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82. 大広間にて

 寒さの厳しい今の時期に流石に園遊会は行われず、今回は大広間で舞踏会の形が取られている。

 リャナンは、ルトナーのエスコートにより、大広間へと向かう。相変わらず一分の隙もなく歩くルトナーを横目で見ながら、リャナンもどうにか高いヒールを気にしつつ歩く。大広間に近づくにつれ、人影も増え、着飾った女性陣がルトナーとリャナンを見つけ眉をひそめる。小声のはずの噂話はリャナンの耳にもなぜかしっかり届き、リャナンは萎縮するが、ルトナーはさりげなくリャナンを促し、リャナンは改めて背筋を伸ばして前だけを向いて歩く。

 広間に到着すれば、既に多くの人が集まっていた。秋の園遊会の時とは比べ物にならないほどの。人がいた。その光景にリャナンが入口付近で足を止めると、ルトナーは再びリャナンを促す。前回の園遊会では会場に入った時に離れたので、リャナンはルトナーの行動に驚きつつも、なんとかついていく。大広間の真ん中を進む行為はリャナンにとっては勇気の要ることだったが、まさかルトナーの手を振り払うわけにもいかないので進む。ルトナーの行く先では人が慌てて、道を開けるため、人の壁と空白の場所の対比が激しい。広場の一番奥に到着すると、そこでようやくリャナンはルトナーに解放された。これ以上目立たないうちにと、リャナンはさりげなくルトナーから距離をとる。そしてルトナーはあっという間に人に囲まれた。そんなルトナーを見つめつつ、自分は目立たないようにと思うが早速リャナンも声をかけられた。


「こんにちは。リャナンさん」


後ろから声をかけられて振り向くと、そこには昨日も祭り会場であったカールが父親のヤーデと共に立っていた。


「こんにちは。カール様もいらしていたのですね」


リャナンも挨拶を返すと、


「ええ、新年は主だった貴族たちも招待の対象ですからね。父のお供という名目で出席させていただきました」


カールは昨日とは打って変わって正装に身を包み、立ち振る舞いにもソツがない。リャナンは、カールは普段はそうは見えなくてもやはり貴族なのだと、改めて突きつけられた気がした。


「昨日はありがとうございました。正直新年祭の人ごみを甘く見ていましたよ。リャナンさんがいなかったら。楽しむどころでは無かったです」


リャナンの感傷に気づかず、カールが話を続ける。


「そんな。私達の好きなように歩いただけですし、カール様が楽しんでいただけたのなら良かったです」


リャナンは答えながらどこの観光大使だと苦笑いを浮かべた。そのまま話は、リトルアやカミルのことにまで及びそうになったが、


「カール。親しくさせているとはいえ、陛下唯一のフランツェン様を長く拘束するものではない」


という、ヤーデの一言で、カールは話題を引き上げて、「また後で」と言ってヤーデについてリャナンの前を立ち去った。一人取り残されたリャナンはその場に立ち尽くしたが、何故かひっきりなしに貴族の人たちがリャナンに話しかけて来てその対応に追われることとなった。人が途切れる前に、陛下の挨拶と乾杯が始まってしまい、広間には音楽が流れ出す。音楽を聞くなど、リャナンのような庶民には、時々広場に来る旅芸人のものしか触れる機会がなく目の前にいる人の話よりも意識がそっちへ行きそうになるのを懸命に耐えながら一人ずつ相手をしていった。総じて、デメルングの評価は良く、リャナンの存在も特には疎まれていないようで、リャナンの気分は拍子抜けしつつもかなり高揚した。


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