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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
迷宮を掌握する勇者狩り少女は巨人を操る土木作業魔術師兼魔道具製作者兼鍛冶師でガラス職人かつ道具屋従業員で、その正体は変な名前の、見かけより体重の重いドワーフである
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隠密行の帰り道


 ウィンターで一番背の高い建物は商業ギルドも入居している、御者の逗留施設だ。

 一階に厩、二階が商業ギルド、三階に休憩施設と宿泊施設がある。同程度の規模の建物は街道を挟んで二つずつ、合計で四棟。うち二つは宿屋(というより大規模ホテルだ)で、街道からここだけを見たら、ウィンターは大都会に見える。


「火事だってよ!」

「教会が火事だ!」

 私は『不可視』状態のまま、逗留施設の屋上から、黒い煙を上げている教会を見下ろしている。

 太陽が昇り、近くにあった冒険者ギルドから消火の人員が出されたのか、教会の火事は短時間で消火された。

 遠目で見てわかったけれども、野盗を処理した部屋は教会の礼拝堂で、居住スペースが隣にあったようだ。

「たくさん人が死んでるってよ!」

「神父が死んだって?」

「貴族っぽい奴も死んでるって話だぜ?」

「領主の息子らしい」

 などなど、休憩がてら、村民? のうわさ話をまとめると、こんな感じだ。


―――神父が画期的な発明をして、商業ギルドに売り込もうとしていたけど、ちっとも税収が入らない領主(実質は代官だ)が横やりを入れて神父を脅していた。大人しくしてりゃいいものの神父が()()()()反撃して、傲慢な領主の血縁と相打ちになったらしいぞ―――。


 このうわさのまとめには補足が必要で、そもそもウィンターの村は商業ギルドが建設した中継地点に過ぎなかった。本来は現地調達できそうな物資はそうするのだけど、何もない土地だった。そこで商業ギルドが自前で全て行い、厩も宿屋の運営も行って、中継地点としての機能が整ってきたと。

 人が集まるようになってから、ここに領主を名乗る人物が送り込まれてくる。なんとかっていう準男爵だ。いきなり登場して、おまえらは領民だから税金払え、と商業ギルドの連中に言ったら、それは反発するだろう。ここには村どころか人もいなかった不毛の地なのだ。だからこそ商業ギルドが中継地点に選んだわけで、後から来てそりゃないぜ、ふざけんな、ということになっていたわけだ。


 商業ギルドの方は、これは厩と御者のための施設であって、商業ギルド内部で物資を融通しているに過ぎない。一時的な()()であって、住んでいるわけではない。よって領民ではなく、税金を払う必要はない、と。


 領主? の方はもちろんそんな詭弁を鵜呑みには出来ない。そんな折、迷宮が発見されたこともあって冒険者ギルドと聖教会の誘致に成功した。一定数の領民の誘致にも成功したはずだったのだけど、穀倉地帯の農業に関わる人間は、ほとんどが王都の人間で、商業ギルドと同じく税に関しては拒否(二重に払うことになっちゃうし)。こうなってくると領主の地位は有名無実という状況になった。


 これを打開しようとして、領主は軍備、もとい暴力装置を持とうと決意。潜在的な暴力による統治を行おうとしたのだけども、商業ギルドは当然のこととして、数少ない冒険者からも反発を受けて、治安を悪化させただけ、という始末。

 商業ギルドが()()()冒険者ギルドにかけあって、護衛を求めるようになったのは、このことがあってかららしい。


 とまあ、中立を謳っていた教会がどちらに発明品の話を持っていくのかは考えなくてもわかること。ところが、商業ギルドは話に食いつかなかった。何故かといえば、関連組織である紡績、織物関係者から反発を受けたからだ(そういえばアーサお婆ちゃんが以前、そんなことを言っていた)。さりとて、神父の発明品を放置もできない。ここが大人の汚いところで、商業ギルドは領主側に情報をリークしたのだ。


 結果、どうなったか、というと、領主の目論みは……今現在、煌々と燃えている教会で、罪と恥を晒して煙になっている。


 私が手を出さなくても、お互いに潰し合った気がするのだけど、介入する意味はあったんだろうか。侵入した時点でジャクソン神父は瀕死だったし、あとは争いがあったように偽装するだけでよかった。


 よく見れば、件の発明品とやらは、誰か(もちろん私ね)に全て持ち去られているわけで、第三者の存在は疑われて然るべきものではある。でも、この場面で、一番に疑われるのは商業ギルドだ。商業ギルドも生き馬の目を抜くべく、各人が切磋琢磨しているから一枚岩ではない。誰が手を出しても不思議ではないけども、今後、最初に新型織機を発表したところが被疑者扱いされることは明白だ。だから、誰しも触りたくない。


 なるほど。

 これなら確かに十年待った方が良さそうだ。確実に織機の進歩は十年停滞する。少なくともグリテンでは。



 鎮火した教会跡地を見る。

 冒険者ギルドからの協力要請もあって、商業ギルド(私のように両者に同時に所属している人も一定数存在する)から手の空いている人員が、教会の検分に駆り出されているようだ。

「何で俺たちが……」

「明日には王都に向かわないといけないんだが……」

 という文句もチラホラ聞こえてくる。


 一番の問題は公的な存在である領主が全く信用できない点にある。ついでに見つかった死体は領主の息子を含んでいるので、思いっきり当事者だ。そうなると、公平で客観的な視点を持つ人間は限られてくる。

 もう、いっそのこと、商業ギルドに村を統治してもらった方が上手くいきそうな気がするんだけど。



 お昼を過ぎて教会の騒ぎは落ち着いてきたようだ。

 これもうわさ話だけども、王都の騎士団に正式な検分を依頼した、という。鳩便で飛ばしたとすれば明日明後日には騎士団が到着するだろう。


 一応は『神託』にあった指示は達成できたし、うわさ話の誘導もこれでいいだろう。撤収しよう。


「―――『隠蔽』」

 静かに、普通に建物の階段を使い、建物から降りて北街道を横断する。『隠蔽』の限界時間一杯まで使って、ウィンター村から距離を取る。

 木陰に入って『隠蔽』を更新。これを繰り返して昼間移動をする。影の関係で、太陽が直上にある間の方が、夕方よりもかえって見つかる危険が少ない。けれども十分に注意しなければ。


 夕方を過ぎて夜になる頃、アダタ山に到着した。

 蛇を―――。あ、ちょっと思い付いたことがあるからやってみよう。

 光球じゃなくて闇球を召喚できたりしないだろうか。夜ならその方がいいような気がする。んん~闇、闇球……。最小限の魔力で……。

 ボワン、と黒い球が黒く光って……っていうか光ってはいないか……周囲の光を吸収してる感じ?


――――魔法スキル:召喚:闇球を習得しました


 おお、覚えた。そのまま監視に出して休憩。

 仮眠だらけで体内時計はメチャメチャになってる。まあ、元々壊れてるし……気にしないことにしよう。


 軽い休憩のあと、谷を渡る。

 夜は距離の稼ぎ時。慎重に、急く気持ちを抑えつつ南へ走る。

 ウィザー城西迷宮近くに到達した時には東の空が明るくなっていた。

 周辺を窺う。


 ウィザー城西迷宮の直上には通信機の中継魔法陣がある。これは大岩に偽装して隠してある。周辺の魔力を吸い取って貯蓄して、通信に必要な魔力を補う。

 先日の設置以来、特に誰かが来た、という痕跡は見受けられない。

 気付かれていないか、気付かれていても放置されている。後者だとちょっと問題があるけど、まあ大丈夫だろう。今日は確認だけ。例の計算機の設置場所の第一候補だから、再訪して調査しなきゃね。


 ここからはゆっくりと木陰を伝ってヘベレケ山を目指す。

 ヘベレケ山が見えてくると、思わず声が出た。

「ふわー」

 三日振りに声を出したような気がする。スキル発動で声を出してはいたけど、すごい解放感だ。

 よし、着替えよう。『ステルスウナギの革鎧』を脱いでピンクのチュニックに着替え。武器をしまって、ここで透明化を止める。


 わー、自分の身体に色が着いてるっていいなぁ。


 ヘベレケ山の北側の麓に到着すると、グルッと時計回りに進んで東側を目指す。


 お昼は過ぎて、夕方に近い時間だったけれども、ため息を吐いてから座り込んで休憩を取る。

 白パンにジャムをたっぷり塗りたくって、大口を開けて食べる。水で流し込む。荒っぽい、作業のような食べ方だけど、久しぶりの食事だった。

 たったそれだけのことなのに、自分の人間っぽさが少しだけ取り戻せたような、そんな気になった。


 端末を『道具箱』から取り出す。道具箱に入れている間は、端末は動作しない。モードを『受信』にして、サーバに溜められた短文を引き出していく。

「うーん」

 緊急を示唆する短文はないか。今のところ大陸の軍隊とやらに動きはないみたいだ。


「ふう」

 大きく息を吐いた。

 ここからはいつもの魔術師に戻ろう。


「――『洗浄』『風走』」

 身体を洗う。

 さあ、ポートマットへ帰ろう。と、歩き出した瞬間、ステーン、と転んだ。

「!?」

 なんだなんだ? 立ち上がろうとして、また転んだ。せっかく身体洗ったのに!

 今度はゆっくりと立ち上がる。


 ああ! 『加速』が付与されたままだからか。セドリックたちを笑えないなぁ。

 自分でやったことはなかったし、面白い。ちょっと試してみよう。

 普段の『風走』は、スイー、スイー、くらいのイメージで歩くと丁度良い。『加速』は速く走るのに最適化されるように筋肉の強化を行う付与魔法。ということは、大出力エンジンが載っている、と思えばいい。

 イメージとしては、スィーーーーーーー、スィーーーーーーーくらいにしておこう。一歩を長く取るのだ。

 おお、何とか歩ける。というか歩いてる感覚じゃない。エアホッケーの上に乗って猛ダッシュをしている感じ。

 もしかして三倍のスピードで走ってるんじゃないかな! チュニックを赤くしなきゃな。


 もう西門が見えてきた。このままじゃぶつかってしまう。

 急いで『加速』、『風走』を無効にする。

 ザザザザー、と土煙を上げて、門番の前に到着。


「な、何やってるんだ?」

 ラリーが目を丸くして訊いてくる。

「ただいま戻りました。石拾いに夢中になっちゃって」

 と、訊かれてもいないことを話す。怪しさ満点。

「あ、ああ、そうかい。おかえり。いまの土煙はなんだい? 魔法かい?」

「ああ、ええ、まあ、そうです、はい」

 魔法には違いない。嘘は言ってない。


「そうかそうか。ぶつからないように気をつけるんだぞ?」

 ラリーは心の底から心配そうに、私を諭すように言った。

「はい、気をつけます。ありがとうございます」

 おじちゃんごめんね、と上目遣い。さて、あと何年これが通じるか……。いま通じてるからいいか……。

「おう」

 さて、門番に目撃もさせた。『端末』を取り出して、フェイ、トーマス、ユリアンに帰還を報告する。

 すぐに返信があり、教会に集合、ということになった。



――――ほぼ四日間で任務達成、帰還完了であります。





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