80. 新年祭
そのまま四人で連れ立って歩き、メインストリートまでたどり着く。通りの両側に屋台が立っているせいで道路幅は三分の二程度である上に、観光客を含め、人通りは恐らく、一年で一番多い。確実にここ数年で一番多い人の出にリャナンはいささかゲンナリとするが大はしゃぎで先を歩く、カミルとリトルアを見て口には出さないことにする。
「すごい人ですねぇ。毎年こんなものなんですか?」
感心したようにカールが言い、
「今年は例年よりも人出は多いと思いますが、カール様は年始に出歩かないのですか?」
リャナンは不思議に思い聞いた。今日だけは貴族でも通りを歩き祭りに参加する。さらに、馬車の通行はメインストリートでは禁止になっている。今日だけは貴族でも通りを歩き祭りに参加する。貴族街に住んでいる彼でも毎年ここに来ているとリャナンは勝手に思っていたのだ
「親戚関係に万が一でもあったりすると面倒さいですからね。正月は家族と家で過ごしていたほうが楽なんですよ」
カールの言葉に、リャナンはそういえばカールの姉はアリアラの家でメイドとして働いていた話を思い出して貴族の中は大変そうだと一人勝手に納得した。
「昨年はお父様が議員になられて変わりましたか?」
不躾だと思いつつ興味本位だけでリャナンはカールに質問した。
「ものすごくと言う程ではないにしても、変わりましたよね、主に周りが。それはリャナンさんもそうなのではないのですか?」
含み笑いを込めたカールの言葉に、確かにそうかもしれない、とリャナンは去ったばかりの年を思い返す。フランツェンになって確かに周りが大きく変わった。変わらなかったのはそれこそ今、前を歩くリトルアくらいなものだ。黙ったリャナンに、カールが苦笑いを浮かべると、
「だからって出歩きだした自分が性格悪い自覚もあるのですけどね。陛下の挨拶とかお祭りとか一度ちゃんと見てみたかったんです」
と言いながら周りを見渡す。相変わらずの人出と屋台の出すいい匂いに楽しそうにしている。
「リャナンちゃん!早く~」
前を歩くカミルが一軒の屋台の前で、大声でリャナンを呼んだ。呼ばれるままにカミルの方へ行くとそこは毎年カミルとリャナンがニシンのパイを買うお店の前だった。既にカミルは購入済で、リトルアが店員と会話をしながら買い物をしているところだった。リャナンもリトルアに続き買い物をする。ほんのりとあったかいニシンのパイに自然と顔もほころんだ。さらに後を追ってきたカールも続く。
さすがに、四人で並んでものを食べるのには人が多く邪魔になるので買ったばかりのパイを抱えながら四人で横道に入り込む。同じ考えの先客がいたが、そのまま固まって四人で包を開けた。
「新年って感じがするよね!」
パイをほおばりながらカミルが満足そうに言った。リャナンも一年に一度の味に自然と笑みがこぼれた。家でニシンのパイを焼くことはあっても何故か新年に屋台で食べるものと同じ味にはならない。今年も無事に新年が迎えられたことに感謝をしつつリャナンは残りを食べ終えた。