論争7
後書き。ラノベではお馴染みの最後の部分だ。作品を見終えたご褒美として、作者からの感謝をこめたお礼のページとなっているのが一般的。
「とにかく、ラノベの後書きはクサ過ぎてしょうがない。あのね、ここが一番作者の実力を見せるページなの。純文学ではね……」
優香はふところから文芸雑誌をとりだした。
「先生、いつもそれ持ち歩いているんですか?」
「いや、文芸部に行くって言うから図書室で借りてきたの。そんなラノベみたいにご都合主義じゃないわよ」
優香はページを開く。新人賞受賞の声……ああ、ここだ。
「さっ、見てみなさい。作者の声よ」
「さくらぎしの? 聞いたことない作家ですね」
「桜木さん知らないならこの世に生を受けている意味がないわよ」
そこまで言わなくても。太朗は目を走らせる。
……なんと上品であろうか、これが文学作家の声。しかも新人賞受賞ということはまだまだひよっこではないか。太朗は愕然とした。川。これはもはや川だ。文字という文字が美しく、かつ力強く流れている大きな川だ。
「ねっ、レベル高いでしょ。ちなみにこの方は後に直木三十五賞に選ばれているわ」
「なんですそれ?」
「直木賞のことよ。まさか聞いたことないわけじゃ……」
「あ〜ああ、ああ、ああ。ど忘れしてました。知ってましたよもう」
チラッとニュースで聞くことはあったが、太朗はよく知らなかった。
「既に刊行されている作品を選考委員の方達が料亭の一室を借り切って選出するの。あと、同時に芥川賞も決めてるわね。つまりその年の年間大賞みたいなものかしら」
うーん、ラノベにもそういう賞があればなあ。
「つまり、作者自身の声というのは作品に縛られない自由な文を書ける場。ここが良ければ素晴らしい作家と言えるのよ」
ほうほう。そこまで気にしたことはなかった。
「それに比べてラノベは……ちょっと、さっきの本貸しなさい」
「ネタバレだけはやめてくださいね」
優香は太朗から荒々しく本を取ると、ペラペラとめくり後書きのページを開いた。
『はいっどうも作者のるかわです。この度はこんなクソみたいな本を手に取っていただき誠にありがとうございます』
「はい、謙遜のつもりでしょうが純文学で自分の作品をけなす作家はいません。減点5」
『えーもう最近はめちゃくちゃに忙しくなってしまいましてね、もう身体がいくつあってもキツイキツイキキキ……キラランちゃんのおっぱいはあはあ』
「ハハハ」うっ。
太朗は口を押さえて笑うのをやめた。
『えー、今も続編を書いて身体にムチを打っているところです。うん、とりあえず担当の小池、一回死のうか』
「よく担当が出てくるのあるけど、イタいだけだからね。減点5」
『果たして、キラランちゃんの前に現れた恋のライバルのクルルンちゃんはどういう……』
「あああああああネタバレ! ネタバレですっ! そいつ知りません!」
「あら、悪かったわ。でも、もう読めない。腹が立ってしょうがないわ」
優香は本を置いた。どこか気分が悪そうである。太朗は一旦教室を出た。