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第三話 蛇と猫

 生きるために、人を殺して金を手に入れた。生きるために、盗みもやった。けれども、私が子供の頃に誰かに拾われ、この世界に居なかったら私はどうなっていたのだろう?


ヘヴンズ・ウェイで仕事を終え、商業地区で買い物をしながら歩いている親子を見るとそんなこと考えてしまった。


「らしくねぇな」


ラッキーストライクをくわえながらひとりごちる。子供の頃から私は、一人で生きてきた。今更、分岐した未来を欲してどうなる?


届かないものをねだってもどうにもならない。どこぞの猫型ロボットに助けてって叫ぶのか?


冗談じゃない。


今の私は、路地裏で震え誰かの助けを待つのではなくこの生き方を選んでここにいるんだ。


その間に出会って別れた奴は数多い。時には、共に。時には、対峙したり。


こんな仕事をやっていると寂しさなんて感じてる暇もなかったってのに、ふと時間ができて違う世界を垣間見ると感傷に浸ってしまうなんて、私は老けたのか?


そんな考えを巡らせていると頭の上に乗っている猫がその愛らしい手で私の頭を、ぽん、ぽんと軽く叩いた。


「ニャー(らしくないじぇ~)」


何となく私の気持ちが猫に伝わったのか猫は一鳴きした。もちろん猫の言葉がわかるわけないので(いつぞやのは夢に決まってる)何を言ってるのかわからないが、なんとなく慰められているような気がした。


まあ今は、こいつや友人も含めてひとりじゃないな。そんなことを考えつつ家路につく。





 アウターヘヴンに戻って、ヘヴンズウェイと街並みが一枚の壁に遮られるだけでこうも違うのかと感じていた。その上、ここに集まってくる奴は、何かとワケありが多いときている。


そのせいか、そうさせる何かがあるのかは、わからないがここと向こうの治安、街並みなどがどんどん対照的になっていっている気がする。


そんなことを考えつつ家の近くまで来ると妙な雰囲気とともに男が一人立っていた。


「またか」


顔にてを当てひとりごちる。そして、相手を見た。黒い鍔広帽に黒いロングコートを着ている。男の顔は下をむいているため帽子の陰に隠れ見えなかった。しかし、頭の上にいる猫が震えているのが伝わってきた。


そこから異常であることを感じた私は、警戒しながら男との距離を縮ていく。目測で男との間合いが三メートルぐらいに近づくと突然、男が口を開いた。


「ワイルド・キャット、待っていましたよ。あなたが来るのを」


「で私になにか仕事の依頼か?」


男は顔を上げる。そこにあったのは笑顔だったが目は笑っていない。笑うのではなく何か恍惚としたものが浮かんでいた。決まってこのあとは、人の話を聞かず自己陶酔したセリフか訳のわからない自分の美学とか語るんだろうな。


「いえそうではないのですよ。私はこう思っているのですよワイルドキャット、ああー何故あなたはそんなにも美しいのだろうかと」


「Alright.」


男は突然両手を広げ満足そうに語る。


私の方はため息を一つ。


全く、私の方が両手を広げたいよ。


「綺麗な蒼く長いサラサラの髪、深く鋭く冷たい蒼い瞳。俗物の様に胸や尻、腰、腕、全身にかけて無駄なぜい肉など無くすべてが整っている」


好きな相手に告白するようにそして、素晴らしい芸術を見て感動するように私の容姿について語る。


「それは何か、私が貧乳で貧相な体つきで背が低い子供体型な女だとでも言いたいのか? Okey Okey・・・ブッ殺す!」


私は、その表現が余りにも不愉快だったため銃を抜き、素早くトリガーを六回引く。しかし、銃声と共に弾丸が男を捉えることはなかった。ただ、帽子だけは仕留めることができた。


「そうです。その殺気もまた素晴らしい快感を私に与え、あなたの美貌を引き立てる」


男の手にはコルト・パイソン(4インチモデル)が握られていた。それで、私が撃った弾を撃ち落としたのだろう。


「変態な割に腕は立つようだな」


「私は、こう思っているのですよ。あなたは美しく実に素晴らしいが何か足りないと。そう・・・華が、血というなの紅い薔薇の華が足りないのですよ」


「結局は、戦いたいんだろ・・・相手になってやるぜ!」


私は、ラッキーストライクを一本取り出し火をつける。タバコの煙を吐くと同時に背中に来るピリピリとした感覚を味わった。殺気や狂気とも取れるこの気配を肌に感じ私は自然と笑みがこぼれる。命のやり取りをするときの感覚だ。


私が投げ捨てたラッキーストライクが地面に付くと同時に男は笑いながら発砲する。私は、それに反応して体をよじり弾丸を避けつつ反撃した。男も撃ち落としたり、ステップを踏みながら踊るように回避していく。


かなりの狂人であるが腕は悪くない。


腕の動かし方、立ち位置、弾の軌道予測、反応速度、どれをとっても悪くはない。そう、悪くはないのだ。私は、すぐ近くに止めてあった車の影に隠れるべく牽制をいれ走る。


銃弾の雨をかいくぐりつつくるまにたどり着いた刹那、右肩に激痛が走る。男の弾が撃ち抜いたようだ。


「悪くないって言ったのは訂正だ。ド畜生!」


誰に聞かせるわけでもなく罵倒する。


どうやって打ち込んできたのかはだいたい想像がついた。銃弾の雨を降らせると同時に軌道を計算して跳弾させ飛ばしてきたんだろう。


とんだ達人だぜ。


この状況で私はこの狂人との戦いに喜びを感じていた。最近の私は、簡単な仕事ばかりで骨のあるやつとも戦うことはなくかなり退屈していたのだ。そこにやって来たこの男。


「くくく」


高揚感、気を抜いたらすぐにやられそうな張り詰めた空気、弾丸が肌を焼く感覚、すべてが私が私を生きていると感じさせてくれる。


「どうしたんですか?ワイルド・キャットあなたは、そんなにも弱かったのですか?そんなはずはないでしょう。私の前に初めて現れた時に見せてくれた輝きはどこに行ったのです!全てを蹂躙し戦場を駆け、戦う相手と踊る華麗なダンス、さあ華麗なる妖精の姿を見せてください!」

どうトチ狂ったらあんなのに成るんだろうな?


「勝手に変なイメージで私を語るんじゃねぇよ!」


私は、とりあえず罵倒してどう反撃に出ようかと思案しながら車越しに相手を盗み見ていると猫が頭をぽん、ぽん、と二回叩いた。そして、猫は頭から飛び降り地面に座り敬礼する。


「お前が行くってのか?」


「にゃっ!」


と短く一鳴き。思考時間一秒。


「Alright.」


私の言葉で猫は、素早くかつ勇猛に私の頭を踏み台として空に飛び上がった。私の方に近づいてきた男が一瞬でそれに反応し、コルトの引き金を引く。


「そんな小細工で私は倒せませんよ」


「確かに小細工さ。でもな、それで十分なんだよ!」


猫は空中で銃弾を体をひねり紙一重の見事な回避を行い男の顔面まで到達し視界をふさいぐ。


「馬鹿な!」


猫を顔から引き離そうとしている間に私は車の影から飛び出し、素早くベレッタPx4のトリガーを引く。


猫が男の顔から離れ男の顔を弾丸が捉え倒れると思われた。


しかし、男は踏みとどまった。頭自体はのけぞっているが、二本のあしでしっかりと大地を踏みしめて立っている。


頭を勢い良く持ち上げた男。その顔はとてもいい笑顔だったが違和感を感じる。


「全く・・・今度はこっちが馬鹿なって言いてぇよ」


違和感の正体は、弾丸だった。そう、奴は飛んできた弾を歯で受け止め、いや噛み止めていたのだ。


「こんな事もあろうかと、私の歯は全て人工歯根インプラントとなっていまして、歯の素材に関しては企業秘密だそうで私にもわかりませんが。・・・さあ続きと行きましょう」


しかし、私の顔も笑っている。何故ならこんなにも楽しい相手は久しぶりだからだ。


短くなったラッキーストライクを捨て私は、全力で男との間合いを詰めるべく走り出す。


相手の男は、狙いを定めるでもなくコルト・パイソンを握りただ立っていた。殺気を感知した私は、急停止して距離を取るためバックステップ。


刹那、私がいたところに穴があく。見ればコルトパイソンの銃口が私の方をむいていた。そして、コルトが牙を剥く。


「チッ!」


ベレッタPx4を構えて撃つ。甲高い金属音と共に弾丸はあさっての方向に飛んでいく。ここでお互いリロード。


そして、ベレッタがコルトが吠える、吠える、吠える!


二発は相殺、残りの一発がお互いの顔をかすめ裂傷を付ける。私は、男の体から出る気配を感じることに全神経を集中させる。


二人は沈黙、気配を伺う。


こういう場合先に動いたほうが負けることが多いという。しかし、私は男より先に動いた。男もそれに対応して発砲。私に向かって弾丸が飛んでくる。


私は、それを体を捻って躱し同時にナイフがグリップ下にについたベレッタPx4を投げた。男は、飛んできたものを右に飛んで躱した。


そこを狙って私は男に詰め寄り顔に拳を叩き込む。相手がのけぞったところにもう一丁のベレッタPx4を抜くが撃たせてはくれなかった。


のけぞっていたが倒れていない男の拳が私をの腹にはいる。相打ちになりすぐに体勢を立て直し銃を構える。


だが銃口は二人の眉間をポイントしていた。


「お互いチェックメイトだ。さあどうする?」


「そのようですね。どうしましょうか?」


数秒の沈黙。


そして、二人は動き出す。


男は後ろに飛び退く。しかし私は、相手のそれよりも早く顎を蹴り上げるようにバック転。


いわゆるサマーソルトキックをはなつ。それが見事に男の顎を捉え、後ろに飛び退く勢いも加算され派手に一回転して地面に叩きつけられた。


私は、そこに容赦なくベレッタをポイントして引き金を引く。


今度こそ男の頭に命中。男は少しうめき声を上げ一瞬だけ痙攣して動かなくなり地面には血が溢れ出しその海に眠る。


私は、ラッキーストライクを取り出し火を点け、男の死体を一瞥したと踵を返し、


「久しぶりに、燃えたよ。けど、私程じゃない。あんたの敗因について私はこう思ってるんだ速さが足りねぇってな」


私のかわりにジッポライターの蓋が締まる乾いた金属音が答えてくれた。


… to be continued

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