77. 新年祭
結局、ルトナーから何の連絡もないまま年が明けてしまった。新年一日目、数日前から学校は休みになっており珍しい長期休暇で実家に帰っている生徒も少なくない。休暇明けには領地ごとに少しずつ違う新年の迎え方に驚いていたのは、一年生の頃の話だ。
国王直轄領のここでは、城で国王の挨拶がある。そのあとはメインストリートで出店が出るなどしてお祭り騒ぎがこの国の新年の迎え方だ。
リャナンは学校の前でリトルアと待ち合わせをして一緒に国王の挨拶を聞きに行くことにしていた。地方出身のリトルアは今までは帰省していたが、今年は新国王になってから初めての挨拶ということで、帰省せずに聞きに行くのだと休み前に張り切っていたので、リャナンはカミルも誘い三人で城まで行くことにした。
実はリャナンが城に新年の挨拶を行くのは久しぶりだったりする。ここ数年、前国王はロクなことをしなかった気がしていて、挨拶を聞くことすら嫌だったのだ。
「おはようリャナンちゃん」
待ち合わせ場所である学校前でリトルアが後ろから声をかけてくる。リトルアはいつもの作業着も兼ねたオーバーオールではなく、薄紫色のセーターと黒いロングスカートを履いて厚手のコートを着込んでいる。リャナンも似たような格好で隣にいるカミルと話しながら、リトルアが寮から出てくるのを待っていた。
「おはよう」
リャナンとカミルで挨拶を返して、三人連れ立って歩き出す。
「晴れてよかったね~」
とカミルが言えば
「新年早々雨だったらテンション下がるところだった」
とリトルアが続ける。
「それ以前に式典中止になるから。何年前だっけ、ありえないくらい土砂降りで式典どころかメインストリートのお祭りさえ無くなったの」
リャナンが思い出しながら話せばカミルは、「そんな年もあったねぇ」と相槌を打った。リトルアは自分のところとは違う新年の迎え方を興味深く聞いている。
「新国王の年にそんなことにならなくてよかったね」
リトルアが声を上げれば、二人は頷いてみせた。
三人で連れ立って、城に続く橋を渡り、前庭にたどり着く。そこには既に多くの人が集まっていて冬だというのに異様な熱気に包まれていた。
「あの橋を渡るだけで別世界だね」
リトルアがポツリと呟く。人の熱気で隣にいる友人の声さえ流されそうな勢いだ。リャナンもリトルアも向かいにある学校に通っているが、橋を渡るだけで別世界というのはリャナンにもよくわかる。
「リャナンちゃんは何度か国王陛下にお会いしたんでしょう?どんな方だった?」
何気ないカミルの言葉にリャナンは動揺する。何度かどころか国王陛下に友達認定されて世間話までする仲だということは家族にすら言っていない。リャナンは国王認定の時と園遊会の時のルトナーを思い出し、
「威厳のある方だったよ?」
と曖昧な答えを返すにとどめた。
「なんで疑問系?」
笑いながらツッコミを入れるリトルアにリャナンはさらに曖昧に笑ってごまかした。本当は違う面もたくさん持っていることを友人としてのルトナーを見ていて知っているのだが言えないことに少しだけ罪悪感を覚えた。