81. 招待
新年なのにひとりでいるのはもったいないとのリャナンの母親、シュトルヒの一言により、リトルアがリャナンの家に泊まる形で新年一日目が終了した。家でもささやかながらご馳走が振舞われ、リトルアと夜通し話すなど初めてのことで日付が変わっても話し込んでいたのはご愛嬌というところか。
しかし、リャナンには笑ってばかりもいられないイベントが待ち受けている。お城でフランツェン達も含めた、新年祭が催されるのだ。今回はリャナンも忘れることなく、招待状もきっちり開催の三週間前には届いていた。寮まで帰るというリトルアと連れ立って道を歩く。昨日の屋台は跡形もなく片付けられ、すっかりいつもの街並みに戻っている。寒空の下、二人で吐き出す息を白くしながらリトルアと二人で並んで歩く。寝る前にさんざん話したにもかかわらず、道中も会話は弾みいつも一人で通学している道とは思えないほどリャナンの体感時間は短かった。それぞれの目的地に着き、リトルア別れるとリャナンは一度気合を入れて、城へ続く橋を渡る。入口で近衛兵に招待状を見せれば、大した確認もなく中へと通された。昨日は三人で通った所も一人で歩き、人でごった返していた前庭に今は誰もいない。リャナンは急に心細くなってきたが、それでもどうにか城の入口へとたどり着く。入口を開けてもらい中へと入れば、前回の園遊会の時のようにルトナーが待ち構えていた。
「おはようございます」
ルトナーがリャナンに声をかけながら近づいてくる。
「おはようございます。陛下。本日はお招き頂きありがとうございました」
リャナンが定型通りの挨拶を返せばルトナーは少し苦笑いを浮かべる。
「今回も申し訳ないけど、ついてきてください」
そう言ってルトナーは先に歩き出す。リャナンも想像がついていたので黙ってルトナーの後ろをついていくことにした。
案の定見覚えのある部屋に案内され、中に入ればやはり見たことのあるメイドが数人立って待ち構えていた。
「おはようございます。リャナン=エルスター様」
メイド達が恭しく頭を下げリャナンを出迎える。リャナンは突然のことに面食らいながらも、
「おはようございます。よろしくお願いします」
とお辞儀をした。メイド達はリャナンを部屋の奥へと招き入れ、数着のドレスを見せる。見せられたドレスにぎょっとしつつメイド達がとっかえひっかええドレスをリャナンに当てる。楽しそうなメイドの態度にリャナンはなんとか調子を合わせながら白を基調としたシンプルなドレスを選ぶ。選んだドレスにメイドは少し眉を寄せたが何も言わずリャナンにドレスを着つけてくれた。そこから髪型、メイクなどもリャナンに意見を聞いてある程度取り入れてくれた。前回と随分対応が違うと思いつつ、正装に詳しくないリャナンは結局メイド達の意見を取り入れることになるのだが、始終和やかな雰囲気で準備は進み、前回のように無言で職務を全うされるよりは居心地はいいものだとリャナンはこっそり安心した。次々と出される選択肢とメイド達の技術に本気で賞賛を送るとヒートアップして前回以上に飾り立
てられたリャナンが鏡の前に立っていた。
「あの。これはさすがにやりすぎでは…」
遠慮がちにリャナンが問えば、
「いいえ、リャナン様は、ルトナー陛下唯一のフランツェンなのですから今回のパーティーでもしっかりと存在感をアピールしていただかなくては」
と鼻息荒く言い放たれて、リャナンは部屋を送りされた。