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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
迷宮を掌握する勇者狩り少女は巨人を操る土木作業魔術師兼魔道具製作者兼鍛冶師でガラス職人かつ道具屋従業員で、その正体は変な名前の、見かけより体重の重いドワーフである
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夜の魔法修行


 夜になって、ドロシーとカレン、レックスとサリーが戻ってきた。

「サリーの件、トーマスさんからは了承得たわよ。思う通りに伸ばしてやってくれ、だそうよ」

 そのトーマスはと言えば、現在トーマス商店に居残りで、ポーション作りをしているそうな。

「うん、わかった」

「よろしくお願いします!」

 サリーは叫ぶように言って、お辞儀をした。

「夕食の後でやろうね」

「はい!」

「そうね、まずはお腹を満たしましょうね」

 アーサお婆ちゃんが夕食の配膳を始めたので、私も手伝う。うーん、コイルたち(スーパースリー)はある程度下地があったから飲み込みが早かったけれど、ゼロから教えるっていうのは経験ないからなぁ。いやまあ、今回のを経験とすればいいんだろうけどさ。


 夕食の間の話題は、アーサが仕入れてきたという、梳いた綿だ。

「そうね、今取り出すと、部屋中が綿だらけになってしまうわ」

 それは困る、ということで全員が大人しく夕食を食べた。今晩のメインはサースのステーキだった。

 夕食が終わって一息ついているところで、麻袋一杯に入った綿を受け取る。すごい量……なのだけど、軽い。さすが綿。

「えと、すぐには作りません。お裁縫が必要そうですし」

 それよりは、そわそわしているサリーをどうにかしないと。


「じゃ、サリー、やろっか」

「はい!」

 来た! 来たわ! と緊張した顔をして、サリーが反応した。

「アンタさ、修行はどこでやるの?」

 魔法が暴発したら危ないしなぁ……。また海岸いくか? 庭でやっても地下構造物があるから無茶できないし。

「うーん…………海に行こうと思うのだけど……」

「海っ?」

 超反応したのはシェミーだった。

「そうね、それなら私もいくわ」

「アーサ婆ちゃんがいくならアタシも行くさ」

「無論私も行くわ」

 シェミーはもう脱ぐ準備をしている。海女スーツを着るつもりか。

「あー、はい、わかりました。お婆ちゃんは暖かくして行きましょうね」

 と言うわけで、何故か一家全員が、夜な夜な海岸で魔法修行をすることになった。



「『光球』『光球』『光球』『召喚:光球』『召喚:光球』」

「うわっ」

「わわっ」

「眩しい!」

 海岸が見えてくると足場が危ないと思い、ただの『光球』を三つ、灯りとして出した。召喚の『光球』は、色を変えることができるかの実験。

「わ~」

 レックスが口を開けて光の球を見ている。

「この『光球』は………ちょっと待って下さいよ……」

 召喚『光球』に意識を一度移して、緑色に色を変えてみる。プログラミングみたいなことをするんだけど、ズバリcolor文で色が指定できたよ……。BASICなのかな、これ。まさかねぇ……。


「あっ、それで魚を寄せてくれるんだなっ!」

 シェミーは海女スーツを着込んでハイテンションだ。召喚『光球』はシェミーを追尾するように設定して、サリーの訓練を始める。

「百メトル以内にいるようにしてくださいねー」

「わかったわ!」

 シェミーは、ヒャホーイ、と暗い海に飛び込んでいく。準備運動はしなくていいのかなぁ……。


「じゃ、こっちも始めましょう」

 うんうん、とサリーだけでなく、ドロシー、アーサお婆ちゃん、レックス、そして何故かカレン(普通に初級魔法が使える)まで頷いた。え、全員教えるんですか?

「まず、合掌して、目を瞑って下さい」

 そう言って、全員の右肩を軽く触っていく。

「今、触ったところに意識を向けてください。身体の中にある力を集めてみて下さい」

 全員が静かに、私の言うとおりにする。


「ゆっくりでいいです。意識して、集めるだけ。身体の力を抜いて……」

 これだけの説明で、すでに右肩に魔力が集まっているのは、当たり前だけどカレン。そしてサリー。すごいな、サリー。

 ドロシーとアーサお婆ちゃんはちょっと苦戦中。再度、右肩に手を添える。

「ここですよ……」

 少しだけ、掌から魔力を出す。

「!」

 お、ドロシーできた。続いてアーサお婆ちゃんもできた。アーサお婆ちゃん凄すぎないかい?

 レックスは一人顔を歪めている。

「レックス、力を抜いて」

 レックスの右肩に手を添えて、掌から魔力を強めに出す。

「あっ」

「少しの間、その魔力を感じることに集中ね」

「はい」

 あとの四人は次のステップへ。


「その魔力を、腕を通して掌へ移動させてみてください」

 ドロシーとアーサには流れを意識させるために指を当てて、腕の方向へ擦ってやる。

 おや、サリーがちょっと苦戦。同じように指を当てると、その指を目印に魔力が追従してきた。ので、右腕を通り越して合掌している掌も越えて、左腕、左肩まで誘導してみる。ちゃんと魔力が追従してきたので、指を離す。

「回してみて?」

 そう言うと、サリーはぐるんぐるんと魔力の塊を反時計回りに回し始めた。カレンは、普通に出来てるので放置。

 ドロシーとアーサはちょっと苦戦していたので、同じように指で道筋を付ける。

「ここですよ……」

 そう言って誘導すると、ゆっくりだけれども魔力の塊を回し始めた。

「サリー、反対の方向に回してみて?」

「はい」

 ビダッ! と魔力の塊を止めて、すぐに時計回りにグルグルと回し始める。こりゃーすごい。コイルたちが泣いてしまいそうなくらいの才能だ。


 レックスは置いて行かれている感触があるのだろう。口元が歪んで、瞑った目から涙がうっすら光って見える。

「レックス、慌てない慌てない。ゆっくりでいいんだよ。そうそう」

 本当にゆっくりと、レックスは魔力の塊を動かし始めた。


「サリーはちょっと中断、休んでね」

「はい」

「カレンの姉御は……まだ早く回せますか?」

「いけるさ……」

 先のサリー並の速度で回し始めたところで止めさせた。

「いい感じですね」

「これ、魔力を高める技法だよな……?」

「その通りです。放出時の魔力が高まります」

 エイダに納品する予定の『水姫の杖』や『コンチ杖』に使っている魔力を高める魔法陣も、この『練る』技法を疑似的に作っている。まだ効率アップが可能だと思うけど、こればかりは魔法陣を縮小しただけで得られる性質のものではない。


「今度は反対方向に回してみてください。速く回す必要はありません」

 ドロシーとアーサお婆ちゃんが言われた通りに動かしていく。

 レックスはゆっくりだけども魔力を感じながらやっているようだ。この子は基礎をちゃんとやればそれなりになりそう。スーパースリーくらいにはなるだろう。


「サリー、カレンさん、次いきます。まず魔力の塊を作ってから、合掌している掌を離します」

 言われた通りにするサリーとカレンの顔には緊張の色が。って、カレンは普通に使えるのに、復習のつもりなのかなぁ。

「離した掌と掌の間には、見えませんけど魔力が通る道があります。そのまま、魔力の塊を回すことが出来るはずです。やってみてください」

 二人ともちょっと戸惑ったものの、すぐにクリア。


「掌の間で止めて、空間に魔力を集めてみて?」

 ぐぐぐ、と魔力が集まる。魔力感知能力―――魔覚―――があると、これは可視化できる。

「その魔力の塊に、色を付けてみましょう。青、赤、緑、茶色」

 変な色の組み合わせだけど、私が口にできる、それぞれの属性の色はこんな感じだから、他に説明のしようがない。

「青にするときは水を想像して。赤は熱い炎、緑は涼しげな風、茶色は土の臭い。一度に四色じゃなくていいんだよ。最初はどれかにしてごらん?」

「はい―――」

 サリーの額に汗が滲む。うーん、そろそろ切り上げ時かなぁ。カレンは純色にならないので困っているようだ。

「青青青……青い…赤!」

 そりゃ混ざるわ。

「想像してください、雨、川、湖、海、雲……」

「むむむ………」

 だんだんとカレンの掌の魔力が、青く、というよりは水になっていく。

「いいですね、水になってますよ。このまま水を維持してくださいね」

 サリーの方は……。なんてことだ……純色の域はすでに越えている……。

「サリー、今度は色んな色を混ぜてみて?」

「はい」

 おー、四属性が自由自在か。なんだこれは。チートか転生者か? 私にツッコミを入れる資格はなさそうだけども……。


 他に目を移せば、ドロシーもアーサお婆ちゃんも魔力の移動がスムーズになっていた。レックスは……頑張れ。個人的にはレックスを応援したいところだけどね!

「はーい、じゃあ、今日はここまでにします。魔力が暴走しそうなら『飲料水』で魔力消費してみてくださいね」

 ま、大丈夫だと思うけど。夜の海風は長く当たらない方がいい。


「魔法、特に攻撃魔法は、対象を見つけなければちゃんと発動しません。今の『練る』練習をまず続けてみてください。サリーとカレンさんは、それに加えて掌に魔力を集める練習をしてみてください。集まり過ぎちゃったら、水にして、手を離せば解除されます。解除されなかったら、『飲料水』を十回くらい唱えれば……いいかも?」

 集まった魔力量にも依るから、何とも言えないけど。

 さて……帰るか……。


「まてーい!」

 と、そこにラヴクラフトの小説に出てくるような魚人が海から………。ってシェミーか。ごめん忘れてた。

「うんしょっと」

 と、シェミーが二つの麻袋を投げる。一つは袋の口から魚の頭が見える程の巨大魚がパンパンに! もう一つの袋は、まだモゾモゾ動いているだろう中型の魚がパンパンに!

「大漁だわ~」

 ご満悦のシェミーは鼻高々だ。

「やっぱり、光で寄せられるものなのか……」

「そうみたいだわ。すごい効果だったわ」

 大魚を見て、アーサお婆ちゃんとドロシーは大興奮だった。サリーはそんな二人をちょっと冷めた目で見ている。レックスは、そんなサリーを心配そうに見ている。


 巨大魚は元の世界にいた、ピラルクーみたいな魚(海水魚)だ。何人分のステーキになるのか、ちょっとわからないサイズだ。これが四匹。中型の魚は、先日の石鯛モドキの他、ザブトンカレイや、小型のツーナ、ブリ。それにイカがこれでもか! というほど入っていた。

 前回同様、鍋を出して、容器代わりにして、黒鋼のメイスを支えにして、持ち上げる。

「ふんっ」

 前回より全然重いな………。おっと、短文が入ってきてる。けれどもそれどころじゃない。緊急だったらごめん!

「手伝うさ……」

「おもっ!」

「―――『筋力強化』『筋力強化』『筋力強化』」

「ふぉっ」

 カレンが前、シェミーが後、私は中間で支える。

「えっほ、えっほ」

 棒を担いで魚を運ぶ。魚は『道具箱』に入れない。これ大事。別に魚が傷むとかじゃないし、完全に気分の問題なんだけど。

「えっほ、えっほ」

 魚を運ぶ三人の息はピッタリだ!

 夜道を怪しげな、ちょっと魚臭い集団が通ります!


 往路の倍ほどの時間で、アーサ宅に着くと、三人はふわー、と息を吐いた。

「魚を獲りすぎるのも問題があると。よくわかったわ……」

 シェミーが反省の色を濃くするけれど、アーサはホクホク顔だった。

「そうね、保存処理をしておいた方がいいかもしれないわね」

 内臓を抜いたり、血抜きしたり。単に冷蔵するよりも長持ちするし、味も良くなる。でも、この大量の魚を処理するのか……。ちょっとゲンナリするなぁ……。って、短文入ってたんだっけ。


「ん………」

「そう。どうしたの?」

「ごめんなさい。ちょっと教会に行ってきます」

「え、うん? わかった。魚は任せろ」

「そう、行ってらっしゃい。シェミーとお魚しまっておくわ」

 こんな時間に? という言葉は出てこなかった。それについてはちょっと不思議な気もしたけれど、自分に余裕がないのも自覚しているので甘えることにした。

「はい、すみません、行ってきます」

 私は慌ててお辞儀をして、教会へ走った。



―――『至急、教会へ来られたし。ユリアン』か……。





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