62. 対面
リャナンとカールがのんきにお茶を楽しんでいる頃、ルトナーは大量の資料に埋もれていた。ストラス=ゼスト更迭以降、議員たちが戦々恐々としていることはルトナーにも気がついていた。そのせいで多くのどうでもいいような議題がルトナーのもとに持ち込まれるわ、ストラスの後任はその息子に任せるべきだと議員たちが代わる代わる上奏に訪れるはでルトナーは少なからず消耗をしていた。いつもならありえないようなミスを連発し、その度にローンにフォローをされ、説教をされルトナーの消耗は上乗せされていく。それでもどうにか雑事をこなし、議員の上奏は現地を取られない程度の生返事で返しておいた。やっとの思いで時間を作り、今は城の書庫で過去の資料と格闘していた。カールはローンの手を借りてでも、と言ったが彼にはできるだけ頼らずに済ませてしまいたいのがルトナーの本音だ。特に朝からフォローと説教を繰り返されている現状では少しでもローンの信頼を回復しておきたい。子供じみた意地で、やることがたくさんある中、時間を無駄に使うような行動はどうかと思うが、これはルトナーの矜持に関わるので意地を張って一人、書庫にこもっているのだ。
少なくとも法律関係であろうと最近の分から法書を漁るが、権力を作り出すことに一生懸命になっていた貴族連中は先王の元随分と好き放題やっていたようで先王の統治下において作られた法律が半端でなく多い。ルトナーの足元には既に関係なかったと判断した本が山を作っている。
(落ち着いたらこの中のもの全部精査してやる)
ヤケ気味にページをめくりながら国王認定関連の法律を探していく。
ルトナーが本を読むことに集中していると突然扉をノックする音が響いた。驚いて顔を上げ入るように告げれば、開けられた扉のむこうにはローンが立っていた。
「何か緊急事態でも起きた?」
ここに来る前に人払いをしておいたため、ローンの突然の訪れにルトナーは身構える。議員たちが揃って何かを言いに来たのかもしれないと考えたのだ。
「お客様がお見えです」
「客?僕に?」
予想外のローンの言葉にルトナーはそのままの言葉を返す。
「ええ。こちらにお通ししておきました」
ローンの言葉にさらに驚く。ここは書庫だ。少なくとも客を通す場所ではない。しかも自分も長時間書庫に篭っていたせいでかなりだらしのない格好になっている。慌てて立ち上がり服のシワを伸ばそうと着ていたシャツをなでつけ、さらに思い至り本を読んでいる途中で脱ぎ捨てた上着を床から拾い上げて袖を通す。床に積み上げられている本を避けながら扉へと向かおうとするが、相手が姿を現す方が早かった。
「お初にお目にかかります、国王陛下。ヤーデ=ゼストと申します。突然の来訪大変失礼いたしました」
廊下で臣下の礼を取り跪く唐金色の髪には少し白髪が混じっているその人を、ルトナーは呆然と見る。一分の隙もないその態度にかける言葉を忘れた。そんなルトナーの態度にローンはわざとらしく咳払いをひとつして注意をする。その音にルトナーは我を取り戻すと、扉までおよそ三歩を大股で歩き、相手まで適度に近づく。
「ああ。わざわざご苦労だった。顔を上げて欲しい」
ルトナーの言葉に従うように顔を上げると、翡翠色の瞳が印象的な壮年の男性は、勇壮な鷹を思わせる顔立ちをしていた。