論争3
るかわ。聞いたことのない名前だ。
「ラノベ作家とはずいぶんと増えたものね。個性的な感にしたいのかしら。そもそも漢字を開く必要なんてないでしょう、流川なんて」
つまりふざけた名前だということだ。
「先生、名前なんてどうでもいいでしょう。中身見てくださいよ中身」
「その前に言わせて。だいたいね、こんなセンスの欠片もない名前着けちゃって恥ずかしくないのかしらこの作者は」
ペンネーム。確かに最近は変わった名前が多い。
「流川って名字の人かもしれませんよ」
「それならきっちり本名で載せればいいのに。私嫌いなのよね。本名を晒したくない作家。自分に自信が無い証拠よ。その上ウケ狙いなんてもっての……」
「先生! それなら!」
太朗は狙っていた。純文学作家にも変わったペンネームが多いことを。
「乙一さんとか舞城王太郎さんとかはどうなんですか! 先生はあの人達のことも批判するんですか!」
「あったりまえじゃない」
こともなげに言われてしまい、太朗は慌てた。
「乙一だって自分の本名が知られたくなかったから名付けただけだし、舞城王太郎なんて狙った名前、入選したかったから目立ってみせただけ。つまり、ペンネームなんてくだらないもん、自分と自分の作品に自信がなかったから付けただけなのよ。そんなペンネームなんて偉そうなことできるのは超大物作家だけだからね」
太朗は後ずさる。ここまでペンネームに思い入れがあるだなんて知らなかった。
「ラノベ作家は特にペンネームが多いの。なぜだかわかる?」
もうここまで来たら優香の考えなど手に取るようにわかる。
「こんな恥ずかしい作品、本名じゃ書けない……」
「ビンゴ。親にすら知られたくない人だっているのよ」
うーん。答えてしまった自分が情けない。
「いや、誇りに思ってる人が大半だと思います。じゃなきゃラノベ作家なんてできません!」
勝った。この理由はデカい。
「じゃああんたこの作品を自分が書いたとして友人、家族に見せることできる?」
太朗は優香から本を受け取り、ページをめくった。
『ちょっ! ちょちょちょちょちょぉ〜〜い! お前何俺の上に乗ってんね〜ん! おかげで俺のビッグダディが爆発するだろが!』
『うっさいわよ! 私の魔法でウルトラビッグダディにさせてやるわ! それっ、ボインニャニャニャニャ〜〜〜〜〜!』
『猫かてめえは……ってうわっ! デカくなってきた!』
『月まで伸びろ〜♪』
太朗は本を閉じた。