79. 再会
国王の挨拶も終わり、前庭に集まっていた人達は、ぞろぞろとその場をあとにする。その流れに逆らうことなく、リャナンたち三人も外へと歩いていた。外は寒いが、メインストリートは新年祭で出店が出店している。夕方まで楽しめるだろうとリトルアはウキウキとしていた。
「今までこの週は実家に帰ってたから、王都の新年って初めてなんだよね」
「今年も賑わってるみたいだしねぇ。リャナンちゃん、私は今年もニシンパイが食べたいな」
カミルも一年に一度のお祭りにすっかり浮かれていつもより早足になっている。
「二人共落ち着いて。この人の波から出る前にはぐれたら二度と合流できなくなるよ」
リャナンが努めて冷静に言うが二人はそんなことはお構いなしに、ずんずんと人の波をかき分けて進む。二人を見失うまいとリャナンも歩調を速める。どうにか城の外にまで出て人の波も落ち着いたところでようやく三人並んで歩き出す。
「冬だっていうのに変な汗かいたじゃないか」
はぐれまいと必死だったリャナンが二人にちょっと小言を言う。リャナンの方が一つとはいえ年上なのでカミルと行動するときは自然とリャナンが面倒を見る形になるので小言も増える。しかし同じ年のリトルアにまで言わなくてはいけないことは、かなり腑に落ちない。
「ごめん。つい楽しみでさ~」
とあまり反省してない口調でリトルアが言うと、
「はぐれてもメインストリートに出ればまた合流できるって」
とよくわからない楽観論をひねり出したカミルにリャナンは脱力する。
「まあはぐれなかったからいいんだけど…」
脱力したせいで、怒る気力も削がれたリャナンは仕方なく話を終わらせて、そのままメインストリートへと歩く。
「リャナン=エルスターさん?」
突然、後ろから声をかけられて、リャナンはびっくりしつつも振り返る。リャナンが止まったことでほかの二人もつられて後ろを振り返ったため、必然的に声をかけてきた人物と三人ともが対面する形になった。
「カールさん!カールさんも陛下の挨拶を聞きにいらしてたんですか?」
リャナンが驚いた声を上げれば、
「リャナンちゃん?どちら様?」
見知らぬ男と、知り合いっぽい幼馴染を不安そうにカミルが聞いた。
「えっと。カール=ゼスト様。デメルングのクルティーをしていただいているの」
カミルの疑問にリャナンが手短答えると、カミルは『ゼスト』の苗字に驚いたようにカールを見つめる。
「幼馴染のカミルと同級生のリトルアです」
横に並ぶ二人をカールに紹介すると、
「リャナンさんにはお世話になってます」
とカールが挨拶をする。「お世話なんてしたことないですけど」とリャナンが笑えば、カミルもリトルアも釣られて笑った。しかし人の流れがあるところで、立ち話をしていたために、周りからの白い視線が集まりだしたことを感じた四人はそのままなし崩し的に並んで歩き出すしかなかった。