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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
勇者狩りの幼女
12/870

※魔術師の土遊び

「ふわぁ。おはようさん。今日も早いね」

 今日も西門の門番はエルマだった。もうちょっとシャキッとすれば美人なんだけどなぁ。それとも、着飾った時のギャップ萌えを狙っているとか? まさかねぇ……。

「はい、おはようございます。行ってきます」

 思考は口に出さずに、無駄に爽やかを振りまいて、私は今日も採取に行く。


 街道を西に向かう。目指すはヘベレケ山麓の南側。

 っと、歩いていると、昨日ジャックが種を拾っていた現場に―――あれ、もういるわ。ジャックだ。

 と、もう一人いるなぁ。あれー、誰だっけ、アレ。見たことある人だなぁ。『人物解析』っと。


-----------------

【アーロン・アレクサンダー・ダグラス】

性別:男

年齢:28

種族:ヒューマン

所属:ポートマット領主軍

賞罰:グリテン王国子爵

スキル:気配探知LV1(物理) 強打LV3(汎用) 高速突きLV3(汎用) 長剣LV5 盾LV5

魔法スキル:浄化LV1

補助魔法スキル:光刃LV1 障壁LV2

生活系スキル:採取LV3 解体LV3 飲料水 点火 灯り ヒューマン語LV5

-----------------


 ああ、騎士団の団長さんか。これ、準勇者って言ってもいいスキル保持数と構成だなぁ。全くの無能って訳でもないのか。フレデリカも、団長に対しては圧勝とはいかない感じがする。模擬戦とやらは僅差だったんじゃなかろうか。

 しかし、騎士団の鎧も着てないし、やけに軽装だし。ジャックと会話してる様子だなぁ。

 ん~。ジャックを咎めている感じじゃない。ジャックのやっていることを把握してる感じ。おっと、『気配探知』持ってるなぁ。さっさと退散しよう。

 この『光刃』『浄化』に加えて『盾』持ちのスキル構成は『聖騎士』と俗に言われる。『盾LV5』と『障壁LV2』は初めて見たかも。遠目だけど、スキルをコピーできるかしら。


――スキル:盾LV5を習得しました(LV3>LV5)

――スキル:障壁LV2を習得しました(LV1>LV2)


 視界の下の方にメッセージが表示される。お、コピーできてるね。『魔法付与』と合わせれば、より強力な魔道具ができそう。

 おっとっと。退散、退散っと。


 一旦真っ直ぐ西へ向かう。中腹辺りで南に回る予定だ。

 ある程度山道を登ったところで違和感がある。

「ん?」

 遠くに何かいる感触がある。さっきのアーロン騎士団長だろうか? いや、これは魔物か?

 私も『気配探知』スキルはもちろん保持している。このスキルは常時発動型で、普段はパッシブソナーのようになっている。一定の範囲内部の索敵を受動的に自動で行い、驚異度を分類していく。スキルレベルが上がっていけば索敵範囲は広がる。パッシブ時は索敵されていることに気付かれることはほぼない。勘の鋭い人間なら何となくわかるかも、程度だ。

 もう一つ、これもソナーのように、アクティブに使うこともできる。この場合、パッシブ範囲のほぼ倍の広さを索敵可能だ。その一方で、魔力感知にそれほど長けていない者でも、索敵をされたことがわかってしまう。魔力を込めて威嚇に使うこともできるけど、過度に目立ってしまうので、そういう使い方をしたことはない。

 というわけで、薄く広くをイメージして、弱々しくアクティブで『気配探知』を撃ってみることにする。

「――『気配探知』」

 小声で言ってみるけど、それで魔力が調整できるわけではない。あくまで魔力を込める量を決めるのは自分次第。

 視界の右上の方に円形の印が出る。同心円が幾つか描かれていて、その円の中心は自分だ。この辺り、非常にゲームっぽい。


 んー?


 先日タマスを狩った渓谷からちょっと北に行ったところに反応あり。

 三体。中型の魔物。魔力の大きさからは、それほど高レベル魔物ではないみたいけど……。

 ワーウルフかもしれない。

 フレデリカの言っていたことを思い出す。騎士団の捜索は空振り、探したと言っていた場所は、反応のあった場所から見て、もっと北だ。


 これは厄介事だし、スルーしてもいい。だけど、ポートマットには知り合いが多すぎる。知り合いの誰かが襲われた、なんて事があったら寝覚めが悪いじゃないか。この街は、私にとって大事な日常なのだ。

「――『風走』」

 スキルを上書き更新する。山道から外れて、渓谷の方へ向かう。周囲に冒険者はいない。小型の獣はいるか。タマスは範囲内に何匹かいたけれど、先の『気配探知』を受けて退避行動をしたようだ。

 魔物でも、こういうケースでは退避行動をすることがある。が、今回の三体はそこから動くことはなかった。この三体の知能が低いか、逃げる必要がないか。どっちかだろう。


 太陽がすっかり昇ったけれど気温はそれほど上がらない。秋が深まってきた感じか。紅葉でもあれば風情があるというものだけど、この付近の山の植物は緑色のまま、葉を落としてしまう。うん、これでは侘び寂びの心情を規範とする素敵国家にはならない。私が長生きするかどうかはわからないけど、いつか文化的に、いや植生的に侵略してやるか。

「ん?」

 例の三体に動きがあった。ウロウロしてる感じ。戦うか逃げるか迷ってるのかな。もう目の前に出ちゃうんだけど。おっと、接敵。


挿絵(By みてみん)

-----------------

【ワーウルフ】

LV:13

種族:ビースト

集団で獲物を襲う。変異体あり。【ワーウルフ・リーダー】が群れにいる場合は個体能力以上の脅威となる

スキル:

-----------------


 三体のワーウルフを発見。短剣なら背後にサッと動いて一突きなんだけど、魔法使いとしての対峙は初めてだ。個体のレベルは最高が13。他は10と11。

 ま、考えてるよりは手を動かしちゃおう。

「――『水刃』」

 左側の一体を狙う。水で形取られた鋭い刃物が飛んでいく。

 が、意外に素早い。避けられた(泣)。

 まあ、もう一発。

「――『水刃』」

「ギャ」

 今度は左のワーウルフに命中。綺麗に真っ二つになる。ああ、オーバーキルかもしれない。使う魔法が大きすぎたのか。しかし、『~刃』は初級の魔法だし、これより弱い攻撃魔法は、入門用魔法の『~球』になる。訓練用ということもあって射程が恐ろしく短いんだよね、~球は。


 一体がやられ、中央のワーウルフは撤退の素振りを見せる。が、右の一体が大口を開けて突っ込んでくる。

「――『風球』」

 手に風球を作ったまま、発射せずに、そのまま口に入れる。

「ガワギャオー!」

 のような、よくわからない叫びを上げるワーウルフ。

「ふむ」

 この『風球』は、魔力を使って空気の流れを制御してまとめ、球状にしたものだ。ちなみに、これを足に纏わり付かせると、『風走』になる。

 未だワーウルフの口の中には風球があり、向こうの動きは止まっている。ここで球を形作っている風を高速巡回させてみる。

「ギャッ」

 ミキサーに入れたかのように、ワーウルフの頭部が細切れになる。

 近接っぽく使うなら、なるほど、こうすればいいか。

 ああ、でも、近接のイメージを持たれるのも嫌だな。もっと魔術師らしくやってみよう。すでに近接戦闘の距離だけど。


 中央のワーウルフは初回の接敵で、すでに退避行動を取ろうとしてたくらいだから、ある程度は実力差を感じていたのだろう。ある意味、それが一番手強い要素だ。しかし、ここに至っては逃げられないと悟ったのだろう。こちらに正対するポジションを取りつつも、ジリジリ距離を取っている。

 しかーし、そこは水刃を外して魔法が着弾した場所なんだなー!

 私はしゃがみ込み、手を地面に付ける。土系は鉱物を握っていたり、地面を使わないとイメージが湧いてこない=発動しない。

「――『土刃』」

 とはいいつつも、一瞬だけ刃を形成して、すぐに刃の結合を解く。一気に土が軟らかくなり、元の水分を吸って、ゲル状になる。よしよし、狙い通り。


―――補助魔法スキル:泥沼LV1を習得しました


 あ、これ違う魔法なんだね。魔法はイメージに強く影響されるから、結果は同じでも、違うルートで違う名前になったりするのかも。

 っと、足下のバランスを崩したワーウルフに追い打ち。

「――『土球』」

 広範囲の土球を、ワーウルフの足下に作る。足下が土に埋まった状態になる。


―――補助魔法スキル:土拘束LV2を習得しました


「ガーーーーーーーッ!」

 叫んでいるワーウルフ。殺そうとしてるのはお互い様。威嚇しても無駄だよ。

 狙いを定めて………。せめて一息に始末してやろう。

「――『風刃』」

 ヒョッ、と風を切る音がして、サクッと肉を切る音がして、ザクッと地面に刃物の跡が付く。音もなくワーウルフの頭部が落ちる。

 しばらくしてビュー、と首の切断面から血が噴き出る。


「うん」

 そもそも魔術師的には、中距離~遠距離の方が適正距離だ。相手に姿を見せるような戦いは本流ではない。まあ、遠くから魔法撃ってるだけというのも芸がないし、戦い方のバリエーションを広げる意味でも、いい経験になったか。

 なーんて殊勝な事を思いつつも、戦いの跡を見てみる。


「ハハハ……」

 なんというか、破壊という言葉がピッタリくるというか。

 魔力が作用する範囲を問答無用で粉砕してしまうので、周囲の木々や土壌までグッチャグチャになっている。ということは、攻撃魔法というのは、基本的にオーバーキルで、魔力垂れ流しということか。

 なるほど、これは遠距離から広範囲の戦術級魔法をメインにさせられるわけだ。つまり、小規模戦闘になるだけ苦手になっていく、ということか。

 先日のタマスの時も、薄々そうじゃないかなと思っていたけど、小規模戦闘にも適したような戦い方を編み出していく方がいいかも。魔術師として対人を行う機会も出てくるだろうし。


 と、それはいいとして、まずは後始末。

 真っ二つになったのが一体と、首が無いのが二体。周囲に敵影がないのを確認しつつ、三つの死体を並べ、横に穴を掘る。これはスコップなどを使うのではなく、『土球』を作ってはその辺に投げていく。面白いように穴が掘れる。


―――補助魔法スキル:掘削LV1を習得しました


 ほう、これも別スキルなのか。土系はこういうの多そうだなぁ。

 穴ができたところで、ワーウルフの胸から腹を割いていく。魔物は心臓の近くに『魔核』があることが多い。この『魔核』の有無が、普通の動物か、魔物かを分けるポイントとなる。

「あったあった。ちっちゃいな!」

 小指の先ほどの赤い魔核が取り出される。血の色をしていることが多いけど、モノによっては色が違うらしい。もちろん、そういった『色違い』は特殊な効果を持つものがあって、高額取引される。

 魔核は魔道具の材料(というかメイン動力源になるわけだ)であり、この世界においては電池のような役割を果たす。逐一充電(充魔?)が可能だけど、繰り返し利用しているうちに耐久力がなくなって、いずれ魔核は形状を保てずに壊れてしまう。それもあって常に魔核はニーズがある。

 利用に当たっては皮革と同じような扱いらしく、忌避感がないのが異世界っぽい。

 内臓と肉は穴へ。ワーウルフの肉は不味い。肉屋のマイケルなら美味しく加工してくれるかもしれないけど、ここは捨ててしまう。

 有用な部位である皮(一体分は真っ二つだけど)と魔核を入手。『道具箱』に入れておく。


「――『火球』」

 穴の底に向けて、火系魔法を放つ。この場で処分しておかないと疫病の原因になったり、他の魔物がやってきたりするから、不要な部位は焼却が基本だ。三発も撃つと、肉が焼ける臭いを通り越して、炭の臭いになる。焼却済みを確認。あとは埋め戻し、と。その辺の土を『土球』で持ち上げて、穴の上で魔力を解放する。と、どんどん土が盛られていく。


 魔力の入れ加減で、掴んだ土の粒子の細かさは違ってくるみたい。はは、面白いなー魔術師は。


―――補助魔法スキル:採掘LV5を習得しました

―――補助魔法スキル:粉砕LV5を習得しました


 あれー、『掘削』とは違うのか。土を魔法で掴んで捨てるだけで鉱山技師になれそうだなぁ。

 よし、穴の埋め戻しは完了、と。ちょっと土を細かくしすぎたから、柔らかいかな? ああ、『泥沼』はこの作業と水系の混合なのか。『拘束』で硬くは出来たから、ちょっとやってみよう。

「―――『土拘束』」

 あれ、何も起こらないや。拘束する対象がないと駄目なのかな。魔法はイメージだ、という言葉を再認識だ。じゃあ何かい、硬くするイメージを持てばいいのか。

「ぬぬぬぬ……」

 穴に詰まった土を硬くする……。


―――補助魔法スキル:固化LV2を習得しました


 あ、出来た。これ、もしかしたら、セメント要らずになるんじゃ?

 ああ、楽しいな! 土遊び!

 応用はいろいろ効きそうだけど、ハッと本題を思い出す。

「他にもいるかな?」

 もう一度、アクティブで『気配探知』を使ってみる。索敵範囲にはワーウルフどころか魔物の気配はない。この三体がはぐれだったのか。

 ワーウルフは繁殖しやすいと言うし、今日は採取をしないで、街に報告に戻るか。


 周囲を探索しつつ、街に戻る。

 門番はまだエルマだった。もう一人はラリーだった。鉄板コンビなんだろうか。

「あれ、早かったね?」

 エルマはまだ眠そうだ。

「はい、ワーウルフを見つけたので。報告に戻ってきました」

「なんだって?」

 エルマは反応できずにいたけど、ラリーが横から切羽詰まったように驚く。

「ヘベレケ山の北西の山間で。三体だったので、はぐれじゃないですかね」

 ラリーが私の手を掴もうとするので、思わず避ける。


「……………一緒に騎士団に来てもらえるか?」

 めんどくさい。けど、しょうがないか。

「あー、はい。わかりました」

 一人で行った方が絶対早いのだけど、スキルや魔法を見せる必要はない。

「エルマはこの場で待機な。頼むぞ」

「はーい」

 唾を飛ばす勢いのラリーに、間延びした返事のエルマ。二人の温度差が凄い。ま、そんなのは騎士団の事情だし、私が知ったことじゃない。

 あ、騎士団といえば……。今朝方、団長さんを見かけたんだっけ。いかにも悪だくみしてそうなポジションにいたけど。


「よし、いこう」

 ラリーがまた手を伸ばしてくるので、思わず、また避ける。ラリーの表情に浮かんでいるのは困惑だ。

 ああ、子供だと思われてるのか。

 安心させるために手を繋いでもいいのだけど、正直あんまりいい気分にはならないだろう。感性が拒否してる。これは、私の中の人が叫んでいるということだ。

「いきましょう」

 柔らかく笑みを浮かべてラリーに話し掛ける。

「あ、ああ」

 そして、ラリーと私は、やや駆け足で、騎士団駐屯地へと向かうことになった。


―――ノータッチですよ、ラリーさん。



生き物、それも動物はドローイングソフトでやるべきじゃないね!

でもこれしか使えないんだ!

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