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63. 就任

「陛下、ここでは問題ですから、部屋を用意させます」


ローンが先に歩き出す。ルトナーはヤーデを立たせると後に付いてくるように言い、歩き出した。ヤーデは三歩の距離を空けて付いてくる。話すこともないので無言のまま淡々と二人で歩くが、ルトナーは後ろが気になって少々歩きづらい。だからといって移動中に世間話をするような間柄ではない。確かに議員にと望んだ相手だが、直接親しくした記憶もない。いくつかの資料から最も適当そうな人材を選んだだけだった。議員の話を一度は断られてから、その息子が国王認定一号花のクルティーに選ばれたことは偶然で、ルトナーの預かり知らぬところで、事態好転のチャンスを得たと思ったことは少し後ろ暗い思いをしている。結局、花もリャナンも利用をしたに過ぎない。と自責の念に駆られていたから昨日の二人の態度の原因を探すことは一人で取り組んでいたというのもローンへの意地以外の理由といてあったのだけれど、それが自分の自己満足でしかないことも分かっているのでさらに気まずい。ルトナーにとって無言でいてもまったく気にならないのはリャナンだけのようだ。黙って付いてくるだけの相手を気にしながらいつも国王として客を招く部屋へと向かう。

 いつも通りの廊下を歩いたはずなのだが、必要以上に長く感じた。ようやく到着したというのが正直な感想だ。扉の前ではローンが待ち構えていた。ローンは近づいてきた二人を認めると扉を開ける。ルトナーが先に入りヤーデが続く。ローンが最後に入って扉も閉めた。部屋の中には大きな会議用の机が設えられていて向い合わせに座ると少し距離が離れるが、ルトナーにとって今はそれがありがたかった。ローンがルトナーの後ろに立って待機している。


「わざわざ来てくれるということはいい返事をもらえると思っていいのかな?」


自分から声をかけなければ話が進まないので、廊下を歩いていたときの焦りなど一切を隠し告げると、ヤーデは、


「ええ。謹んで拝命したいと思います」


あっさりと言い放つ。議員になるということに一切の気負いも感じない。あまり気負われても困るのでこれはこれでありがたいのだろうと思う。


「それは良かった。ゼスト家の席を長いこと空位にしておくのも問題があるのでできるだけ早く就任してほしい」


「そうですね。ゼスト家の末端に連なるものとしても家が没落していくのは見るに忍びないですからね」


ルトナーとヤーデは簡単に就任の話を済ませてしまう。始まってしまえば進むのは早い。


「しかし、何故急に受けてくれる気になったんだい?」


話がひと段落したところで、ルトナーが聞く。ヤーデはやはり一切の気負いも見せずに


「息子からあなたは本気で国を変えたいと思っていると聞きました。正直先王からのお話ならならお断りしたでしょうが、私は今ならあなたの作る国を見てみたい。さらにお手伝いできるというなら議員になるのも悪くないと思ったのです。もう老体ですが陛下の手伝いをさせていただきたいと思います」


ヤーデの言葉にルトナーは苦笑いを浮かべる。先王なら断ったなど本来なら不敬もいいところだ。


「昨日、カール氏には無知なところを見せてしまって、申し訳なかった。正直国の運営は僕も手探り状態で、手伝ってくれると言うなら本当にありがたいよ」


ルトナーが正直に告げればヤーデは、


「それで書庫ですか?息子が言ったことなら現地を見せることができますけれど」


なんということのないように言う。既に昨日のやり取りを知っていて、ルトナーに答えを差し出すというのだ。しかし外に出るということにローンが反応する気配をルトナーは背中で感じた。


「それはぜひ見せてもらいたいな」


だからこそルトナーはローンが何かを言う前に答える。ローンはルトナーを諌めるため一歩を前に踏み出したが、それをルトナーは手をかざすだけで静止した。


「陛下が直接何かを見聞きできるのもあと少しの間だけですからね。なんなら今すぐお連れしますよ」


ヤーデは最初からそうすることを決めていたように言うと立ち上がった。正直ルトナーは迷ったが、確かに外に出歩けるのは新年を迎えるまでだ。新年を迎えれば、その時初めてルトナーは国民の前で演説をすることとなる。そうすれば少なくとも王都の国民はルトナーの顔を覚えるだろう。まだ顔を知られていない今しかないのだ。ルトナーも立ち上がり、「留守を頼む」

とローンに言い置いて今度はヤーデのあとに続き部屋を後にした。



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