71. 真相
「私は先王を暗殺致しました。そのことについて、申し開きも後悔もありませんが、責任だけは取るべきだと思ったからです。」
ローンの続けられた言葉にルトナーを必死に理解をしようとする。
「暗、殺…」
ローンの言葉からどうにか一言を反芻する。
「なんでそんなことを…」
反芻したことで少しだけ動き出した頭で思ったまま疑問を口にする。
「先王の元、マゲイロス王国との同盟話が持ち上がっておりました」
「マゲイロス王国との!?そんな馬鹿な。あんな国と同盟を結んだら戦争に国民が大陸の戦争に駆り出さ
れることになる。それが元で他国からこの国が攻め込まれるようなことになりかねないよ!」
マゲイロス王国は大陸の西側にある国で、海には面しておらず、土地も痩せているため、国内の生産性は著しく低い。それでも一国としてみても莫大な財産を築いているが、その理由は、傭兵の輸出にあるという、肥沃な土地を武器に農業大国となっているフェローニア王国にとっては全く理解できない国状を呈している。
「実際それが狙いでしょうね。戦争が国の収入源になっているマゲイロス王国は同盟国が起こす戦争ほど商売のチャンスはないわけですし」
「そんな馬鹿な」
淡々とローンに突きつけられたこの国の未来に愕然とし、ルトナーは力なく呟く。
「私が知ったときはまだ内々の話の段階でしたが、事態は一刻を争うと思い暗殺という短絡てきな方法をとってしまいました。目論見通り、同盟の話は先王の死により立ち消えたようです。先ほど申し上げたように、後悔はありませんが、ここにいることはもう無理ですので宰相の任は辞したいと思っております」
宰相の辞任という一大事のはずなのに、一切気負いも危機感もなく告げるローンにルトナーは少し落ち着いてきた。
「何故今になってその話を持ってきた?」
「陛下が議会を掌握出来たと感じたからです。今のままでいられればこの国はもう安泰でしょう。それに議員の中にヤーデ氏という味方も得られたことですし」
ローンがルトナーを国王として認めたということに他ならない発言だがそれが宰相の辞任を決意させたのかと思うとルトナーは複雑な心境になった。
「先王は病死として判断された。埋葬も終わっている。今更暗殺がバレないと思うけどそれでも辞めるの?」
「バレる、バレないの問題ではありません。国王がそんな心構えでは困りますよ。あなたも知った以上私を引き止めるようなことを言ってはいけません」
どこまでも教育係としての発言にルトナーは思わず笑いがこぼれた。
「わかった。今まで未熟な僕と、どうしようもない国王を正してくれたこと感謝する」
ルトナーは椅子に深く座り直し、できるだけ威厳を持って宣言する。彼の宰相としての最後くらい国王然として見送りたい。
「ご理解感謝致します。ではこれで失礼いたします」
ローンは深くお辞儀をすると扉へ向かう。扉が閉まる直前、
「それでは、ご機嫌よう」
と言って扉の向こうへと消えた。ルトナーはそのときのローンの顔が引っかかかり慌てて後を追おうとするが、鍵がかかっている様で扉はガチャガチャと不快な音を立てるだけで開かなかった。




