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73. 動き出す

 ルトナーの監視も兼ねて扉の近くに立っていたメイド頭が素早く扉を開ける。ノックの相手は、予想通りヤーデで手には資料を入れるような大きめの封筒を持って現れた。

「ローン氏の遺体は地下に安置致しました。それとこちらの封筒が机の上に置かれていましたので、勝手とは思いましたが、持ち出させていただきました」

言いながら封筒を座ったままのルトナーに差し出す。大慌てで、封筒を開けると中から資料と思しき紙の束が滑り出てきた。


「ローンは自殺だったんだよね?」


資料を持つ手が尋常ではなく震えて内容が全く頭に入ってこない。ヤーデの労わるような視線も辛くて知りたくもない話題を自分から振ってしまう有様だった。


「そのようですね。部屋にお茶とブランヴィリエの切花が置かれていました」


ブランヴィリエとは国王認定花のクリスマスローズで、根にある毒がほかの品種よりもかなり高い。フェローニア王国では死刑にも使われる毒の花だ。これだけは例外的に国王認定花でありながら、一般には流通していない。切花がローンの部屋に置いてあったということは根を使ったのだろうと、ルトナーは知りたくもないことまで想像してしまった。


「そう…」


結局言葉を繋げることができずに、部屋には沈黙が落ちた。どうにか資料を読もうとするが、やっぱり全く頭には入ってこず、諦めて資料を机の上に投げ出す。行儀が悪いと怒られるかと一瞬身構えたが、ヤーデはそんなことはしないし、怒るはずのローンはもう何処にもいないのだと改めて泣きたくなったが、議員であるヤーデの前でそんなことはできないと、顔を無理やり引き締める。


「詳細をお聞きしても?」


前に立ったままのヤーデがローンに伺いを立てる。確かに成り行きとは言え事後処理をほとんど任せてしまったのだ、ルトナーには説明する義務がある。ルトナーは、ありえない同名が進んでいたこと、それに伴いローンが先王を暗殺したこと責任は取ると宰相を辞めることを伝えてきたことなどの朝からの顛末を答えた。黙って聞いていたヤーデは


「その同盟を勧めていたのは誰なのですかね?」


と、あっさり疑問を口にする。その質問にルトナーは改めて考え出す。確かに先王が新たに自分から事をはじめるとは考えにくい。とにかく貴族連中の機嫌を損ねず、自分の王政時代を穏便に終わらせることだけを考えていたはずだ。その結果が平民への圧政だったわけだが、平民の声が直接国王に届くようなことはまずない。届かないものはないものと同じというような思考回路であったであろうことは、ルトナーは親子とは思えないほどの少ない接触の中でも感じ取れていた。そんな発想は教育係だったローンに一笑に付されて終わっていたが、とにかく、そんな思考回路の先王が自分から進んで明らかに自国に利益のないものを進めようとしていたのかは確かに疑問だ。そこまで考えて、ローンが残した資料に目が行く。さっきまでの集中力のなさなど吹き飛んで一心不乱に資料をめくる。


「ヤーデ。ジェン=アルタイを捕縛しろ」


敢えて連れてこいでもなく、捕縛という言葉を使う。ルトナーのひと言でヤーデは察して足早に部屋を出ていった。ルトナーはもう一度資料を見直す。マゲイロス王国の刻印が入った生文章などどこで手に入れたのかと問いただしたくなるような立派な証拠の数々だが流石にローンが用意した資料のみで判断するわけにも行かない。近衛兵を呼び捜査を命じると、ルトナーは椅子に深く座り直し、ため息をついた。


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