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58. カルブンクルス

温室の中のダリアを見て回るうちにリャナンはひとつの真紅で大輪デコラティブ咲の花の前で足を止める。祖父がまだ生きていた頃、リャナンの家の看板商品だった糸の染色に使っていた花だ。二重課税が導入されリャナンの家ではすっかり遠い存在になってしまった。久しぶりに見るその真紅にリャナンは目が釘付けになりその場を動けなくなる。


「カルブンクルスが気になりますか?」


いつの間にかリャナンの後ろに立っていたカールがリャナンに声をかける。


「気になるというか、懐かしいな、って。あっ。実家が糸屋なんですけど、昔この花で糸染めてて結構評判良かったんですよ」


他人の創り出した花に見とれていたなどと思われることはフランツェンとしてのプライドが多少傷つくので慌てて言い訳をする。言い訳をしているうちに不必要な情報まで喋った気がするが、あえて気にしないことにする。


「リャナンさんの実家って糸屋さんなんだ。メインストリートに家があるとは御者から聞いていたけど何やってるかまではわからなかったんだよね」


ルトナーも話に加わりだす。


「まぁ。代々糸屋なのでメインストリートに店を構えてます。最近は観光客の方たちは裏路地にあるお店が流行りみたいでメインストリートにあることが、いいことかどうかはちょっと微妙ですけどね」


店の話になるとリャナンはつい饒舌になった。幼い頃からの店の宣伝が染み付いている。


「で、この花使って糸を染めてたの?」


「ええ。本当に鮮やかな赤色出るので、刺繍にすると映えるので人気でした。祖父もカルブンクルスを使って染めることが非常に上手な人でしたし」


ルトナーの質問にリャナンはよどみなく答える。政治は苦手でも糸のこととなったら、次代を担う立場であるリャナンの兄にも負けないほどの知識と重ねてきた記憶がある。


「でも“染めてた”って過去形なのはなんで?」


重ねたルトナーの質問にリャナンだけでなくカールも固まる。リャナンはここで、「二重課税がきつくて儲けが出ないからです。」などといったら国王認定の時の二の舞になりかねないことはリャナンの乏しい政治力でもわかる。また告発を促されたりするようなことはまっぴらごめんだ。というか国王が二重課税について知らないのか知ってても負担になってないと思っているのかは不明だが庶民にしてみたら不愉快極まりない発言である。リャナンは無意識に眉間に皺を寄せる。


「陛下。非常に言いにくいことですが、その件に関してはローン氏の力を借りるなどしてでもご自分でお調べになった方がいいと思います。さもないと陛下のフランツェンを失うことになりかねませんよ」


リャナンの様子を見かねたカールが先に口を出し、更に幼少期の教育係で今は宰相というローンの名前まで出してルトナーを牽制する。その言葉にどうやらただごとではないらしいと察したルトナーも素直に「調べてみる」と素直に頷いた。その鮮やかな返しにリャナンもカールが議員なら国は良くなるだろうし、この人を育てた父親ならルトナーが必死になって議員に勧誘するのもわかる気がした。無意味に思考を広げていたリャナンだが、温室に差し込む光の量が減ってきていることに気がつく。外は雨でさらに日が傾いているのだ。


「あっ。もう暗くなりますね。私、これで失礼します」


早口でリャナンがそう告げると、


「送っていくよ?」


とルトナーが答える。


「いえ。今なら完全に暗くなる前に家に着けるだろうし大丈夫です。それではカールさん今日はありがとうございました。失礼します」


リャナンはそう言いながら、頭を下げ温室の出口へと向かった。


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