論争6
「何よ、アニオタとラノベがどう関係あるって言うの?」
「僕は今までたくさんのアニメを見てきました。古くはセーラムーンからおジャ魔女どれみ、プリキュア……中学生になってからは深夜アニメを見るようになりました。家族にバレないようにするのが大変でした。でも、それだけでは時間が足りなかったので、授業中にケータイでニコ動を開き、アニメを見るようになりました。でも……でも、ここまでやっても……まだ足りなかったんです!」
授業中に見てるとか……このクズめ。
優香は変わらず軽蔑の目を向ける。
「僕はアニメが好きで好きでたまらなかったんです! あんなに生き生きとしたキャラを間近に見れて、普段友達のいない僕でもなんだか友達ができたような気分になれた。心の穴を埋めてくれた。大地に足を着けるようになった時からアニメを見ていた僕にとって、アニメは僕のすべてなんです! 生き甲斐なんです!」
ちょっ、ずいぶんと熱弁ね。かわいそうになってきたわ。
「わかったけど、足りないというのは?」
優香の質問は耳に入らなかった。
「僕は気づいたんです。アニメは、元々ラノベから生まれていることが多いって。つまり、アニメ=ラノベ。そう、もはやラノベはアニメと同じ! 僕の心を埋めてくれるものだったんです!」
太朗は立ち上がり、指揮者のような振る舞いで続けた。
「アニメと違って、本はキャラの顔や情景、心理描写まで自由に想像できる。むしろ、アニメよりも深く作品を味わうことができたんです! アニメももちろん好きですが、今はラノベにハマっています! ああもうラノベ最高! ラノベイズビューティフォォォォォ」
…………
…………
「気は済んだ?」
「はい」
太朗は魂の抜けた表情で優香の胸を見ていた。
「よく揶揄されているのが、ラノベは絵の無い漫画って表現ね。映像化されていないアニメとも言うかしら。まああながちラノベ=アニメというのは間違っていない。そうね、アニメを見た人が原作を読むパターンもあるからそれが新規開拓に繋がるのかしらね」
ほら見たことか。ラノベを批判することはアニメを批判することになるのだぞ。
「ラノベ作家にアニオタが多いのは事実。作家達もあんたみたいなタイプばかりだからね。でも、それなら最初から漫画家を目指せばいいじゃない。自分の作品を手っ取り早く形にして広めるには絵が一番よ」
うーむ。そこはプライドだろうか。はあ、おっぱい揉みたい。
「私はこう解釈してしまうけど? ラノベ作家ってのは絵が下手くそだから漫画が書けない。でも文字なら多少なりともマシ」
「ってことは……」
「そう、ラノベ作家のみならず、クリエイターの最終目標は大衆に知られて、大ヒット作品を生み出して、お金持ちになることなのよ。ラノベってのはその表現方法の一つでしかないの。しかも、文字なんていう一番楽な方法で」
「ええ!?」
これは墓穴だ。太朗は指を差した。
「それなら純文学作家だって同じでしょう! 同じ文字ですよ!」
「純文学作家はアニメ化を目指しているわけじゃないわ。まあ元を辿れば純文学作家もそうなるわね。でも、例えば指南書や解説本なんかはそういうつもりで書いたのかしら」
うっ。確かに最近は人気作家が筆を取って学問、専門分野の解説書を刊行している例がある。
「ラノベ作家でそういうのが書けるのはほんの一握り。自分で文章が上手いと思っている底辺作家こそ書けないわ。そうそう、それで思い出したんだけど、ラノベって後書きがあるじゃない」
ううっ。嫌な予感がする。太朗は困惑した目で優香の胸を見た。