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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
迷宮を掌握する勇者狩り少女は巨人を操る土木作業魔術師兼魔道具製作者兼鍛冶師でガラス職人かつ道具屋従業員で、その正体は変な名前の、見かけより体重の重いドワーフである
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防衛隊の編成


 冒険者ギルドの受付ホールには、ポートマット所属の冒険者たちが群れていた。

「結構いるんだなぁ……」

 二百~三百人はいるだろうか。


「義勇軍に参加希望の方は、こちらに並んで受け付けをお願いします!」

 ベッキーが声を張り上げて、受付に並ぶように促している。ええと、受付は継続中、説明会は夕方から、だそうな。

 私もその列に並ぼうとしたら、ベッキーに気付かれた。手招きされて近づくと、耳元で囁かれた。

「支部長室へ行ってくださいな。支部長が呼んでるわ」

「わかりました」

 私はどうやら(当たり前だけど)強制参加らしい。フェイが私に用事があるというのも別に珍しい話じゃないし、防衛隊編成にあたって事前に話しておいた方がいい案件も多いのだろう。


 受付の側を通り、支部長室に到着すると扉を慎重にノックをして、返事を待ってから開ける。

「……入ってくれ」

「失礼します」

 私が入るなり、即座にソファに座ることを強要される。

「……まずは……これを」

 と言って渡されたのは腕輪だ。赤い中級魔核が七つ埋め込まれている。台座はミスリル製かな?


-----------------

【操神の腕輪】

『タロス』を支配下に置く。所持には資格が必要。

-----------------


「何ですか? これ?」

 鑑定で見てみろ、と促される。いや、見てもわかんないんですけど……。

「タロスとは?」

「……恐らくは、港にある、アレだ」

「ああ!」

 盾と矛を構えた金属製の巨人か。タイタンとかジャイアントとかじゃないのか。ギリシャ語っぽい? これはアレだね、ティターンとかギガントとかゴリアスって付けたくなかったんだね。ネーミングに苦労しちゃったんだね。港で見た時には別に踵に釘は刺さっていなかったみたいだけど。


「……アレが動くところは私も見たことがない。……その腕輪で操縦できるらしいが、動かせた者はいない。……ぶっつけ本番で悪いが、お前が試してみてくれ」

「まあ、確かに、こういうドサクサの時でもないと動かせませんよね……」

 平時に動かしたら、大混乱だろうなぁ。いやいや、戦闘が行われているところでも大混乱だろうけど。動かす理由はあった方がいいか。

「……別に動かせなくても構わん。……脅しになれば十分だ」

「わかりました。お預かりします」

 道具箱には入れず、そのまま腕輪を付けてみた。


「んっ………」

 何かウィンドウが開いた。えーと、何か書いてあるな。日本語ですか。『たろすのうごかしかた』………んんん、全部ひらがなで書いてあるな。もの凄く読みにくい。ああ、もう、後で見よう。

「……?」

「………………いえ、何でもないです」

 ここでフェイに何か言っても混乱するだけ。私が消化して理解しないと説明も不可能だ。


「……もう一件ある。……同報発信のやり方を教えてくれ」

 同報メールね。さすがは元の世界の住人。そこに気付くとは。

「ああ、はい。支部長の『端末』からは、宛先を『全部』で発信すれば、ポートマットに存在する全部の『端末』に送れるようにしておきます」

「……うむ。……この後、すぐにでも頼む」

「了解しました」

 元の世界でいうメール宛先の、CCとかBCCみたいなやり方は、全員にやり方を教えてある。慌てない限りは機能すると思うけど……。

「わかりました。この後は上級冒険者の方々がここに集合ですか?」

「……うむ。……順次通してもらっている」

「はい、じゃあ、サーバの設定に行ってきます」


 フェイの返事を待たずに、支部長室を出た。サーバ室へ向かい、管理者権限で部屋の中に入る。

 一応、オンラインヘルプっぽいのはサーバに入れてある。もの凄く読みにくいけど、さっきの『オールひらがな』よりは、ヒューマン語だし、読みやすいはずだ。それより、フェイが全端末同報に気付いていたのが凄い。あんまり説明しなかったんだけど。


 フェイからの短文は、宛先を『全部』にしておくと、サーバ側で選択されている番号(各端末は通し番号が付いている)の端末に一斉送信される。ついでに、フェイからの短文は太字(ボールド)になる。

 ポートマットサーバの管理下にあった二十台(ボリスが持っていて回収した『端末』も含む)に加えて、カレンとシェミーの端末番号を対象にしておく。

 ―――という設定にしておいた。ついでにサーバ管理者からのお知らせとして、同報通信、CCのやり方も、再度流しておく。情報の共有が捗るといいな。


「よし」

 サーバ室を出て、支部長室へ戻る。扉の前で、受付業務から離れたのか、ベッキーと合流した。副支部長だものね……。

 あー、ブリジットとエイダに短文送っておこう。『依頼の品が完成しました。ギルド便で送っています。そろそろそちらに着くかと思います。私は元気です。アレの対応に追われています(意訳)』と。


 二人からはすぐに返信があった。『こちらも別件で招集されそうです。今さっき、新武器が届きました。製作ありがとう、とても嬉しいです(意訳)』だそうな。

 喜んでくれてなにより。間に合ってよかった。


 支部長室に戻ると、そうそうたる面子が揃っていた。


『微笑み』のセドリック。

『惨殺』のクリストファー。

『陸亀』のカレンは本部付け、出向中の身。

『輪切り』のスタイン。

『活け作り』のトルーマン。

 と、私。以上六名が上級冒険者。シェミーはまだ帰還していない。


 スタインとトルーマンは例の『シーホース』所属で、このスタインがリーダー、トルーマンが副リーダーのはずだ。それにしても、この二人の二つ名はどうなんだろうね……。ちなみにスタインは四十歳手前のヒューマン。ガッチリした体躯と細く鋭い目が印象的。盾スキルが目立って高い。トルーマンは逆にヒョロッとして目がパッチリしている。細剣のスキルがそれなりに高いけど、上級だからと言ってスキル的に凄い、とも限らないので、事務畑の人なのかもしれない。

 もう先入観バリバリ込みで言うと、シーホースの二人は何かを企んでいるようにしか見えない。いやもう絶対企んでるね。決まってるね。


 騎士団からアーロンとフレデリカ。と、それぞれの副官。ジェシカと、グスタフの後任者(グスタフは収容所所長になる予定とのこと)でモクソンという若い男性。


 商業ギルドからトーマス。職人さんや一般のお店の統括ということらしい。

 港湾事務所からジェイク。白髪混じりの爺さんだ。目つきが鋭い。ポーションの納品に何度も行ってるので面識がある。

 漁協から副会長のモーゼズ。日焼けした肌のナイスガイだ。男臭い。

 聖教会からはユリアン司教。神妙な表情をしているけど、内心は窺いしれない。

 領主であるノーマンは顔を出しておらず、代理出席なのか、息子のアイザイアがいた。

 これに加えて中級冒険者が二十人ほど。あれだけ冒険者がいたのに、中級ってこれだけなのか……。エドワード、シド、ルイスの顔も見える。


「遅れました。トーマス商店のドロシーです」

 遅れて入ってきたのは、なんとドロシーだった。

「……よし、まずは中級、上級冒険者の諸君と関係者の打ち合わせを始める」

 フェイの一声で、会議が始まった。全員立って聞いている。


「……この面子は、初級以下の冒険者を統括する面子でもある。……現在、初級以下の冒険者は受付中だが、経験の浅いものは志願であっても安全のため除外をしている。……採用された初級の冒険者は大きく二隊、連絡用に一隊、合計三隊に分ける予定だ。……第一班、セドリックとルイス。……第二班、クリストファーとシド。……四人で話し合って、他の中級冒険者を二つに分けてくれ。……攻撃可能な魔術師も二つに分けてくれ。……あとは、それぞれ中級冒険者たちがパーティーリーダーとなって初級の冒険者たちを拾う形にしてほしい。……エドワードは連絡用に『加速』持ちを十人ほどを選抜して、それを三班目と呼称する。……スタインとトルーマンは……『シーホース』単独の方が動きやすいな? ……アイザイア氏とノーマン子爵の警護と、庁舎の防衛を頼む。……警護の計画は以前に話した通りに」

 そこでフェイはアーロンをチラ、と見て、アーロンが頷いたのを確認してから話を続けた。

「……騎士団は四隊に分ける。……騎士団第一隊はアーロン・ダグラス騎士団長、第二隊はフレデリカ・フォレスト副団長。……魔法隊は第一隊に振り分ける。……バリスタも第一隊が管理してくれ。……これも事前の計画に沿って頼む。……三隊目、四隊目はそれぞれ五名程度で編成して、西門と北門の監視と各所の連絡に当たらせてくれ。……では部隊の配置を言うぞ」


「ええと、私は……?」

 取り残された感がある私とカレンの配置について、恐る恐る訊いてみる。

「……お前とカレンは予備戦力だ。……冒険者ギルドに待機だ」

 私とカレンは黙って頷いた。


「……敵の上陸地点が未だ不明のため、迎撃地点は流動的にならざるを得ない。……連絡を取りつつ、指示に従って隊を動かしてもらうことになる。……冒険者第一班と騎士団第一隊は町の南側、埠頭奧に配置。……冒険者第二班は東通り出口付近に配置。……騎士団第二隊は南西側漁港付近に配置とする。……部隊長が複数いた場合は、騎士団からの指示を優先とする。……セドリックとアーロンならアーロンの指示を優先させる。……これは多数の人間で構成される部隊の指揮経験の差からそう決めている」

 なるほど、指揮系統の競合(コンフリクト)対策ね。


 聞いた感じ、フェイは南側が戦場になると踏んでいるのか。一番上陸しやすい地点ではあるけど、一番迎撃しやすくもあるんだよね。

 過去の大陸からの侵攻は、ほとんど東側からの侵攻で、一番海峡の狭いところ―――カーンではなくダンケの港から出発している。侵攻の時期が初春と言えるこの時期ではなく、もっと夏に近い、もしくは夏に襲来する。冬から春にかけては潮流が不安定で、無理に渡ろうとすれば船団はばらけてしまう。それこそ上陸前に各個撃破されてしまうほどに良いマトになるだろう。


「……各隊長には事前に話をしていたな。……基本的にはその通りに動いてくれ。……なお、防衛本部は、この冒険者ギルドの支部長室、本部長は私が務める。……市民の避難は、商業ギルドのトーマスに指示を出してもらう。……港、漁協はその下に入ってもらうぞ。……教会は逃げ遅れた市民の保護を頼む。……ただし危険を感じたら指定の場所へ逃げてもらって構わない。……なお、トーマスへの連絡は直接でもいいが―――」

「ドロシーです」

 トーマスがドロシーの肩を抱いて、再度名前を告げる。

「……トーマスが動けない時は、ドロシー嬢を中継してくれ。……ドロシー嬢に『端末』の設定をしてやってくれ」

 フェイが私を見る。

「わかりました」


 私はドロシーに近寄って、その手を握る。

 汗をかいていてヒンヤリしていた。震えも感じる。

 ドロシーが私を見つめる。その目には不安が一杯浮かんでいた。おそらくはこの部屋の中で最年少(私を除く)だろう。普段のお姉さんぶった虚勢も張れず、年齢相応の緊張が掌から伝わる。

 私は掌を握りながらも軽く揉んで、ドロシーの肩を抱く。


「……以上だ。……冒険者組は演習場の方へ移動してくれ。……到着次第、隊の編成を始めてくれ」

 フェイのその言葉で解散となり、冒険者組は演習場へ移動していく。

「お嬢ちゃん、編成手伝ってほしいっす」

「―――ウチもだ」

 私が『鑑定』持ちなのを知っている二人から声を掛けられる。勘違いされがちだけど、『鑑定』はスキルまで見ない。『人物解析』じゃないと見られないんだけど、説明するのも面倒なので、二人を見て、無言で頷いておく。

 アーロンとフレデリカも退出しようとしていたけれど、二人からも目礼された。特にフレデリカはちょっと涙ぐんでいるので、軽く微笑みを返しておいた。


 ドロシーの端末を設定し終わると、汗ばんだ掌に渡す。

「これがドロシーの『端末』ね」

 基本的には文字でやり取りする『手鏡』である、と説明しておく。

 しかしなぁ。ドロシーが駆り出されるとは思わなかった。連絡係とはいえ、ドンパチとは離れたところにいてほしかったんだけどなぁ……。こんなことなら事前にドロシー用に端末を設定しておけばよかった。


「はい、これでいいよ。文字打ってみて。『トーマス商店のドロシーです。よろしくお願いします』みたいなの。まだ時間あるから、それまで触ってるといいよ?」

「うん―――」

「大丈夫、ただ連絡を手伝うだけだよ。ああ、水晶は持ってる?」

「あるわ」

 ドロシーが自分の『道具箱』から薄桃色の水晶の塊を出してくる。

「それを握っていると、安心できるよ」

 多分ね。こういうときは思い込み、プラシボー効果でいいから落ち着く要素が欲しい。


「集まってくれ―――」

 トーマスが避難指示を出すために、ジェイク爺さん、モーゼズ、ドロシーを呼んでいた。

「いこう、お嬢ちゃん」

「はい」

 セドリックに促されて、ドロシーを目の端で追いながら、演習場へ移動する。



 演習場には二百人近くが集まっていた。

 義勇隊として志願したものの、経験不足、戦力不足を理由に百人ほどが振り落とされたのだ。自分の身を守ることができる、というのが大前提だから、この措置は双方に必要だった。その振り落とされた百人の方は、ギルドに残り、戦力にはならないものの、留めておくそうだ。

「野盗化を防ぐ意味があるのと、兵站の補充に動いてもらうわ」

 演習場にいたベッキーが説明してくれた。


「お嬢ちゃん、頼むっす」

「―――頼む」

 二百人の振り分けの基本は………。もう能力別に分けてしまおう。

 狭いけれど、一度南側の端に集めてしまう。魔法攻撃スキルがあって、実用レベルなら北西の角。防御力があって盾として使えそうなら真北、それなりに近接攻撃能力を持っているなら東北の角。治癒スキルに秀でたものは真西(ちなみに真東が演習場の入り口になる)。未分類は保留。

「あなたは北西ね。あなたは北」

 ベッキーの裾を掴んで、ベッキーに合図を送り、ベッキーに振り分けをしてもらう。得体の知れない私がやるよりも説得力がある。『ギルドのお母さん』に言われて文句は言えないだろうとする計算が働いたのだけど。


「はいっ!」

「はい、がんばります!」

 スムーズに振り分けが出来ていく。私に『鑑定』スキルがある、というのを吹聴したくなかった苦肉の策なんだけど、士気は上がってるみたいで良かった。

 あとは未分類の処遇か。


「エドワードさん、ちょっとお願いします」

「はい!」

 エドワードがベッキーに言われて駆け寄ってくる。

「この十名でいいですか?」

「はい。加速持ちですね」

 実は全員が加速持ちということではない。『加速』スキル持ちになるのが初級と中級の境目、と言われる。彼らは初級だけども、彼らの少ない持ちスキルから類推して、『加速』持ちになりそうな人物を選んでみた。曰く、攻撃力も防御力もないけど、すばしっこい、と評されるような人物だ。

「はい、全員が加速持ちではありませんが、(すばしっこい、逃げ足の)才ある者たちです」

 才ある、とベッキーに言われたものだから、この十人は顔がほわわわん、とふやけた。


 残りの未分類は十五名。

 あれ?

 その中に腹ぺこ(ラルフ)少年がいるじゃないか。相変わらずボロボロだけど何とかやってるってところかな。へえ、選抜されたのか。重畳ってものだねぇ。


「この子たちはどうするの?」

 ベッキーが小声で訊いてくる。

「ちょっと考えがあるので、保留のまま待機させておいて下さい」

「わかったわ。…………あなたたちはそのまま待機をお願いね?」

「あ………はい………」

 如何にも余り者の集団だからなぁ……テンションも下がるよなぁ。私はベッキーに小声で言って、それを伝えてもらった。

「あなたたちには別の特殊な任務をお願いする可能性があります。だからこのままここで待機をお願いね?」

 言い直された結果、余り者集団の頬に赤みが差した。うん、言い方次第なんだなぁ……。


 先に振り分けた面子は、ほぼ百人ずつ、二隊に分けられたようだ。

 魔法攻撃、治癒、防御、近接攻撃と、バランスのいい中隊規模。それぞれ小隊長もいるし、正面からやり合うなら、かなり精強ではなかろうか。


「われわれーポートマットの冒険者はー!」

 そこに、セドリックが普段の口調ではなく、大声で叫んだのが聞こえた。

「―――自由のために戦う!」

 クリストファーが叫んだ! 結構レアな姿だよなぁ。

「侵略者を許さないっす!」

「―――侵略者を許すな!」


 うおおおおおおおおお!


 二百人からの冒険者がシュプレヒコールの声を上げた。これが数日後には鬨になりますように。


 で、テンションの上がりきったセドリックとクリストファー、エドワードに声を掛けて、集まってもらった。

「えと、あそこの十五人、私が使います。いいですか?」

「お嬢ちゃんに任せるっす!」

「―――任せる!」

「あ、うん、いいんじゃないかな!」

「ありがとうございます。支部長にはこちらから伝えます」

「任せるっす! 第一班、先に出るっす!」

 すごいテンションだなぁ。第一班の皆さんも、うおおーと反応した。もはや一つの生物。


「―――第二班は第一班が出たら現地へ向かう!」

 クリストファーも負けじと、抑え気味だけども高い士気のまま、第二班に向かって叫んだ。

「第三班は説明がある。俺に付いてきてくれ!」

 エドワードも叫ぶ。けど、他の二人に比べたらまだ冷静、かな。


 最長で接敵まで四日はありそうだし、エドワードの冷静さの方が今は安心感がある。

 海流の関係もあるけど、最短でも二日はあるんだし、今からこのテンションでは先が思いやられるというもの。


「嬢ちゃん、アタシらはどうするのさ?」

「そうですねぇ、ものすごく付け焼き刃なんですけど――――」

 余りにも言葉通りで内心笑ってしまう。

「まだ最短でも二日あります。一日、彼らを鍛えてやってはくれませんか? 怪我などは死ななければこちらで治療しますので、ギリギリまでやって構いません」

「ほう………」

 私とカレンの視線がギラついたのを敏感に感じ取ったか、十五人の余り者集団はビクっと身体を震わせた。


「じゃあ、私は支部長のところに戻るわ。第四班新設については、支部長に言っておきます」

「はい、よろしくお願いします」

 私よりベッキーに言ってもらった方がいい。ワンクッション置くことは重要だ。


「じゃあ、すみません、えと、この部隊は、多分、『第四班』ってことになります。隊長は―――」

「お嬢ちゃんがやればいいさ。その方が面白そうだ」

「わかりました。まだ隊の創設も承認されてないでしょうけど、拝命しちゃいます。よろしいでしょうか、みなさん」

 十五人の表情は、一言で言えば困惑。

「いっ、いいと思うぜっ」

 ここで声を上げてくれたのが腹ぺこ少年、ラルフだった。

「この子は……俺にパンをくれたんだ」

 ああ、餌付けの結果なんですか。

「そうか……パンをくれたのなら悪い子じゃないな!」

「お、おう! 俺たちが守るぜ!」

「私も守るわ!」

 あれっ? 私が守られポジションに? 今度は私が困惑する番だった。

 カレンは苦笑して、

「ところで、この部隊はどういう運用をするつもりなのさ?」

 と訊いてきた。

「牽制と威圧ですかね」

「うーん、じゃあ槍だな」

「そうですね」

「あー、みんな自分の持ってる武器を出してくれ」

 カレンがそう言うと、十五人の少年少女(五名が女の子だった)は、それはそれはみすぼらしい武器を取り出した。


「むう」

 カレンが唸る。私は想定していたので驚きはない。

 十五人のうち、長剣を持っていたのはラルフ少年だけ。あとは全員が短剣、ダガーじゃなくてナイフ……だった。

「うん。いいじゃないですか、ナイフ。全員、それ貸してください」

 ニッコリ笑ってナイフを回収する。鉄製、銅製、青銅製。古くて錆びてて緑青が浮いてるのもあったし、切れ味も悪そう。ついでにラルフ少年の青い剣(緑青が浮いてるから青い剣だったりする)も回収。


「じゃあ、カレンさん、私は鍛冶場にいます。騎士団を相手にするイメージで練習させてみてくれませんか?」

 演習場には槍代わりの棒がある。練習にはなるだろう。

「んっ? 騎馬相手にってことか?」

「騎馬と、全身甲冑の相手に、です」

「ほう………」

 カレンは少し考えてからニヤリと笑い返してきた。

「なるほどね……その方向で鍛えてみるさ」

「はい、お願いします」


 私の想像が豊かすぎるのかもしれないけれど、別口の侵略者が来る気がしているのだ。それは北からやってくるだろうし、馬に乗っているだろうし、全身甲冑を着込んでいることだろう。杞憂であるといいんだけど、カレンが私の想像に気付いたことからも、ありえる話ではある、くらいには思っていたのだろう。

「あとは任せてほしいさ」

 カレンは、筋肉で分厚い胸を、ドン、と叩いた。頼もしいぜ、姉御!


 鍛冶場にいく途中でフェイに会った。

「……第四班、認めよう。……多分、その想定はあり得る。……王都第四騎士団が行方不明だそうだ」

「やはり……」

 ザン経由の話だろう。ということは、情報の出所は第一騎士団のファリス辺りか。

「この情報はポートマット騎士団の北門、西門担当にも伝えた方がいいですね」

「……アーロン経由にして情報を送ることにする。……お前は?」

「ちょっと鍛冶場へ。連中の装備を何とかしないと」

「……わかった。……いつお前を投入する事態になるかわからん。……動ける準備だけはしておいてくれ」

「了解しました」



――――一気に物事が進んでいるような気がする……。





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