76. 噂話
授業と授業のあいだの休み時間。リャナンは周りの目も気にせず、大あくびをする。一夜にしての城での大激変にクラス中は大騒ぎで憶測を含めたもろもろの会話がなされているが、リャナンは意識してそれらを聞かないようにしていた。普段ならば世間話程度に噂話にも付き合うリャナンが、一切の興味を見せないことにリトルアは不思議がり、寮の仲間と共に噂話に興じている。
「リャナンちゃん。大あくびして、寝不足?」
噂話に興じているとばかり思っていたがしっかりと大あくびをリトルアに見とがめられた。
「うん。昨日ちょっと寝るのが遅くなっちゃって」
リャナンはぼそぼそと言い訳をする。昨夜はルトナーを城まで送りその足でカミルの家まで行きカルブンクルスの糸をまた扱えることを話していたら、その前のルトナーとの会話の時間も合わせて、思いのほか帰宅が遅くなり、両親にこっぴどく怒られてしまった。久しぶりの両親の雷を黙って聞いて遅い帰宅をひとしきり反省したが、眠りにつくのがすっかり遅くなってしまったため今の大あくびにつながったのだ。
「で、リャナンちゃんは何か知ってるの?」
唐突なリトルアの疑問にリャナンは一瞬止まる。最低限の言葉がリャナンを少し疑っている。
「いや。私が知ってることは何もないかな」
取り繕うようにリャナンが言えば、まだ疑わし気な視線を向けるが結局そのままリャナンの隣のリトルアのいつもの席に座る。
「あれ?もうみんなと話さなくていいの?」
「いやもう朝から同じ感じだし。憶測と堂々巡りでなんだかなぁって感じなんだよね」
リトルアがつまらなそうに呟くとリャナンは、
「まぁ。正式発表が何もないしね。しかもアルタイ家のご子息様は、今日は欠席なんでしょう?」
捕縛されたという、ジェン=アルタイの三番目だか四番目だかの息子が大学の二年生に在籍していたが、今日は欠席だったという情報が早々に生徒の間に広がっていた。
「まあ。そうだよね。アリアラさんだって今日までずっと欠席だし。人の俎上に上げられるのは耐えられないんだろうね」
リトルアがあっさりと返せばちょうど授業開始の鐘が鳴った。バラバラとクラスメイト達が自分の席に戻り、授業の開始を待つ。
結局みんながどこか浮き足立ったような空気の中で一日が終わり、リャナンはサッサと家路につく。学校から出れば、目の前に建っている城が目に入るがしばらくは会えないと言われたので諦めておとなしく家に帰ることにした。考えてみれば、昨日は散々両親に怒られたのだから今日はまっすぐ帰ったほうが得策だ。とリャナンは自分に言い聞かせて、歩く速度を早めた。