兄の少女漫画的恋を応援する羽目になった
春は出会いと別れの季節なんて言うけれど、あたしの周りは別れなんて知らないで、出会いばっか訪れたやつが多すぎる。
まぁ、春っていうか、一年中思うんだけど。まぁ、十六年間、生まれてこのかたずっと思ってきたけど。
だから流石に、恋愛に希望も興味もない。
そんなあたしには兄がいる。もちろん、十七年間あたしと同じことを思ってきたはず。
だけど、始業式だった今日。家に帰って至福の読書タイムだったあたしへ兄が言った。
「俺、この漫画みたいな恋がしたい!」
読んでいた青年誌の上に被せて少女漫画を置かれる。持ち上げて題名を確認すると、[君のとなりにいたいんですがよろしいでしょうか]。
「何、この、下にでてるようで上から目線なタイトル。」
「いいから!読んでみろって!」
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要約すると、高三の春の始業式にイケメンが自分のクラスに転校してきて恋する話。
「うわー……よくある少女漫画的話。で、こんな恋がしたいと」
「そう!(キラキラ輝く目)」
「これ、転校生来ないとダメじゃん」
諦めな、と自分の読書タイムに戻ろうとしたところ、少し引っかかる。なんで、この漫画を見せたのか。イケメンとくっつく少女漫画なんて、たくさんある。
「…もしかして、自分のクラスに美女でもやってきた?」
「うん(ドヤ顔)」
「そんで、一目惚れ?」
「おう」
「で?」
「ん?」
「もしかして、この少女漫画みたく、くっつきたいわけ?」
「うん…」
みなさん、聞いてください。あたしの目の前に、乙女がいます。少女漫画並みの乙女がいます。それも妹が余裕で負けるくらいの。
今のところ七巻まであるこの漫画は、六巻で主人公とイケメンが、文化祭でくっつく。うちの高校の文化祭は9月。
「いやいやいやいや、無理でしょ、現実見なよ」
「いやいやいやいや、何のための妹だよ。お前、今恋とかしてないんでしょ?暇なんでしょ?じゃあ、俺の恋を成就させるため、頑張ってよ」
こんなことなら、二次元にでも恋をしておくべきだった。後悔に染まってるあたしは、タダはイヤだと報酬を求める。
「成就させたら、なんでも1つ買ってよ」
「いいよ、もちろん。何がいいの?」
「クリームパン。日本一のね」
「は?え?…あー、えーと、はい、了解した」
首をひねりながら、自分の部屋へと戻っていく兄を見送ってから、青年誌に目を戻す。と、主人公と巨乳美女がくっついた途端、イチャイチャしている場面だった。
なんなんだ、今日は。あたしへの見せつけか。信頼していた兄も恋に目覚めるし。
占いを確認したら、蟹座は1位。運気最高。
あぁ、あれか。あたしの運気は、他の蟹座に吸われた訳か。二階の絶好調の蟹座の部屋から、音楽が聞こえる。
いいよ、別に、成就させりゃあいいんでしょ?成就させたら、吸った分の運気も返せよ、バカ兄貴。
こうして、あたしは、自分ではなく兄の恋を応援する羽目になった。