第四話 死神
「――え?あの、緒神家の・・・・?」
「はい、そうです・・・・ご存知無かったですか?」
不適な笑みを浮かべながら言う、銀髪の男。
漁港の陰から刹と神を見つめていた男だ。
――これは十年ほど前にさかのぼる、
刹と神がまだ幼い頃の話。
「え、えぇ?ご存知無いも何も、彼らの名字は
緒神ではありませんし。そんな話聞いたこともありませんよ」
困ったように男に応じているのは、
保護施設の管理人である女性。
それをものともせず、男は続ける。
「当然です。緒神家の子供達は皆、独りになりましたから、
養子として引き取られて名字を変えたんです」
「はぁ・・・・。ですが彼らが緒神家の人間だからといって、
この施設を追い出すつもりはありませんが・・・」
「本当に、そうですか?」
男の声が、女性の頭の中に深く響く。
「あたり前・・・・です」
女性は少したじろいだ。
「この施設のためなら――
幾らでも出せますよ、補助金を。欲しければ、
あなたの個人資産としてのお金も出せます。
彼らをここから出してくれればの話ですが」
悪魔のささやきだった。
それは大きく女性の心を揺るがした。
「・・・・っ・・・でも!
追い出すなんてしたくてもできる訳ありません!
人権に関わる問題ですから。緒神の名を
いいことに追い出すだなんて・・・・」
「『したくても』・・・ということは、
少しは考えて下さっている・・・と?」
男の言葉に、女性がはっとして叫んだ。
「なっ・・・!そういう意味じゃ・・・
大体なんなんですかあなたは!彼らの何で・・・」
すると男は突然、女性の粘り強さに脱帽したのか
いきなり立ち上がり、
カバンを持って帰り支度を始めた。
「では、補助金のお話は無かったことに・・・」
そう言って後ろに振り返り、歩き始めた。
すると女性が立ち上がり、叫ぶ。
「あ・・・ま、待ってください!!」
「・・・何か?」
男の顔に浮かぶ、冷たい笑顔。
女性は自分の中に潜む
悪魔に怯えながらも、言った。
「あの子を・・・二人を追い出しますから」
振り返った男は、笑顔のまま、
「素直な方は大好きですよ。5日以内に
約束を守って頂ければ、この鞄に入っている
額までですが・・・好きなだけ取ってもらって結構です。
もちろん、鞄ごとも・・・ね」
鞄から取り出した札束を手に、そうささやいた。
――数日後。
「僕たち、引越しするんですか?」
驚きを隠せない様子で、まだ8歳頃の神が言う。
「そうなの。施設の都合でね・・・ごめんなさい」
「次は俺たちどこに行けばいーんだ、先生」
刹は寂しさのかけらも見せずに、女性に聞いた。
「それが・・・都合が急だったから、まだ
次の施設の手配ができてないの・・・。
地図ならあるから、それを見てここまで・・・」
女性が二人に、施設の場所が書いてある
小さなメモを一枚差し出す。
「・・・・わかりました。先生。
今までお世話になりました」
神が哀しげな目で女性を見つめる。
刹は見つめるというより、
睨みつけるような目つきで女性を見ていた。
「――これでいいんですよね?」
女性は男を睨みつけながら、男は
以前のような冷たい笑顔を見せながら、
施設の外で話し合っている。
「・・・はい、結構ですよ。約束です。
この鞄ごともらって頂いて構いません」
そう言って女性に鞄を差し出した。
女性は鞄を開けて無数の札束が入っているのを
確認すると、ほんの少し卑しい笑みを浮かべながら
施設の中へ戻っていった。
「――素直な人間は好きだが、
金に溺れる人間は、あまり好きではないね」
男は女性が施設に入ったのを見届けてから、
冷たくささやいた。
刹と神はそれ以降、その男のせいで
幾度も施設の移動を繰り返すこととなる。
彼らの悲しみは終わる事なく今も
続いている。まるで取り憑かれているようだ。
――そう。銀色の髪をした、冷たい瞳の死神に。
あとがき、あったり
無かったりですね・・・
まぁ忘却したってことで(ぇ
――さて、この銀髪くんは
何者なんでしょうね。
書いてる自分も得体が知れないw