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64. カルブンクルスの糸

ヤーデが用意した馬車に乗り込み、街中を走る。走っている場所は城門から城へと向かうメインストリートだが、ルトナーにとってはあまり馴染みのない道だ。ルトナーが出るのはせいぜい官公庁街と貴族街、それと向かいの大学くらいである。窓から行き交う人を興味深く見ていると、ものの数分で馬車は止まった。ヤーデに促されるまま馬車から降りると店の前のようだった。これといって特徴のない、この国では広さも門構えも標準的な店である。


「ここ?」


あまりに標準的な店にルトナーは思わず疑問をヤーデにぶつける。


「ええ。中へどうぞ」


ヤーデが扉を引き、開けてルトナーを先に入れる。ドアベルが鳴りそれに反応した女性店員が「いらっしゃいませ」の声と共に、ルトナーを見た。


「お久しぶりです」


ルトナーのあとすぐに入ってきたヤーデが挨拶を返すと、


「あら。ゼストさん。本当にお久しぶりですね」


少し考えたあとで営業用の笑顔で応じてくる。


「本当に。家長になると自分で買い物もままならないですよ。エルスターさんもお元気そうでなによりです。」


にこやかに挨拶を交わす二人をただ見つめるだけのルトナーの隣によりヤーデは、


「ちょっと知人と話をしていまして思い出したものですから、ご迷惑かと思いつつ来させていただきました。こちら、シュトルヒ=エルスターさん」


ルトナーに紹介しつつ、ヤーデはルトナーのことをなんというか迷っている素振りを見せた。ルトナーは、


「はじめまして。ローン=ニエルです。突然のご訪問申し訳ありません」


言いつつルトナーは頭を少し下げる。とっさに宰相の名前を名乗ってしまったが気の利いた偽名など思い浮かばないので仕方がない。


「“突然の”って。お店ですからいつでも歓迎しますよ」


コロコロと笑いながら愛想よく話すシュトルヒにルトナーも笑顔で返す。


「立ち話もなんですから、どうぞおかけになって」


言いながら二人に窓際の椅子を勧めてくれた。窓際にお客をもてなすためのテーブルと椅子があるのもこの国の商店としてはオーソドックスな形だ。勧められるままヤーデとルトナーは椅子に座る。その間に、シュトルヒはお茶とお菓子を持ってくる。バラ茶の香りと焼き菓子の甘い匂いがお店の中に広がった。


「今日伺ったのはカルブンクルスの糸を見せていただきたかったからなんです」


シュトルヒが席に着いたのを見計らってヤーデが切り出す。


「カルブンクルスの糸ですか…。もうお売りできるものは残っていないのですよ」


シュトルヒが残念そうに言うと、ヤーデは見せてくれるだけでいいと猶もくいさがる。その様子に何かを感じ取ったシュトルヒは


「取ってきますからここでお待ちになっていらして」


と席を外した。



リャナンのおウチに突撃ルトナーでした。

お母さんの名前が初登場です。

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