論争5
SEXだと……そんな……
僕は先生に憧れていた。
背は高いし、巨乳だし、黙ってれば美人だし……
そんな先生とSEXできる……
ぼ、僕童貞卒業します!
先生!
「はい、これがラノベよ」
「へ……?」
優香は笏で太朗の頭を叩いた。
「目を覚ましなさい。まんまと引っかかったわね。こんな感じで唐突にエロいハプニングが起こる、それがラノベ」
「知ってましたよそんなの」
ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉ。
「いかに内容が安っぽいのがわかったかしら。だからラノベ作家は実力が無いって言ったのよ」
「いやいや、さすがに露骨ですよ。そんなに酷くありません!」
「いやいや、これより酷いのなんて腐る程あるから」
優香は本を手に取る。
「……まずタイトルが嫌だわ。なんでラノベってこんなに長いタイトルが多いのかしら」
「えっ、面白くないですか?」
「そりゃ男子高校生にとっては面白いかもしれないけどはっきり言ってイタいだけだからね。ちょっと、あんたはこの作品のタイトル口に出して読める?」
「読めますよ」
どうせ恥ずかしいとか思っているのだろう。ここで下がったら負けだ。
「じゃあ窓から野球部に向かってそのタイトル叫んでみなさいよ」
「はい!?」
「できないの?」
や、やってやろうじゃないか。太朗は沈みかけの夕日を浴びながら窓を開けた。ノックの練習をしている野球部に視線を向ける。
そして、大きく深呼吸した。
「巨大化する魔法のステッキを拾ったら空から美少女が降ってきて俺修羅場!?」
…………
…………
明日から地獄かも。太朗は敗戦したボクサーのように腰に手をあてた。
「よく言った。なかなか根性あるじゃない」
「死にたいです」
「ほら、やっぱり恥ずかしいんじゃない。タイトルからして下劣なのが伝わるってことがわかったでしょ」
くそう。なんでわざわざこの本をサンプルにしてしまったのだろう。もっとマシなやつ見せとけばよかった。
「大体ね、こんな長ったらしいタイトル、五秒で作れるわ。タイトルというのは一言で内容をすべて把握できるもの。それこそ純文学の作者は血の滲む努力をしてひねり出すのよ」
「でも、タイトルだけで内容がパッと分かるのはいいじゃないですか」
「それは作者の力が足りないだけ。読者のレベルも低いってのがあるけれど」
また馬鹿にされた。
「あんたでもラノベのタイトル簡単に作れるわよ。ちょっとやってみて。五、四……」
えええ。
「きょっ……」
太朗は頭に浮かんだ単語をひたすら繋げてみた。
「巨乳が魔王を倒して……」
優香は黙って聞いている。
「でも魔王はロリコンだったから……俺の巨乳戦士がこんなに可愛いわけがない」
「はい下手くそ。しかも途中から完全にパクリでしょ」
「やっぱり難しいですよ!」
「余裕よ。『俺とお前で世界最高傑作の子を産まないか!?』はい」
「先生すごい!」
怖いくらい早かった。
「最近はウケ狙いだか目立ちたいんだか知らないけど下品で長ったらしいタイトルが多いわ。でも、ラノベを読まない一般人から見たらイタいだけで手に取ろうともしない。マーケットの新規開拓は無理でしょうね」
ついにマーケットの話になったか。太朗には苦手な分野だ。
「新規開拓してると思いますよ、僕は」
「へえ、どうして」
「アニメです」
アニメ。太朗は力強い目で優香を見た。
「僕はアニメオタクなんです」