86. 顛末
会話が途切れたタイミングでメイドがティーセットを持って部屋に入ってくる。
「ありがとうございます」
前と同じようにリャナンがお礼を言うと、ルトナーもお礼を言うリャナンが、思わずルトナーの顔を見るとルトナーは照れたように窓の外に視線を移す。メイドは何事もなかった様にさっさとその場をあとにした。
「さて。長い間連絡取れなくてごめんね。新年も無事迎えられたし、新体制もどうにか整いそうだからやっとリャナンさんとも話ができたよ」
ルトナーが安心したと言う口調で話す。
「新体制って、新宰相レトン=ウエル様のことですよね。随分とお若い方なので驚きました」
リャナンがレトンの感想を言う。本当は貴族っぽくないとか、印象としてはそういうことが先に立ったが言ってはいけない言葉であろうことはリャナンにもわかっている。アルタイ家の新議員も今日初めて見たが、リャナンに挨拶することなく貴族仲間と共に会話に興じていた姿からどうやら典型的な貴族らしいとリャナンはあたりをつけていたため、レトンの有り様はより新鮮に写っていたというのもある。
「なかなかこの国も人材不足でね。その中から彼を見つけられたことは奇跡に近いかもね」
ルトナーがリャナンの言葉を否定と取り、言い訳のような返答をするとリャナンは
「別に否定しているわけではありません。何より、人が好きな方のようですし、貴族風も吹かせてないし私は好感の持てる方だと思いましたよ」
慌てて言ったせいで結局、心に留めておくことにしようとしたことまで話してしまう。
「それはよかった。ウエル家の人間ってだけで彼には価値があるからね」
少し前とは対照的に一気にルトナーの口調が冷たいものへと変わった。リャナンはその変化についていけず、まるで謁見の間でのようなルトナーの口調と顔つきに呆然とルトナーの顔を見た。
「リャナンさんも知っている通り僕が国王になってから議員は四人の内二人が更迭、さらに国王就任と同時に宰相に就任したローンは半年で自殺と議会の変化が多くてね。これ以上は制度を揺るがしかねない。でも前王からの議員であるカイン=ウエル氏がこのまま大人しくなるなんてことは絶対にない。残ったもうひとりは前宰相と同じニエル家の人間だしね。むしろ残ったことを笠に着て来ると考えたほうが良かった。だから、ウエル家の人間を宰相にすれば少しは抑止力になるのではないかと思って、異例だったけどね、就任してもらった」
ルトナーの説明にリャナンは政治関係の家に生まれてなくて良かったとしか思えなかった。
「そもそも宰相の自殺が異例だったけど」
とあの日の夜のことがウソだったかのような続いたルトナーの言葉にリャナンは着いて行けない。そもそも宰相の自殺の原因は噂で回ってきていたが、俄かには信じ難くそれをこの場でそれを聞いていいのかも判断がつかない。リャナンが一人でグルグル考えていると、
「宰相の自殺の原因は噂通り、先王の暗殺だからね。ついでにジェン=アルタイの越権行為の噂も本当だね」
ルトナーの至極あっさりとした言いようにリャナンは、
「ああそうなんですか」
としか返せなかった。一気にいろんなことを話されて頭がついていかない。