第二話 笑顔
すると、神と呼ばれた少年が照れくさそうにふっと笑った。
「・・・何だよ」
無愛想に刹が聞く。神は笑いながら答えた。
「刹が僕の名前呼ぶなんて珍しいし、『ありがとう』なんて・・・今日生まれて初めて聞いたかも」
神の言葉を聞いた刹は顔を真っ赤にし、それを神に見られないよう顔を背けた。だが、
神に更に笑われて墓穴を掘る。
「あはは・・・でも、かなり嬉しかったよ。本当言うとね」
神はさっきまでの笑いを抑え、
一呼吸置いてから真剣な表情をした。
「・・・毎回、僕らの血縁達が死んで行くのを見て、
刹もいずれああなるんじゃないか、って不安がいつも頭をよぎるから。
刹なんか、辛くても誰にも相談しなさそうだしね。
『俺は逃げない』って宣言してくれて良かったよ」
神が優しい笑顔をこぼすと、刹が振り向いて言った。
「その心配なら、こっちもしてたさ。
お前の考えは、ホントに読めない」
刹がまだ不器用な、しかし純粋な微笑みを神に見せた。
「今日は刹も笑ってくれたし、
嬉しい事づくめだったよ。―さぁ、そろそろ帰ろう」
神が立ち上がると、刹もそれに続く。
二人は夕暮れ時の漁港をゆっくりと去って行った。
――その二人を陰から見つめる人影があった。
黒服の怪しげな、二十代半ばくらいの男。
銀髪の長い髪が、夕日に照らされて輝いている。
細くて華奢だが、大人びていて綺麗な顔立ちだ。
男はニヤリと笑うと、呟くように言った。
「君達に自由なんか、与えられやしないさ・・・・
『血』の運命に逆らうにはまだ弱すぎる・・・」
低く、哀しい声だった。
声は、まだ刹と神に届くことはなかった。
この男がこれから起こる全ての事態の引き金になるとも知らずに。