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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
迷宮を掌握する勇者狩り少女は巨人を操る土木作業魔術師兼魔道具製作者兼鍛冶師でガラス職人かつ道具屋従業員で、その正体は変な名前の、見かけより体重の重いドワーフである
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暗殺者の隠密行


「そう。これとこれとこれも。持って行きなさい」

 お婆ちゃんには逆らわない。これは鉄則だ。アーサ宅にあった白パンと黒パン全部とリンゴジャムを渡される。

「はい、じゃ、行ってきます」

「そう、いってらっしゃい」

「気をつけるといいさ」

 アーサとカレンに手を振って、早朝の夕焼け通りを西へ向かう。夜を追いかけていく感覚は嫌いじゃない。


 ドロシーとシェミーはもう店に向かっていて、シェミーはお店でルイスかシドと引き継ぎしてから出る、とのこと。シェミーには、どうせギルドに寄るなら、フェイに言って、ブリジットとエイダから頼まれていた武器を本部に送るように頼んでほしい、と二本の武器を渡しておいた。

 昨日の魚も処理したし。後顧の憂い無し。


 では、このまま西門に直行しよう。

「―――『風走』」

『風走』はLV3になっている。『加速』LV3と同等の速度が出せるのはありがたい。以前にも増してホバークラフト的な走りに磨きがかかる。魔力的には実に騒々しい『風走』だけど、今回は西に向かった、と知らしめるためなので、実にわざとらしい動きではある。

「ブロロロロ」

 口から擬音を出しながら走り抜ける。

 定期的に西門は西側に寄っていくのが常なのだけど、例のワーウルフ騒動から、西門の移動はされていない。


「お、珍しいな。採取かい?」

 西門の主、とまで言われているラリーが立っていた。

「こんにちは、ラリーさん。最近は門番は一人体制なんですか?」

「ああ……人手不足でなぁ。訓練に時間を割くようになってな。練度はもの凄く上がっているんだけどな」

 なるほど、それで門番を含めた警察機能が疎かになっていると。

「それについては、来月辺りには多少は人手不足は解消されるかな。新人が配属されてくるかな」

 そう話すラリーは実に嬉しそうだ。自身の仕事が楽になる以上に、新人が育っていくのを見るのが楽しいのだろう。

「それは楽しみですね。じゃ、行ってきます」

「ああ、気をつけてな」


 手を振って西へ。

 ヘベレケ山の麓までは日光草の採取や、有用な植物の採取が行われていることが多く、つまり人目も多い。先日移植した群生地の他にも、まだ三箇所くらい群生地はある。『気配探知』の受動表示(パッシブ)を見ながら、異状がないか、大きな魔力持ちはいないか、確認しながら進んでいく。

 左手には収容所が威容を誇っている。離れて見ると、結構威圧感がある。そこそこの防御力を持った要塞ともいえるか。ああ、そう考えれば、西側の防衛拠点として、この建物が必要だったのも頷ける。突貫工事で発注がかかったところに焦燥感が見て取れる。


 もうしばらく走っていくと植生が変わり、麓から山中へ入る。


 春が近づいて、タンポポが大きくなるのもそろそろだ。根っ子でコーヒーを作るのが楽しみ。そんな暢気なことを考えつつ、どんどん歩いていく。


 中腹から山裾を時計回り(もちろん、この世界にそんな言葉はない)に歩いていく。時々脆い地盤があるので注意をしながら、可能な限り急ぐ。人影はないけれど、『加速』と併用したら事故になりそうなので、山中では使わない。

 石材屋のトビー曰く、中腹の西側って言ってたから、この辺か、とアタリを付けて見回していく。


 キラッと光る石が見えた。


 崩れた岩肌があり、重点的に探る。

「―――『地脈探査』」

 最初に光っていたのは砂岩だった。周囲の岩を崩さないようにして、半分に割ってみる。

「―――『風刃』」

 途中で引っかかるような感覚。

「おっ」

 砂岩の層の下に石英の塊があった。ところどころ水晶になっている。『地脈探査』スキルでも石英っぽい、と判定が出ている。このスキル、実はユニークスキルで、最初に殺した勇者から奪ったもの。他のスキルで代用が効く部分が多々あるのにユニーク扱いなのは、恐らくスキル名称に問題があるんじゃないかと邪推している。色んな鉱物や地下資源を探すようになるだろうから。


 砂岩を取り除きながら、石英を採掘していく。

 うはっ、大量にあるなぁ。オラ、ワクワクしてきたぞ。

 トビーのところで買った石英よりも透明度が高い。あるところにはあるものだなぁ。紫水晶が多かったけども、薄桃、オレンジ、色とりどりの水晶があった。思わず顔が綻ぶのがわかる。


 夢中になって採掘をしていると、太陽が真上に来ていることに気付いた。

 採掘はこのくらいでいいか。トビーのところで買った岩の大きさ比で五倍は入手していることになる。量としては十分だ。

 手を止めて、採掘跡には偽装を施す。見る人が見ればわかるだろうけど、一応ね。偽装だらけの私に相応しい作業だな、なんて自虐の念を込めながら。

 砂岩で覆い、周囲を半端に固めておく。あとは雨で自然な岩肌になるだろう。石英はまだまだ取り切ってないので、いつかまた来よう。教えてくれたトビーにも悪いし。


 作業を終えるとしばし周囲を見渡す。

 このまま北西に山を降りて、半日ほど歩くとブリストの町に出てしまう。しばらく山肌を北に向かって進み、ヘベレケ山北東の斜面に出てから、東側の下に降りるルートがいいか。位置的には、そこから北に真っ直ぐ行くとウィザー城西の迷宮に当たる。ウィザー城も回避したいので、大きく西回りでいこう。


 ルートが決まったところで、腹ごしらえ。白パンを水で流し込み、干し肉を頬ばって唾液で柔らかくしながらクチャクチャ食べる。アールクマーの干し肉は実に滋味深い。アーサお婆ちゃん手作りの香辛料抜き。冒険者用に、との気遣いが嬉しい。


 どちらにしても大きな移動は夜になってからの方がいい。ここは大胆に休憩しちゃおう。

「―――『召喚:魔力蛇』」

 蛇を最弱モードにして召喚。警戒を蛇に任せて一眠り。

 眠りながらも蛇からの感覚が伝わってくる。脳の半分が起きていて、半分が寝ているような、不思議な感覚だ。


 一刻(一時間ほど)の仮眠が取れたところで起床。太陽は山に隠れようとしている。隠れたら急に暗くなるから、そろそろ移動準備かな。


「よし」

 暗くなり始めた。一度『気配探知』を能動状態(アクティブ)で発動。

「うん」

 周囲に人影なし。魔物の影なし。小動物は……いくつかいるけど、これは無視。魔力蛇を戻す。


「ふー」

 息を吐く。

「―――『隠蔽』」

 姿を消す。一年近く使っていなかったスキルだ。まずはこのスキルで姿を隠してからお着替え。身体から離すと布が見えてしまう。チュニックは手に持ったまま『道具箱』に収納。続いて見えないけども『ステルスウナギの革鎧』を着込む。ワンタッチで着替えが完了しないのが半端にリアルでむかつく。これで『隠蔽』を解いたら裸だった……とか、誰得なんだ、と自分にツッコミを入れる。

 よし、お着替え完了。ぺたぺた身体を触ってみて、裸ではないことを確認する。案外、『裸の王様』は実話だったんじゃないか、と馬鹿なことを考える。


 武器はミスリル・ストライク・ダガーと雷の短剣。腰の鞘に差しておく。カツラはどうしようか……。『ラーヴァ』としての殺害は望まれていない。髪はそのままで仮面だけしておこう。万が一見つかっても、なんとなく言い訳がたちそうだし。


「――『加速』―――『不可視』」

 スキルを発動して『隠蔽』を解除。隠蔽は三分以上は継続して使えない。ウィザー城近辺を通過するときには、慎重を期して使おう。

 山の中を慎重に、それでも素早く走り抜ける。


 ウィザー城西迷宮の近くに出る。まだ深夜にはなっていない。


「―――『隠蔽』」

 スキル発動。一気に走り抜ける。今の状態の私を察知できるものがいるとすれば、本部副ギルド長のキャロルくらいだろうと思う。まあ、彼でも気付かないとは思うけど。

 スキル発動中の三分間で距離を稼ぐ。迷宮が遙か後方に流れていく。


 三分が過ぎて、『隠蔽』を素早く、もう一回継ぐ。

 迷宮のある丘はしばらく西に進むと山になっていて、そこから北にいくとすぐに谷、そしてまた山になる。過去にブリスト方面から蛮族がロンデニオンに攻めてきた時、この谷を通ってきたわけだ。その谷の狭まる場所に建てられたのがウィザー城で、なるほどここは守備に向いた地形なのだと実感する。


 谷から山―――アダタ山―――に登ったところで、太陽が顔を出す。アダタ山を北に下ると学術都市ノックス。何でも国中のエリートが集まっているそうな。東に行くと王都ロンデニオン。北東に行くと北街道に出て、そこを道なりに北へ向かうと、目的地のウィンターとなる。

 ここが山中でなければ交通の要衝になるのだけど、ノックスとウィンターの間には街道があるので、ノックスからロンデニオンに向かうとして、時間的にはウィンター経由の方がロンデニオンまでは安全で早い。


 人目を気にしながらの移動になるので、ここは再度夜を待つ。座り込んで目を瞑り、『不可視』は継続したまま、風景に溶け込む。


 さすがにノックスに近いからか、パッシブの『気配探知』の範囲内には、それなりに冒険者の存在が感知できる。止まったままだと接触しそうなルートを通って来たりもするので、大きく避けながら、ゆっくり北上を再開する。

 基本的に、他の冒険者に私を捉える術はない。魔力の漏れは最小限だし、光学的にも見えていないし、臭いも発していない。問題なのは足音と足跡と排熱、加えて影だ。速く動けば音も立てるし、発熱もする。加えて、影だけがポツンと存在するのは熟練の冒険者なら違和感を持つだろう。それもあって、日中は木陰と木陰の間をゆっくりと進む。


 背の高い広葉樹があったので、召喚蛇を出して周囲を警戒しつつ登る。


 召喚はもう少し慣れたら、一人で完璧な安全圏の確保が可能になりそう。ただ、召喚蛇は魔力の塊でもあるので、何もない山の中にぽつんと魔力が存在するのも目立ってしまう。使いどころは考えなければいけない。召還時に込めた魔力は最弱なので、大きな蛇がいる程度ではあるのだけど。

 実際、本物の蛇の動きに似せて動かしている。とは言っても、蛇の生態なんてよくわからないので想像でしかない。こういう機会のために研究してこなかったのが悔やまれる。もしかしたら、ミネルヴァは蛇を魔力で召喚するために、蛇を研究していたのかもしれない。その努力をコピーという形で奪うのは申し訳なく思う反面、後ろ暗い快感も得るものだ。


 昨晩よりも召喚蛇の操作にも慣れてきて、半分起きていて半分寝ている状態を、意識的に作り出せるようになった。ブリジット戦の時とは違って、今では操作に格段の慣れを感じる。そのうちに召喚を出しながら移動しながら寝られるようになるかもしれない。どこにそんなニーズがあるんだ、というツッコミは置いておいて。


 さて、夕方になった。

 夕方は影が伸びるので、この時間こそ注意しなければならない。

 今日の昼間は樹上で多く過ごせて、体力バッチリ。ここからはさらに隠密行動が求められる。


 現在の位置は、ロンデニオン西迷宮(実際にはロンデニオンから見て北西にある)も近い位置だ。ここから北東に移動して北街道を横断する予定。

 よし、太陽が完全に落ちた。

 ここでは『隠蔽』は使わずに、『不可視』のみで移動。

 慎重に、だけど素早く。


 右手には麦畑が広がっている。ここは拡張中の穀倉地帯で、ロンデニオンとポートマットの間にある穀倉地帯には及ばないものの、将来的にロンデニオン市民の胃袋を満たす重要な地域になるのだろう。


 程なくして北街道が見えてくる。どうでもいい話だけど、『北街道』を『ほっかいどう』と発音してしまうのはフレデリカだけだ。

 夜もまだ早い時間だからか、まだ馬車の往来がある。ゆっくり北上しながら馬車の切れ目を待つ。


 よし。

「―――『隠蔽』」

 小声で発動。実際には言わなくても発動するんだけど、私は最終キーワードを言わないとノリが悪くなるタイプ。これはいつか修正しなきゃいけないだろうな。

 急ぎ北街道を横断する。穀倉地帯は街道を挟んで両側に広がっているので、街道の東側にも麦畑がある。さっと見たところ、小麦と大麦が交互に植えられているようだ。


 しばらく北東に進む。ウィンターにも迷宮があるのだけど、ここは低階層までしか()()されていない。まばらに弱い魔物しかいないので不人気だ。ウィンター迷宮はウィンター村の東側。一度迷宮側に回り込んでから、村に侵入しようと思う。


 薄曇りの空の色を見る。時間的には深夜だろう。

 迷宮に到着する。人気はない。それもそうか。ロンデニオンに近いこともあって、ウィンターの治安は比較的良好だという。野盗が襲撃してきたりすると混乱に乗じられて楽なんだけど、そんな僥倖は転がっていないと思って進もう。


 迷宮から村に続く道を目の端で見ながら、ゆっくり歩いて行く。拙速はこの場合尊ばれない。この辺りは野菜畑がある。葉物みたい。キャベツかしら。


 ゆっくり歩いても十分ほどで村に到着した。『暗視』と『遠見』を発動して様子を探る。


 小さい村だなぁ……。少し盆地っぽい? もしかしたら、古い池とか湖の跡地なのかも。

 迷宮側から見ると、手前に鍛冶屋っぽいの(煙突が見える)、平屋に看板が付いてるのが冒険者ギルド? なんて貧相な……。そして、木造の汚い建物に合掌のマークがついているのが教会か。村の中央に目を移すと石造りの小さな建物があった。場所的にはあれが村役場だろうか。

 奧の方―――街道側に目を転じると、複数の魔導ランプの灯りに照らされて、三階建ての大きな木造の建物が複数建っていいるのが見えた。村の小規模さが引き立つほどに差がある。なんだこれ?


 ユリアンとトーマスの解説を思い出す。

 ―――ウィンターはドワーフ村鉱山との中継地点に特化されている。だから厩や水飲み場、御者の休憩施設の建設ありきで、村の機能はオマケに過ぎない――だったか。

 それにしてもオマケ過ぎる。発見された迷宮も期待に沿うものではなかったわけで、冒険者ギルドも最低限の施設で済んでるわけか……。ザンが言っていたボリスの処分でウィンターの名前が出ていたのも納得できる。

 街灯は街道側にはあれど、東側にはほとんどない。とはいえ遠くから照らす街灯による影も厄介なので、『隠蔽』を発動させて、教会の建物に近づく。


 ん………。

 朝になるにはまだ早い時間なんだけど……。

 複数の『灯り』がチラチラみえる。建物の中からの光か。

 こんな夜更けに参拝……なわけはないか。

 耳を澄ませてみる。


「………っ。せっ………………」

「……! ………ぁっ!」


 んー?

 渡せとか渡さないとかの単語が聞こえる。言い争ってるのかな?

 もうちょっと近寄ってみよう………。


 建物の内部には三人、いや四人かな? 外には一人……。

 何だろう、これ? 野盗あたりに教会が襲撃を受けているのかなぁ。

 まさかねぇ?

 ジャクソン神父が狙われているのかしら。ここで殺されてくれてるならこちらは楽になるんだけど。

 しかし確認しないとどうしようもないな。見張りが邪魔………。排除するか。見張りを殺して、そいつが『道具箱』持ちだと、持ち物をぶちまけるから、麻痺一択かな。雷の短剣に魔力チャージ開始。

 さらに近づいて………。


 小汚い革鎧の男の尻に一突き!

「ッ」

 口を塞いで声を出させない。やはり見張りは一人でやるべきじゃないと思うの。

「―――『隠蔽』」

 解除されてしまった『隠蔽』を再度発動して、姿を隠して教会の内部へ。


 なんと、内部はほどほどに明るかった。『灯り』が浮遊しているのが見える。

 夜間の襲撃に『灯り』を灯すとか……襲う方としても、襲われる方としても迂闊過ぎやしないだろうか。

 内部には織機らしい物は見当たらない。

 倒れている人、血の付着した短剣を持っている人……。何かしらの荒事はあったみたいで、内部は色々と散乱している。


 えーっと、状況を整理するために『鑑定』で見ていこう。


 腹にナイフを刺されて、呻いている男が標的でもあるジャクソン神父。

 何やら指示している男(ちょっと待ってろ、って言ってるようだ)は、着ている服が立派。貴族風と言えなくもない。所属はブリットン準男爵家、とだけ書いてある。こういう書かれ方の時は、本人は爵位を持っていない。つまり跡継ぎの血縁。この貴族家の名前は聞いたことないなぁ。

 部下風の男は二人。外の見張りと変わらない貧相な装備。


 貴族風の男の賞罰には殺人x4と書かれている。残りの三人にも漏れなく殺人が複数。ちなみに、ジャクソン神父にも殺人x3と書かれていたのには驚いた。ユリアンによればジャクソン神父は真面目な人物、ってことだったけど、状況が人を変えたってやつだろうか。


 男たちの所属はバラバラ。王都の冒険者ギルド所属だったり、ドワーフ村鉱山の奴隷だったり(懲役奴隷が逃げてきたってことかな?)。見張りの男は無所属だったし、野盗、っていう初見は案外間違いじゃなかったってことか。


 あ、ジャクソン神父のステータスが消えて、『~の死体』になった。冒険者の男の殺人数が一つ増える。

 ジャクソン神父は『道具箱』持ちだったのだろう。死体の周囲にドバドバと物が溢れ出していく。


「おい」

 貴族風の男が指示を出す。回収しろ、と言っているようだ。大量の羊皮紙と、大量の機械部品、そして、一メトル四方の織機が姿を現した。なるほど、自分の『道具箱』に隠していたわけね。殺さないと『道具箱』の中身は出てこないし、渡すのを拒否してたってことは、この結末に一直線ってことか。

 この織機と、それに関わるものは回収しなければならない。連中が自分たちの『道具箱』にしまう前にカタを付けましょう。


 冒険者の男から始末すべきかな。

 スーッと近寄って、雷の短剣で尻を一突き。

「がっ?」

「んっ?」

「―――『死角移動』」

 次に奴隷の男の尻。

「何だ?」

 混乱していて足が止まっている貴族風の男は最後。

「うっ!」

 これも尻を一突き。柔らかい尻が貴族的だなぁ、とかバカなことを考えてみたり。

 あー、やばいな。尻ばっかり狙っちゃったな。悪い癖だな、これ。

 これで気配探知の範囲にいる戦力は無力化できたかしらね。


 とりあえずだ。ジャクソン神父の遺留品を全て回収しよう。

 織機本体と部品、羊皮紙の束。

「…………」

 よっ、と。『道具箱』に回収完了。


 後は、連中の始末だけど……。

 まずは死後硬直が始まりつつあるジャクソン神父に刺さってる短剣を抜く。血は想定していたほど噴き出さなかった。筋肉が収縮して傷口を閉めてくれたか、体内に溜まっているんだろう。

 ジャクソン神父の開かれた手に、彼の血にまみれた短剣を握らせる。

 うん、仰向けになった神父が短剣を握っている――――良い形に固定されたわね。

 そこに気絶している貴族風男を持ち上げて。


「ぐ……」

 貴族男の口を掌で塞いだまま、丁度神父が持っている短剣の真上に心臓が来るように落とす。

「んー!」

 声にならない声が聞こえるような、聞こえないような。

 ゆっくりと、骨を避けて刃が貴族男の中に沈んでいくように押さえつける。

 暴れるも、徐々に力が抜けて、抵抗ができなくなって、やがて大人しくなった。

 そのまま、ステータスが『死体』になるまでジッと見ている。


「…………」


 貴族男が完全に脱力した。

 ステータスを見て、『死体』になったのを確認すると……。


ドサドサ……。


 と音がした。『道具箱』が解放されたようだ。

 あー、やっぱりな。女性の死体が複数出てきちゃった。

 ちっ、金も持ってないわ、持ち物もロクなのがないわ、殺人の証拠を持ち歩いてるわ、最低だなぁ。唯一使えそうなのは火系の魔法陣を描いた羊皮紙か。


 遺品といえばジャクソン神父の遺品の中に短剣もあったので、それは貴族風の男の尻に突き刺しておく。これで二人はもつれて死んだ、という判断をされることだろう。

 一旦外に出て、グッタリしている見張りの男を内部に引き入れる。意識が戻ってはいるようだけど、足がもつれて上手く歩けていない。


 うーん、同士討ちしたように見せたいよね。

 連中の武器を抜いて、その剣先を、他の男の尻に強引に刺していく。鈍い長剣を尻から内臓まで深々と。

「ッッッッッッッ」

 ごめんね、尻の傷を隠したいから、ここから内臓を傷つけさせてもらうね。差し入れたあとはグリグリ剣を回しておく。

 電撃による麻痺と、出血によって、野盗三人の動きも止まっていく。

 全員を突き刺し終えると、お互いの剣を握らせた。


 これで尻を狙い合った挙げ句の同士討ちみたいになったか。三角関係に見えるかな。いや、狂った挙げ句の殺し合いに見えるかな。


 野盗たちは順次死んでいって、やっぱり死体が出てきた。死体を隠せてしまう『道具箱』は完全犯罪も可能なんだろう。明らかに増えた方の死体が多いけど……。どうするよ、これ……。


 んー、あとは遺品の火の魔法陣を発動させておくか。

 貴族風の男は放火して証拠を隠滅しようとしてたみたいだし、そのプランは使わせてもらおう。焼死体なら詳細が不明なまま、説明のつくストーリーを誰かがでっち上げてくれるだろう。


 魔力を注入して、魔法陣を発動。

 中級単体魔法の『火弾』が飛び出る。五発出して終了、って描いてある。花火みたいね。

 さあ、教会を、ジャクソン神父を焼いておくれ。

「―――『隠蔽』」

 さて、現場を離れよう。そろそろ誰かが気付く頃だ。



―――ここまでで大体四十八時間経過。





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