第一話 野良猫
殺人などの非合法なことや訳の分からないノリと勢い、猫に娯楽といったものが苦手な方はご遠慮下さい。
小説や漫画のように目が覚めたら異世界だったなんてことはなく、ただいつもの天井が目の前に広がっているだけ。
部屋の床には、服や下着が散乱していた。
もちろん、片付けをしようと思ったことは幾度もあったがそんな時に限って、携帯がけたたましく仕事の到来を告げ、邪魔をしてくれる。
よって片付かない。友人にも、いいかげん片付けろと何度も言われそのたびに片付けようと思うのだが、携帯がなる、仕事、片付かない。
このループが続いている。
「・・・なんか気だる」
私は、煙草を一本取り出すが火をつけるのをやめた。体がべとついて気持ち悪く吸う気になれない。
とりあえずシャワーを浴びることにした。風呂にも入ろうと思ったが、浴槽に湯を貯めるのが面倒でやめた。
全身を熱い湯が心地いい刺激と共に体のべと付きを洗い流し、いつものクリアな状態にする。
シャワーを浴びたあとは下着を身に付けず軽く体を拭いたあとバスタオルを肩にかけ、部屋にある冷蔵庫からミルクのビンを取り出した。
いいかげん、二十歳すぎたのにミルクかよとよく友人に言われる。まったく自分は、これが好きなんだほっといてくれ。
世の中には酒が好きな奴が居るがあれのどこがいいんだか?
私は、窓を開け部屋に風を入れる。そして、腰に手を当てミルクを一気飲み。
「ぷっはーーー」
これを友人の前でやると親父かとツッコまれるが、出るんだから仕方がない。
さっき火をつけるのをやめたラッキーストライクとジッポライターを取って、改めて火をつける。
窓の淵に手を付きながら外を見る。空は、快晴、時折鳥たちが楽しそうに空を舞い、風が心地よい。
昨日の仕事が厄介なもので、長引いた挙句家に帰ってきたのが明け方だった。
帰ってくるなりそのままベットにダイブ、で起きれば昼であり現在である。
右手にはアウター・ヘヴンの街が一望でき、左手にはヘヴンズ・ウェイの街が分厚い鉄の壁に邪魔されて見えるはずなんだが見えない。
そんな私の世界を眺めていると
「にゃー」
と一鳴き猫の声が横からした。
声の方向を向くと家の窓の淵に器用に座ってここが自分の定位置だ、早くミルクをよこせと言わんばかりに私が置いていたミルクビンを軽く猫パンチ。
しょうがないのでミルクをもう一本冷蔵庫から出して小皿に移し猫の元へ置くと、すぐにミルクを飲み始めた。
ここで煙草をもう一本。
「お前は、気楽でいいよな」
そう言って猫に微笑みかけると猫は、顔を上げ
「そうでもねえですよ姐さん。こっちにだってネコの社会ってのがあるんですぜ」
そう言ってすぐにミルクをまた飲み始める煙草を思わず窓の外に落としてしまう。ここの家はかなり高い位置にあるのだが下に人がいようが今はどうだっていい。
疲れてるんだもう一眠りしよう。すぐにベットにもぐりこんで、目を閉じるとすぐに深い闇に意識が沈んでゆく。
再び覚醒するとすでに夕方。猫もいなくなっており、黄昏の夕日が目にしみる。冷蔵庫から三本目のミルクを取り出して、戻ってくるとテーブルの上に一枚の紙が置いてあることに気づく。
その紙に書いてあったものみて愕然とする。紙には丁寧にお礼が書いてあった。しかも、筆で。そして、文末に見事な猫の手マークが押してありにゃん太とご丁寧に名前まで書いてあった。
ここで本日三本目の煙草を取り出しジッポライターで火をつける。窓から夕日を眺めながら、煙を吐くと同時に溜息をひとつ。
「なんなんだ」
と肩を落としひとりごちる。すると、携帯の着信ゴッドファーザー愛のテーマがなった。
電話を取ると相手は、いつもの仲介人で急ぎの仕事が入ったからすぐにやってくれとのことだ。
「ちょうどいい」
私は、一服した後椅子の上にかけてあったジャケットと床に散らばった下着やいつもの黒いシャツとホットパンツをとって身にまとい、相棒のベレッタPx4二丁の弾倉を確認して、腰のホルスターにしまう。
玄関口で自分の部屋の状態を見る。今日も部屋の片づけができなかったな、まあいい。
私は、野良猫。名前はまだない。
さあ仕事の時間だ。
私は、家を出て天国の外側と天国への道を猫のように自由気ままに暴れまわるのだった。
..to be continued