに攻撃せよ!」

 騎士団長が叫んだ。

 よし。ついに攻撃の意思を見せたようだね。待っていたんだよ、それを。誰も彼もが。


 02を前進させ、盾を構えさせる。

 第四騎士団の魔術師が放った火系魔法が、02の展開した魔法盾に阻まれる。

 01が、魔法隊のいる場所に矛を投げる。大質量の矛が魔法隊を吹き飛ばし、小さなクレーターを作った。

「セ イギ ハ ワレニア リ」

 00を突進させ、持っていた銅剣で騎士団長の肩を切った。

 転んだところを馬で踏み抜く。足を中心に。

 馬に騎士団長の身体を咥えさせて、そのまま、ズルズル、と北門方向へ引きずる。騎士団長の足が明明後日(しあさって)の方向に向いているけど、知った事じゃない。


 01は矛の回収、02はさらに前進、追い立てる。

 00は咥えていた人物が捕縛されるのを確認して、ゆっくりロータリーへ戻るようにプログラムを組む。

 よし、実行(RUN)と。

 あー、BASICなんてうろ覚えだなぁ。


 第四騎士団がちりぢりになる前に、01が左側、02が右側、中央からセドリック隊で押さえ込みをかける。


 う お  あお あお お あ

 ああ  お あ あお


 01と02が威圧を強める。第四騎士団の逃げ道は、街道を王都に向かうしかない。

 しかし、その逃げた先には――――――。


《止まれ! 我々は王都第一騎士団である!》

 王都方向から現れたのは、第一騎士団だった。風系の魔法で、広範囲にファリスの声が通った。


 町の方向から、フェイがゆっくり歩いてくる。

《……こちらはポートマット冒険者ギルド支部長、フェイ・クインだ! ……王都第四騎士団は、我々に攻撃の意思を見せた。……第一騎士団は何用でこちらに参ったのか、お聞かせ願いたい!》

 これも風系魔法で、『拡声』はフェイの十八番。


《私は王都第一騎士団長、ファリス・ニコライ・ブノアである! 我々は行方不明の第四騎士団を保護を目的に当地に赴いたものである! 戦闘の意思はない! ポートマットの住民には我が第四騎士団の保護に協力を頂き、感謝の念に堪えない! 第四騎士団の諸君は、我々の保護下に入って頂きたい!》

 保護、と来たか。


 さて、フェイはどう出るのかな? ファリスとの間に打ち合わせがあったのかどうかは、サーバの記録を見ればわかるだろうけど、教会を出るまでの間にはそういうやり取りはなかった(ファリス自身は端末を持っていないので、するならザン経由ということになるだろうけど)。

《……そちらにお任せする。……当方で第四騎士団長、ランド卿を保護している。……所定の手続き後、そちらに引き渡したい!》

 全く何もなかったことにはしないぞ、ということね。最低でも原因と責任者の処分、そして補償の話になるだろう。


《了解した! 担当の者をそちらに送る!》

 ファリスは馬上にあっても目立つ。黒みがかった金髪にピン、と張った背筋。良い男だなぁ……。おっと、00は元の位置に戻ったかな。01と02に指示を与えて、この場は退散しよう。王都方向へね。



――――スタコラサッサ……。





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