表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
迷宮を掌握する勇者狩り少女は巨人を操る土木作業魔術師兼魔道具製作者兼鍛冶師でガラス職人かつ道具屋従業員で、その正体は変な名前の、見かけより体重の重いドワーフである
110/870

嵐の演習場


「よお、お嬢ちゃん待ってたさ」

 演習場で準備運動をしていたのはカレンだった。フルフェイスのプレートメイルにタワーシールド。手にしている武器は短槍だ。

「ども」

 新しい武器を試したい反面で、さっさと鍛冶場に行きたい自分がいる。いや待てよ。目の前の冒険者は、素直に私のやりたいことをやらせてくれるタマか? フェイがこの戦いをやらせる意味を考える。どうやったら、この防御の塊を最短で屠れるか。冷静に計算をしなければならないんじゃないか?


「私の方は準備いいさ。お嬢ちゃんの方は?」

「えーと――――」

 防具はしょうがない。無いものはない。武器は―――黒鋼のメイスを出す。


「……なんだ、その武器は……」

 面倒臭いので説明しない。

「いつでもどうぞ」

 冷たい目で私はフェイを射抜いた。

「お嬢ちゃん、やる気になってるのはいいんだけどさ…………。まあいいか」

 カレンの気の質が変わった。典型的な『拳で語る』タイプなのかな。


「……うむ」

 事前に演習場は人払いがされている。ここにいるのは私とカレン、フェイだけだ。

「……始め」

 フェイのかけ声。

「―――『風走』『筋力強化』『攻撃力向上』」

「―――『加速』『筋力強化』『守備力向上』」

 これだけガチガチに固めておいて、自己付与魔法でさらに防御力を上げるのか。


「フッ!」

 まずはその自慢の盾に当ててみるか。

 蹴り足が地面にめり込んだ感触の後、真っ直ぐ進んでみる。

「フンッ!」

 フェイントなしに突っ込み、メイスをタワーシールドに突き刺すつもりで………。


ガンッ!!


「ぬっ!」

 さすがに耐えるか。上級冒険者、やるな。

 カレンの姿勢はそのまま、地面にはズズ、とスパイクの跡がつく。


 メイスを回転させて、今度は石突きで盾を殴る。

 さらに回転させて菱形、また石突き。

 ここまで来たら攻めきってしまおう。

 もう一突き。


「!」

 カレンにフェイントで攻撃を入れられる。実際には攻撃などしてないけれど、肩がピクっと動いて、こちらも対応を迫られる。小賢しい。だけど有効だ。

「ふぬっ!」

 カレンは盾を前面に立てて距離を詰め、槍が―――。

「フンっ」


ギンッ


 槍が盾の下の方から出てきた。これは想定外。メイスを振って、短槍を落とそうと画策。絡め取る動きをする。カレンは槍を引きながら盾を前に押し出す。

 盾が邪魔をして槍を落とせず。瞬時に距離を取る。


「―――『泥沼』」

 しかし、自分が持っている黒鋼のメイスに影響されて、目的の位置ではない場所に泥沼が発動された。心の中で舌打ちをする。


 カレンの盾は、間合いをさらに詰めてくる。

 こちらの魔法が失敗したことを悟ったのだ。


「――――『風切り』」

 もの凄く硬くなる付与魔法が追加されているタワーシールド。この黒鋼のメイスでも五十回くらい殴らないと変形しないかも。魔法防御も………って!


キンキキキキン!


 風切り(たくさん)が跳ね返ってきた!

 しかし慌てずにメイスでさらに打ち返す。

 カレンは盾でさらにさらに打ち返す。

 埒が明かないので風切りを適当に盾が当たる範囲の外に跳ね返す。

「―――『拘束』」


キン!


 何と、拘束の魔法も跳ね返ってきた! でも、これは想定の範囲内。タワーシールドの下の方に向けて、『拘束』を打ち返す。

「んっ?」

 カレンはそれを弾くかどうか迷う。その間が欲しかった。


「―――――『風切りりりりりりりり』」


 掌で仰ぐように、細かい風切りをカレンの右手側に集中して送る。時々大きめの風刃を混ぜる。うん、思った通り、跳ね返ってこなくなってる。


「―――『泥沼まままままま』」


 風切りで手一杯のところに広範囲『泥沼』を打ち込む。

「ぬっ」

 カレンの周囲五メトルの地面がグズグズのドロドロになる。

 カレンは踏ん張ったが、バランスが崩れた。


「――――――――――『水姫』」


「えっ――――――――ぇっ?」

 カレンの驚いた声。

 水分で形成された人魚姫―――水姫が、滑るように、カレンを、盾ごと、演習場の壁に向かって押し出していく。

 カレンの声はドップラー効果付きで後に吹き飛ばされていく。


「……そこまで!」

 フェイの声がした。

 水姫解除。だけども、水圧は止まらず、カレンを壁にめり込ませる。

「………………」

 やばい、やり過ぎたかな。カレンが白目を剥いてる。


「―――――――『治癒』」

 とりあえず治しておこう。まだ死んではいないはずだ!

「ん………ああっ?」

 気が付いたカレンは咄嗟に盾を構える。

「……もういい、終わりだ」

 フェイが静かに言うと、カレンは盾を降ろした。


「参ったさ……」

 カレンは項垂れて降参を表明する。


 うーん、多少のイライラを盾にぶつけてみたのだけど。

 見れば、タワーシールドの表面がザクザクに切れていた。ついでにボコボコになっている。

「……カレンは事前に『魔法反射』を盾に付与していた。……途中で付与の効果が切れていたな?」

「まだ効果持続時間中のはずだったのにさ……」


 ほうほう、黒鋼が魔法を弾く、というのは、こういう時にも役立つのか。カレンだからあんなに保った、ということで、並の盾使いなら二撃目か三撃目には盾を破壊出来ていたかな。


「うーん。カレンさんはブリジットさんと模擬戦とかをやったことは?」

「ああ! そのメイスは黒鋼なのか。納得したさ……。それにしても……」

 カレンは途中で言葉を止めて、私をチラっと見てから、サッと視線を逸らした。

「……反射を使うように指示したのは私だ。……途中までは拮抗していたのだが……。……最初の攻撃で付与魔法が取れかけていたのか。……うーむ、恐ろしい武器だな、それは……」


 さすが黒鋼、何ともないぜ……。

「いえ、何も考えてませんでしたよ。依頼されてる品を作りたいのに邪魔ばっかりしてとか。反射が姑息で卑怯だとは言いませんけど面倒臭いなとか。盾と魔法盾でグングン接近されてた方が嫌だったとか。接近されたらされたで今度は本気で盾壊してやるとか。いい加減腹が立ってきたとか。そんなこと考えてません」

「……うむ……。……すまなかった。……戦いを強要したのは私だ。……責めは受けよう」

「それはいいんですが。地面くらいは直しますけど、演習場の修繕費はギルド持ちでお願いします。あと、カレンさんの盾も」

「……わかった」

「じゃあ、ちょっとそこ、どいてください。地面固めますから」

 二人が離れてから『固化』を使う。沼になっていた地面に固さが戻る。


「なあ、お嬢ちゃん」

 カレンが後から声を掛けてくる。

「アタシはさ、お嬢ちゃんが防具も着けないで余裕こいてたように見えたからさ。ちょっと痛い目を見てもらおうと思ったのさ。だから本気だったのさ。お嬢ちゃんの方は、あれで手抜きしてたのかい?」

 カレンが真面目な顔で訊いてくる。この答えは彼女の矜恃に関わる。真摯に答えるべきだ。


「うーん。手抜きというのとは違うんですけど。支部長が言うように、この武器で戦うのは初めてで、色々わかったこともありますけど、基本的に不慣れですから」

 魔術師として盾のスキル構成の人と接近戦で戦ったのは初めてだ。反射をあのように使われたら、こちらの応用力が試される事態になる。正直、武器が黒鋼じゃなければ。メイスじゃなくて諸刃剣だったら。反射された魔法への対処は、ああもスムーズにはいかなかっただろう。

 それに、この武器を持っての魔法使用はあまり効率が良くない。多少減衰している感覚がある。以前にブリジットが言っていたように、黒鋼の武器を保持しての魔法使用は、魔法的にはマイナスなのだろう。


「そうか……。でも……魔術師にあんなに殴られたのは初めてかも……」

 んー? 顔が紅潮して目が潤んでいるような……。まさかとは思うけど、そういう性癖の人だとか……? だから盾職のスキル構成になっちゃったとか? この大柄で豪放で粗野な印象のある、この人が?


「…………」

 フェイが顔を逸らした。俺は知らない、って顔してる。

 いや。責任はあんたが取れ。

 ガシッとフェイの肩を掴み、ギリギリと力を込めて地面に座らせた。

「じゃ、鍛冶場いきますので」

「…………!」

 フェイが背後で何か叫んでいたようだけど。



――――聞こえなーい。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ