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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
迷宮を掌握する勇者狩り少女は巨人を操る土木作業魔術師兼魔道具製作者兼鍛冶師でガラス職人かつ道具屋従業員で、その正体は変な名前の、見かけより体重の重いドワーフである
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冒険譚の語り部


「こっ、これが盾だっていうのかい!」

 盾を手にしているカレンが口を開けている。アルビオン整備兵のお姉さんみたいなリアクションにニヤリとする。

「ええ、まあ……」

「ほわ~」

 十五人の少年少女も、馬鹿が付くほど大きな盾を見上げて口を開けている。


「最初は優しく動かしてあげてください。この突起で方向を指定します。こちらの突起を押すことで風の噴出をさせたり、止めたりができます」

 うん、これ、デ○アルショックのコントローラーを半分に切った形状、そのもの。左手一つで操作できるようにしたかったから。

 アナログコントローラーの他のボタンは、浮遊状態オン、長押しでブースト。ジャンプ(浮遊状態強)、これも長押しでブースト。消費魔力を考えて、ブーストは五秒以上できないようにしている。浮遊状態は切らない限りは続くので、断続的にブーストすることで移動は楽になる。基本的にホバークラフトなので、水上も移動可能。ただし水に落ちたら引き上げは多分無理。


「おお~こりゃ面白いな!」

 カレンがキャッキャ言っている。その他、『魔法盾』と『障壁』の魔法は一セットにさせてもらった。仕様上はどちらか選択して発動できるのだけど、恐らく操作する人が追いつかないから。ジャンプボタンを押している時に『魔法盾』セットを発動すると、正面、上部、左上、右上、左、右、の六カ所に同時に展開する。普段は四つの方向ボタンで発動方向を決める。下方に出す場合は、方向ボタンで決めてあげるしかないのだけど、おそらく使わないと思う。

「その突起の組み合わせで行動が決められます。使い勝手が悪かったり、ここは変更したい、とがあれば言ってください」

「おおっ、大切にするさ! ところで、この盾の名前は?」

 |ガン○ム開発計画二号機《GP-02A》の耐核仕様冷却盾…………。

「じゃあ、『風神の盾』で」

 ああ、無難な名称を選んでしまった私の馬鹿。せめて冒険者ギルド持ちだから代金は吹っ掛けよう。


「ふふふっ、ふふふっ」

 カレンはセ○ウェイに初めて乗った人のように、演習場をクルクルと回っている。ちょっと放っておこう。


「皆さんはどうですか? 動きには慣れてきましたか?」

「ああ~」

 と、そこにカレンが突っ込んでくる。けども、逆方向に噴射をしてピタッと止まる。おお、いいセンスしてる!

「ふう。それは私から説明させてもらうさ」

 この大柄なカレンを以てしても、盾が喋っているようにしか見えない。

「集団で同じ方向に槍を向ける。ってところは息が合ってきたね」

 話をするにはさすがに邪魔だと思ったのか、カレンが風神の盾を自分の『道具箱』にしまう。急に演習場が広くなったような錯覚に陥る。


「カレン教官、この動きにはどういう意味があるんですか?」

 ラルフ少年が物怖じしないでカレンに訊いている。まあ、物語とかだとブートキャンプみたいになる訳だけど、たった一日での強化なんて、たかが知れている。せめて十日あれば、とは思うけど、ここであぶれ者になったのも縁というもの。一日でできることで、最大限の効果を出してみようと思う。

「ああ。まず馬な。馬は尖ったものが嫌いなのさ。私を馬だと思って、その槍で牽制してみな。全員で。―――『加速』」


 私は離れて見学することにした。

 カレンと少年少女たちは距離を取っている。カレンが馬並みの速度で突っ込んでくる。その進路が予測される方向に、十五本の槍が、サッと向いた。

「いいね。いい動きだ。ちょっと攪乱するさ」

 カレンはそのまま真っ直ぐ後に下がり、方向を変えて、また突っ込む。これを何度か繰り返した。


 突っ込んでいるカレンの方は涼しげだけど、ただ槍の方向を変えているだけの少年少女たちは汗びっしょりだ。

「いいね、いい動きさ。次は対人間にいくさ」

 対人間、と聞いて、少年少女たちがゴクリ、と唾を飲む音が聞こえる。


 カレンは自分の『道具箱』からボロボロのタワーシールド(先日私が傷つけたやつ)を取り出した。右手にはランス、左手にはボロ盾。

「騎士の恰好してるやつはさ、大抵左手に盾もってるのさ。それでさっき、回り込む練習をしたのさ。左手に回り込む、を意識して、全員で来るといいさ」

 そう言うと、少年少女たちは、カレンの盾の方向に回り込み始めた。盾を持っていない方向に回り込みがちだけど、実は右手に回り込むと、盾が正面に来やすい。よって守りやすいことが多い。

 左に回り込む少年少女、じわ、じわ、と圧力をかけられて、それでもカレンは盾を正面にしようとすると、一瞬、右手側ががら空きになる。

「ここで右を突くといいさ」

「ほぉ~」

 ため息とも感心した声とも取れる声が漏れた。


「ここで正面に構えようとすれば、盾は下がるしかないさ。盾が下がったら?」

「前進する指示が出ていればそのまま圧力を掛け続けます。後退、または牽制のみなら、我々が下がります」

 ハキハキ、と答えたのは細身でそばかすのある、くすんだ金髪の女の子。

「そうさ。よくできたさ。それじゃ、そうやってる間に敵が倒れたら?」

「短剣で鎧の間から刺します」

 これもその女の子。いいね、冷静だけど、実際にやれるかなぁ?


 私はそのやり取りを聞きながら、預かっていた短剣とショートソードの研磨を終える。

「剣返すよー」

 返す際には軽く強化魔法を付与しておく。銅製、青銅製のものは緑青も取ったので、手が緑色になってしまった。

「ピカピカだ~」

 少年少女が喜んでいる。

 で、ここに私は冷や水を浴びせる。


「うん、この短剣は、みんなが敵を殺すための道具です。槍は、実際、遠いところから突き刺すには、向こうの防御の方が上だと思います。だから、槍では人はなかなか死なないと思うのです。地面に寝ている瀕死の兵を突くのも、防具が邪魔して遠くからだと難しいですよね? 近寄らないと駄目ですよね、きっと。ちゃんと防具の隙間を狙って、ザクッとやるには、その短剣が手っ取り早いですよね。私たち冒険者は、本当は人殺しが仕事じゃないんだけど、向こうが殺しに来てるから、守らないと駄目ですよね。だから、敵だと判断したら、迷わないでください。この私が! みんなに人殺しをさせています! 連中の恨みは私が引き受けます。みんなは安心して、私のために敵を殺してほしいです。どうか、一緒に、この町を守ってください」

 ペコリ、とお辞儀をする。


 うおりゃーまもったるぜー! みたいに叫ぶのもアリだと思うけど、私はこういう小狡いやり方しか知らないのだ。

「隊長!」

「小さい隊長!」

「小隊長!」

 いやまあ、小隊長には違いないと思うけど……。


 ラルフ少年は涙を溜めて上を向いているようだ。なんだい、目の幅の涙でも流すのかい。

「じゃあ、夕食作りましょうか。私たちの駐屯地はここなので、ここで寝泊まりします。ええと、ラナ隊員、全員を連れて、厩に行って、藁を貰ってきてください。使っていない、乾いたやつね」

 私はラナ―――そばかす金髪の子に指示を出した。たぶん、この子が一番しっかりしてる。

「藁―――ですか?」

「そうです。それが我々のベッドなので」

「あはは、私も手伝うさ。楽しくなってきたさ!」

 カレンが笑って、皆についていってくれた。必要ならラナのフォローをしてくれるだろう。


 私はその間に演習場(ここは歯だとか骨だとか色々落ちてる)の土を盛り上げて竈を作り、適当に魔法陣を地面に描いて点火をした。鍋に水を入れて火にかける。

 泥スープ二号は野菜の皮も剥いて、塩味ではなく味噌味に。ダシはクマー干し肉のままだけど。野菜に関しては、芋を衝動買いした時の余りがまだまだある。あと十日は耐えられる。

 皆が藁を抱えて戻ってきて、各々のベッド(笑)を整える。


 藁が整え終わる頃にはスープが出来上がった。

「煮えたよー」

 各人に黒パンを配って泥スープ二号も配膳する。

「うめぇ……」

 よかったねぇ、杉村くん。


 初級の冒険者って、あんまりロクなもの食べてないんだろうか。

 食事をしながら、その辺りを聞いてみる。

「依頼達成のお金が入ると、それで食べられる一番贅沢なものを頼んで食べて、翌日は黒パンを囓る生活」

 だそうな。刹那的な暮らしなわけね。


「アタシも最初はそうだったさ。でもさ、ある時目標を見つけたのさ」

 おー、出た、上級冒険者の語り。実体験に基づく冒険譚だから、これが面白くないわけがない。

 みんな食い入るようにカレンの話を聞いている。


「ドラゴンが間近に来てさ、もう駄目だーと思ったらさ、ダークエルフの盾持ちの人がさ、『……こっちだ』とかドラゴンに囁くように挑発してさ」

 んー、その挑発はどこかで聞いた事があるなぁ。

「そうしたら盾かっけー! って思ってさ。それからさ。盾の練習しだしたのはさ」

「ほぉ~~~」

「た、隊長はそういう話はないんですか?」

 ラナたん(と命名。別にカエルっぽいわけではない)がおずおず、と訊いてくる。

 えー、私の冒険譚………?


「うーん、採取してたらいつの間にか上級になってたしなぁ……」

「採取、ですか……」

 私の話は、血生臭い話は話せないし、爽やかな話はつまらないし……。


「魔法使いって、ドーンとやっちまいましたー! みたいな話が多くてですね。対魔物でも、対人でも、あんまり向こうに原型が残っていなかったりしましてね……」

 全員がうわあ、という顔をした。いかんいかん、冒険譚でカレンには勝てないとわかっていても、引けない時もある。もっと派手な話をしなければならないのだ!


「可能な限り新鮮な内臓を採取する、という依頼がありまして。みなさんタマスは見たことがありますか? そうです、気性が荒いくせに逃げ足の速いアレです。あれを倒そうとした時のことです――――」


 水で筒を作って内部を空洞にして、光線を発射してみました、と簡単に言ってみた。皆はその状況に想像が付かなかったらしく、はあ、とかへぇ、とか生返事だった。


「それで、発射した後はどうなったんですか?」

 ラナたん真面目だね。ちゃんとフォローしてくれるね。良い子だね。

「タマスの頭に綺麗な穴が空いて、自分の手は炭になって」

 えっ、と全員が声を出した。

「すぐに治しましたよ? 動かしたらポッキリ行きそうでしたし」

 慌てて自分の話にフォローを入れるけれど、全員がどん引きなのは感じられて、余計にフォローに失敗して、生暖かい視線を、逸らされた。

 くっ………。

 歯噛みをしている私の肩に、カレンがポン、と優しく手を添えてきた。


「お嬢ちゃんの話は極端過ぎるのさ……。そんなお嬢ちゃんと先日、ここで模擬戦やった時のことさ……」

 カレンはフォローのつもりか、すぐに次の話を被せてくれた。


「―――――お嬢ちゃんの黒いメイスが、一回、二回、三回! 私の盾が削れていくのさ! その時の盾がコレさ! ああ、これはやばい、多少でも反撃に出ないと! でも、こっちから攻撃したら、その動きの隙を突かれてやられる! って思ったさ。そこで攻撃するフリをしたのさ。―――――一瞬だけ、お嬢ちゃんの攻撃が止んだのはいいんだけど、怒ったのがわかったさ。ここだ! と思ったさ。ここで前に出ないと勝機はないと思ってさ―――――」

 ふんふんふんふん、皆の鼻息が荒い。

 なんだよー、カレンの話が上手すぎるんだよー。


「―――そこで出てきたのが何と、水系の最上級魔法って言われてる『水姫』だったのさ! 水姫はそりゃー綺麗な魔法でさー、そんな美しい人魚姫が、すごい勢いで迫ってくるのさ。もう耐えられない! でも踏ん張ろうとしたんだ!」

 ゴクリ、と皆が唾を飲む音。

「………アタシが最後に見たのは、水姫の無表情な顔だったのさ……」

 おお~。と一同。

 あー、全く楽しいなぁ、もう!


 カレンの冒険譚に一区切りがついたところで、就寝となった。物作りでかなり魔力を消費していたということもあって、藁のベッドでもグッスリ眠れそう。



――――クラ○が立った夢を見た。





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