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レモンメレンゲパイをこよなく愛するヤンキー少女は苦悩する

作者: akiyama

爽やかな美少年のお腹の中は真っ黒だけど、そんなの関係なくハーレムを築いていました。しかし肝心の王様はハーレムは必要ないそうです。

 栗原さやこは、苦悩していた。

 考えていることが読まれてしまいそうで嫌だ。

 そして、それが目の前の少年であれば尚更。


 「さやこちゃん」放課後になって、もうすっかり帰る気になっていた彼女の背後から聞こえてくる声には甘さが散りばめられていた。

 仮にもヤンキーの看板を背負っている自分を、まるで普通に可愛い女の子を呼ぶようにちゃんづけで呼ぶ人間は限られている。

 不本意ながら声だけで、誰だか分かってしまうし。

 ベリー系フルーツと生クリームがさっくりと混ぜられたような、爽やかだけど、ちょっとだけ別の何かも混ざっている。 そう例えていうなれば甘すぎて、閉口してしまう香水に似ていた。

 聞こえなかったふりして、逃げ出そうかとも考える。

 イヤ、こらえよう。 そうしないと後で何をされるか。 取り扱い要注意なのである。

 そんな相手の方を向くのは、嫌ではあったが、仕方がない。

 



 相手は、同じ学年のリーダー的存在であり、女子人気も高い鏑木友哉。

 「何か用か」振り向いて返事はしても、愛想は振らない。 だって自分はヤンキーなのだ。

 優等生に愛想を振る必要などない。

 「一緒に帰らない? 僕、さやこちゃんが好きそうなお店を見つけたんだ」

 「好きそうな店?まさか……」

 「さやこちゃんの好きなレモンパイの美味しいケーキ屋さんだよ。 お店で食べられるよ」

 ご馳走するから行こうよ、と言いながら近寄ってくる鏑木に抵抗するように学校指定のカバンを持ち上げる。

 鏑木との間には、厚さが1kmくらいの壁が欲しいくらいだが、ないのでカバンで代用だ。

 



 

 「レモンパイは……上にメレンゲがのっているやつか?!」

 「そう、美味しそうな焦げ目つきのだよ。 好きでしょ」

 「好き……だけど」

 そう答えると嬉しそうにはにかんだ微笑みが、何か可憐。男子高校生にあるまじき表現ではあるが、可憐。

 ヤンキーのイメージではないのだが、自分は無類の甘党で、レモン系のお菓子を特に愛している。

 甘酸っぱいレモンクリームをたっぷりと詰め込んだパイの上にこんもりとのせられたメレンゲは、少し焼き色がついているのがベスト。こんがりしすぎていても、焼きが足りなくて生っ白いのも興ざめ。

 


 馴染みの店は店主夫婦の高齢を理由に店を閉めてしまったので、この半年間は食べていない。

 あの店のは、思い出すだけで心が踊る素晴らしい味だったなあと小さな声でつぶやく。

 鏑木の言う店があの味を出せるのだろうか?いや無理だろう。それとも……

 正直言ってしまえば、行きたかったがこいつと一緒では魅力も半分以下だ。

 情報だけよこせよと切実に願う、ダメかな……。




 「さやこちゃん、ずるいこと考えているよね。 店の場所だけ教えてもらおうとか……」

 「い、いいやっ! まさかそんなっ!!」つ・つ・と顔を近づけてきたので、慌てて後ろに下がる。

 「鏑木君、そんな子、放っときなさいよ! 行きたくなさそうだしっ!!」下がった分だけ、身を寄せてくる鏑木と自分との間に挟まるようにして、やってきたのは、気が強いが学校で一番か二番目の位置にいるであろう美少女と評判の杉沢まゆ子嬢だった。

 後ろには取り巻きグループもいらっしゃった。これだけの大人数でいったら、お店は迷惑するんじゃないかな、それとも売上が伸びて喜ばれるか?

 


 日本人形のごとき黒髪を肩を少し覆うくらいの長さで切りそろえ、本物の美少女しか似合わないであろうパッツン前髪の杉沢さんも、まさかの鏑木信徒なのである。

 気が強いのが玉に瑕とも言われ、イヤあの気の強さが良いとも言われているのであるが、見ているだけなら、被害なしの文句なし美少女では、あった。

 そして、今現在は自分にとっては、まさにチャンスをくれた女神でもある。

 




 「そうですよね、ヤンキーの自分には素敵なスイーツは似合わないんで失礼しますっ!!!」

 自分でも、素晴らしい逃げ足の速さだったと絶賛したいほどだった。

 今なら、どんなランナーにも勝てる気がする。 イヤ気がするだけで、現実的ではないが。

 鏑木友哉からどんなに、美味しそうなスイーツの存在を知らされても動揺しないはずではないか!

 自分が情けない!! 小学生だった頃に鏑木の心を読まれた時から決意したのに!!!

 どんなことをしても鏑木のパーソナルスペースには、入らない、と。

 



 ヤンキーな自分と優等生の鏑木の接点それはズバリ小学生の頃の子供会でだ。 

 同じ町内会に住んでいるというだけで、クラスも違うのに月に一度は一緒に遊ぶイベントが行われる。

 時には、アクテイブに近くの山までハイキング、親睦を深めるためのバドミントン大会などが開かれた。

 子供同士の交友を大人の力技で増やそうとしている感が大きいこの町内会のイベントなのだが、たまに面白いものもある。

 特に正月の百人一首大会などは忘れられない、エキサイティングな思い出となった。

 



 鏑木は参加した中では最年少だったにもかかわらずに優勝していた。高校生も参加していたのに、ぶっち切りでの優勝。賞金をちゃっかり頂いていた。

 しかし、この大会で私は知りたくもないことを知ってしまったのである。すごいなと感心してみていたら、読み手が読み始める前から鏑木の目線が動いていたのだ。あきらかに札が読まれる前に探している?

 そして、もちろんやすやすと札を見つけるのだった。

 


 


 一度なら偶然ですむが何度も続けば偶然ではない。もちろん周囲の人間は誰も気づいておらず、ただ優秀な子供なんだと認識されただけである。

 そして、凝視していた私と鏑木の目があった瞬間に、奴は確かににやりと笑った。

 それからは、子供会の中では唯一の同じ年であることを理由に常に寄り添う存在になる。

 とは言っても、その頃は私は鏑木に対してやけに近づいてくる同じ年の男の子というだけだった。

 それなのにいつからか、少しだけ特別な存在として意識しはじめたのはいつだったろう?



 


 小学校も高学年になると、男女の差が生じてきて互いに意識してしまうことがある。

 鏑木は、当時少々線の細さは否めないものの充分に美少年としてのカテゴリーに入れられるレベルだったので、色気づいていた少女達には格好のターゲットとされた。

 その時、何かと一緒にいた私の存在を邪魔に感じたラスボス的なリーダー女子に、一方的ないじめを受けた。それは小さなことから始まったので、気にしないでいたらどんどんエスカレートしていった。


 


 使いかけの消しゴムやシャープペンシルといった金額はさほど高価なものではないが、なくては困る。

 地味にさりげなくなくなるので、親や先生もいじめだとの認識はなく単なる私の不注意だとされた。

 結局、少ない小遣いから必要なものを買い揃えてその月の懐具合はかなり悲惨なことになる。

 これ以上の被害を抑えようとなるべく持ち歩くようにしたり、買えなかったものは借りることでしのいでいたが、ある日突然に苦悩の根源が終了した。


 


 何をどうしたのか、ラスボスリーダー女子を中心としたグループが私というよりもその隣にいた鏑木を見て遠のいていく。

 そんな感じで小学校の最高学年を終えた時は、ホッとしてしまい卒業式の日は気が緩んでしまったらしい。

 下級生の女の子にもらったらしい花束を両手にいっぱい抱え込んだ様子は、まるでアイドル。優しげな顔なので、ちょっと見には可愛らしい女の子にも見えるが、奴の気の強さを良く知っているだけに笑えた。

 中身と外見のギャップって凄いと感じた。おそらくはギャップ萌えってのに脳のどこかがやられたんだと思う。



 気づいたら、好きなのかもなんて考えてしまった自分が呪わしい。

 多分読まれたと気づいた時には遅かった。

 「えっあっ」と言ったきりの沈黙が辛かった。この時のやつの顔は、いつもの可愛らしいけどどこか油断できない獣じみた気配もなく、ごく普通の小学校を卒業したばかりの男の子に見えた。

 



 うっすらと赤らめた顔に浮かんでいるのは、焦りだろうか。照れだろうか。それとも単なる驚きか。

 どちらにしても私は、自分自身の感情を読まれてしまったのを知る。

 人は本当に困ったら頭の中が真っ白になるっていうのは、真実だなと冷静に考えるだけの頭はあっても、現実と向き合うほどの精神力は残っていなかった私は、逃亡した。

 


 その日を境に、鏑木との接触をたったのである。

 救いは、卒業式だったので学校で顔をあわすこともなくなったことだろう。中学校の入学式がくるまで、田舎のおばあちゃんの家に避難をした私は卑怯だったろうか。

 とにかく、恥ずかしかった。異性への好きだという感情を持ったのも初めてでそれをよりによって相手に知られてしまう。

 



 こんな恥ずかしい思いをするくらいならと、失踪も考えた。具体的にはおばあちゃんの家での居候と転校という手段だったが、これはさすがに普段は子供の自主性を重んじてくれている両親の反対に負けた。

 まあ、普通そうだよね。理由も説明できないし。





 悄然として出向いた入学式ではあるが、鏑木とは全く別のクラスになることができ本当にホッとした。

 さらに嬉しいのは、三年間というもの端っこと端っこにある教室だったので、ニアミスはあってもまともに会うことがなかったのである。

 



 噂では、鏑木が受験するはずだったのは偏差値高めの私立の男子校だった。しかし受験に失敗したのか噂が間違いだったのか何故か同じ高校にいらっしゃった。

 入学式の日、壇上で新入生代表の挨拶をし始めた鏑木を見て仰天していた女子は私ただ一人で、他の女子ときたら当然の反応を示していた。

 要するに、浮かれてざわついていたのだが。

 



 三年近く会わなかった鏑木の身長は伸びても、顔は相変わらず可愛らしい。いや少しだけ丸さが取れて可愛いというより格好良くなってしまっていた。

 まあ、私の場合は鏑木が可愛かろうが格好良くなろうが関係ない。

 同じ学校しかも今度は、クラスも同じということで、対策を少し変えた。そう、今度はヤンキーを目指してみたのである。

 近所の元ヤンキーだったというお姉さんのアドバイスを受けた、即席ヤンキーではあるが、現在割と効果を発揮中。

  



 優等生とヤンキー、これは相反するキャラクター同士。当然接点は、なくなるはずと、思いきや鏑木は暇さえあれば声をかけてくる。

 そして、今やヤンキーとして刻々と修行を積みつつある私は、クラスでは浮き上がっている感は否めない。でもラスボスリーダーからもほどほどの距離を置いてもらえているので、満足している。

 ので、このままそっとフェイドアウトすることを希望しているのだよ。鏑木、決して近所だからといって気楽に「やあ」といって訪ねてきてもらっては困るのだ。

 例え、その手にはお土産を持っていたとしても、困るのだ。

 大事なことなので二回言っとく。

 



 「そう?でもせっかくのレモンメレンゲパイに罪はないと思うよ」と言いながらおもむろに白い箱を開けてみせる。

 中に入っていたのは、もちろん麗しきレモンメレンゲパイ。白いメレンゲに程よい焦げ目がついていて実に美味しそう。

 「……」美味しそうではあるが、これに手を出したら危険、おそらくはまた常に一緒にいる日々が始まり、再びあのどうしようもなく恥ずかしい思いをしてしまうのだろう。

 




 あんな思いは一度で懲りた。もう絶対に嫌だ。

 私の頑なな決意は、玄関で固まっている私と鏑木の様子を不思議に思った母によって破られた。

 「お母さん、ダメそれを受けとっちゃっ……」

 「何を馬鹿なこと言っているのよ?おかしな子ね。友哉君、久しぶりねぇ、さやこのことは気にしなくてもいいからね、上がって」

 「美味しそうなケーキねぇ」と言いながら、リビングの方へと消えていく。

 




 二人で玄関に残されてしまい慌てて追いかけると、すでにトレーにのっけられて用意されていた。

 持っていくばかりにされたレモンメレンゲパイとティセットが。

 とっとといけとばかりに、渡され自分の部屋の方へと押し出される。

 ちゃっかりと、自分の分を取り除けてお茶を入れているし。まったく要領の良い母である。

 仕方ないので覚悟を決めて、鏑木を自室へと招きいれた。

 



 「ああ、散らかっているけど……どうぞ」

 「えへへ、おじゃまします。久しぶりに入るね?さやこちゃんの部屋、でも、なんかアレ?」

 うん、鏑木が驚いている。無理もない、小学校を卒業して以来付き合いもなくなり、行き来することもなくなったのだ。やつが知らない物が増えていることだし。




 「さやこちゃん、だいぶ部屋の雰囲気を変えたんだね」

 中学の頃まではそうでもなかったのだが、高校デビューをヤンキーというカテゴリーで果たしてから私の趣味も変わりつつあるからな。

 驚くのも無理はない、以前はなかったヤンキーにとっては、神様のような存在だという某シンガーのポスター、近所のお姉さんに頂いた各種ヤンキーグッズが飾られているのだ。




 鏑木の視線が椅子の背にかけられていた革ジャンに釘付けになった。ふふん、これは自慢の逸品だ、羨ましかろう。

 私には、もう必要ないからと元ヤンキーのお姉さんから頂いたのは、他にもあるが、この革ジャンは色々と重宝している。

 女子高生に男物の革ジャンというのもどうかと思ったが、案外とコーディネート次第ではどうにでもなる優れものだと教えられた。お姉さんありがとうございます、お姉さんに革ジャンをくれた元カレさんもありがとうございます。



 いつの間にか、目の前に危険人物がいるのにもかかわらず、気が緩んでいたようだ。気がついたら至近距離に詰め寄られていた。

 うん、もう少しで長いまつげがぶつかりそう。気持ち後ろに下がってみる。どうしたものか、敵も一緒についてくる。

 心の中で、下がれよとかくるなとつぶやいてみるのだが、こんな時にはちっとも効力を発しなかった。

 そうだ、レモンメレンゲパイだ。あの美しく美味しい芸術品で心を和まそうと、部屋の片隅に置いておいたトレーの方を見る。

 



 「ダメ」何故か目を塞がれた。

 「何故?」何で目を塞ぐんだと聞いたつもりだった。

 「さやこちゃんこそ、何で。僕のことを否定するの?」

 「……」まずい、と思った。

 「さやこちゃん、僕が側によるとレモンメレンゲパイのことを考えていること多いよね?と、いうよりレモンメレンゲパイのことしか考えないようにしているよね」

 



 おおっと見破られたあっ私の唯一の鏑木友哉対策を。いやっまだ大丈夫だっ、レモンメレンゲパイがダメならレモンスクエアで勝負。

 パイと違って割と簡単にできる。それにスクエアは、元々扱っているお店が少ないので自分で作ることにしているのだ。

 



 そうだ、あの甘くて酸味が効いているデザートを久しぶりに作ってみるのも悪くない。

 頭の中には、色も鮮やかなレモンやグラニュー糖などの材料でいっぱいになってきた。

 「さやこちゃん……今日は逃さないよ、目の前にいるのにそんな態度って。ホントにさやこちゃんは僕に冷たいよね」

 



 それにね、そんな態度とっていると……こんなことされちゃうよ?といって突然私の耳を噛んできた。

 「~~」立ち上がることもできなかった。腰が抜けてしまったらしい。格好悪いのだが足と手を使い何とか後ろにずり下がっていく。

 別に広い部屋でもないので、早々に壁にぶち当たり、敵に苦笑いをされる。

 


 「小学校の……」と言いかけたのでとりあえず両手で耳を抑えて見る、さらに頭では食べたいデザートのことを連続して考える。この方法しか鏑木の力を逃れる方法が思いつかなかったからだ。

 鏑木は、ため息をつきながら、さらに私の方へと身を寄せると右耳を抑えていた右手に口付けられた。

 と、思ってたら舐められた。手の甲に湿った感触の柔らかいものがへばりついている。

 何だか、エロい。口付けられるよりずっとエロい気がした。

 



 「ひいいっ」何と恐ろしい、ホラーだっ。私は自分の部屋だというのにナメクジ人間に襲われてしまった。

 「ひどいっさやこちゃん、ナメクジ人間だなんて……僕、泣いちゃうよ?」

 「う、嘘を言うな?それに堂々と人の心読まないでくれっ」

 「ふふっさやこちゃんは、僕が人の心読めるのとっくに知っているじゃない。でもさやこちゃんの心を読んだのはあの時が初めてだよ?」

 「……」

 「ふふ、あの時は嬉しかったなあ。大好きだったさやこちゃんが、実は僕のことを超大好きでいてくれたなんて」

 



 恐い、しかもなんか勝手に尾ひれがつけられているし。でも逆らうのはもっと、恐い。ああっ考えちゃダメさやこ。

 「何で、そんな妙な顔しているの?さやこちゃん、僕のこと恐いの?それとも、まさか……僕嫌われっちゃったのかな」

 



 不安そうにいう様子がいかにも頼りなさそうで、助けてあげたくなりますが、ダメ。

 これは奴の作戦、引っかかってはいけない。色即是空……。

 素敵なスイーツで頭をいっぱいにしよう作戦が失敗したので、心を無のままにしよう作戦に切り替える

 無になれ、さやこ。できる……多分……きっと。

 



 「ふうん、さやこちゃんてば頑固だねえ。でも無駄だよ、おばさんはすでに僕の味方だし、さやこちゃんが苦手としている僕の周囲にいる女の子達は少しづつ排除していくとして」

 部屋の隅に置いておいたトレーの中にある魅惑のレモンメレンゲパイに手を伸ばす。

 取ってくれるのかなと思っていたら、違ったようだ。何で指で直接取るの?フォークがちゃんと添えられているでしょうが?

 



 別に鏑木の分をどうしようと自由だけど、どうせならキレイに……。

 あれ?メレンゲとレモンクリームがついた指が私の方に迫っている気が……。

 「ふふっ、一度やってみたかったんだ。はい、あーんして」

 「いやっ自分でちゃんとフォークで食べ……ううっむぐっごっくん」

 



 外側がカリッと焼かれていても中はふわふわのままのメレンゲは甘く、レモンクリームは甘さと酸味があってあわせて食べると最高に美味しい。こんな食べ方邪道だと思うけど美味しい。

 「美味しいんだ。ふふっ顔を見てればわかるよ……心を読むまでもなくね」

 「あのっ普通に食べたいなってか、自分で食べ」るよとフォークを掴みかけた手を掴まれた?

 「こんなところにクリームがついてた」ニッコリと笑いながら、私の唇の端っこを舌でねっとりと舐めるあなたは誰ですか。

 



 「鏑木友哉、さやこちゃんの恋人で将来の伴侶」

 読まれている、そしてさらにとんでもないことを言い出した。暴走中?

 「さやこちゃん、僕さ親にずっとネグレクトされていたんだ。気味悪いって言われて」

 鏑木、クリームはもう取れたと思うんだが?

 「ううん、ついてる。僕がつけたともいうけど。でね、日々の食費代にも事欠く始末でさ」

 子供会のイベントの商品や賞金は本当に助かったよ。いたいけな小学生を食事も満足に与えないって鬼だよねって……。

 気楽に生きているように見えて実は結構深刻な事態だったんだな。でもこいつがおとなしく虐待され続けているわけないしと思っていたら、すでに親元を離れていたとのこと。

 



 自立資金は、子供会のイベント関係や親を脅して援助させたり、親の名義で投資をしたりといったところらしい。あまりやると目立つから危険だけどねと嘯いているのは本気か。

 「えっと、色々と大変だったみたいだけど、今はファンの女の子も多くいるし自立もしているし、良かったね?」

 「うん、色々と欲しいものが揃ってきているけど、まだ足りないものがあるんだ。一番大切なのが」

 「そう…なんだ。た、大変そうだね……ガンバッテ」

 途中から緊張のあまりカタカナになってしまったが、何だろうさっきから汗がとまらない。

 



 「まあ、今すぐには手に入らなそうだけど……でも、まあいずれはね」

 そう言いながら、再びレモンクリームとメレンゲを指ですくい唇に差し出す。

 これはもう素直に口に入れた方が傷が少なくてすむと判断したので、大きめに開けた口で飲み込もうとするのだが、どういうわけかするりと躱される。

 あれ?と思いながら見ていると鏑木は自身の口に放り込んだ。何だ、今度は自分の分だったんだと己の勘違いに少し恥らいながらも見とれていた。

 



 だって、食べている口元が何か、妙に色っぽ…いとか考えていたら顔ごと近寄ってこられ口移しされた。

 強引に押し入るように侵入してきた舌で、移されたレモン味のカスタードクリームとふわふわのメレンゲがミックスされて絶妙。

 しかし、せっかくの美味を堪能している暇もなく何ともエロエロしい行為に驚愕するしかなかった。

 「ふふっ今日はこのくらいにしておいてあげるね」

 不敵なセリフを残しながら、舌で唇を舐め回していくな。

 そして、鏑木はすっかり腰を抜かした私とレモンメレンゲパイを残して颯爽と帰っていった。

 とりあえず嵐は去っていったようだ。去ったいったのだよな?

 

レモンメレンゲパイはakiyamaの家の近くのケーキ屋さんのがとても美味しかったのですが店主さんが高齢になったために閉店してしまいました。

あの味は忘れられません。

最後まで読んでくれてありがとうございます。

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