57. 認定温室
カールに促されるままリャナンとルトナーは中へ入る。温室の中には、色とりどりのダリアが咲き誇っていた。きちんと手入れをされている花たちが整然と並べられていた。並べられている花たちからも国王認定花というプライドが感じられるかと思えるほどだった。リャナンが花たちの存在感に圧倒されて前に進めなくなっている中、ルトナーとカールは狭い通路をサクサク進み一番奥にある棚の前でリャナンを呼ぶ。慌てて花たちの間を縫うようにして二人のもとへ行くと、そこには確かにデメルングが咲いていた。周りの花と比べると華やかさに欠けるのはリャナンもじかくしていたが、並べられ比べるような状況になり、目の当たりにすると園遊会でエルナに言われたことまで一緒に思い出して鬱々とした気分になる。
「育つのもほかの花より早いし増殖の生存率は高いしクルティー思いの良い花ですよ」
カールが言う言葉もフォローにしか聞こえないくらいリャナンは内心やさぐれていたが、ルトナーは
「選んでよかったでしょ」とご満悦だ。
「でもやっぱり地味ですよね。この花で売れるんでしょうか?」
ついリャナンの本音が口をついて出る。
「各農家からの注文はここ数年の花では一番ですね。彼らはある意味、売れるものを作るプロだし、その彼らがこぞって注文出している現実見たら、生みの親のあなたはかなり自信持って良いと思いますよ」
カールが淀み無くリャナンを励ます。
「注文が来ている話は城にもその都度認定庁から報告が上がっているよ。その話をする度に苦い顔する議員達の苦い顔ったら見ているだけで笑える」
さらにルトナーが、いたずらが成功した子供のような口調で言い重ねる。
「陛下…。花を政争の道具にするのはあまり感心しませんよ」
カールがたしなめるとルトナーも
「判っているよ。それにそんなこと一瞬でも表に出したら真っ先にローンに叱られる」
とさらりと答える。叱られるという言い方が小さな子供のようでリャナンは微笑ましかったが、当のルトナーは「彼の方がよっぽど国王っぽいよね」と愚痴モードだ。
「というか陛下の子供の頃からの教育係ですよね。ローン=ニエル氏は。その流れからだと仕方ないのではないですか?」
初めて聞く話にリャナンはカールとルトナーを交互に見つめる。というかそもそもリャナンはルトナーのことを国王陛下であるという以外ほとんど何も知らない。
「陛下がお生まれになったときそれはそれは大変な教育係の争奪戦があったんですよ。結果的に当時のニエル家の議員だった方の弟の息子であるローン氏だったのですが、父なんかは未だにあの時の『王妃様の人選は確かだった』って言っていますよ」
カールはリャナンに嬉々として説明をする。その言葉に改めてルトナーを見つつ、確かに陛下がしっかりと国を見ているのも教育の賜物かと思う。そう思わざるを得ない位に先王が酷かったと言うのもあるがルトナーの前では言ってはいけないことぐらいリャナンにだってわかっている。
「まあ、血筋ですね。って言われないくらい先王がひどかったのは認めるけどね」
リャナンとカールが思っていたことをルトナーが率先して言ったことで二人は面食らう。
「そう思っておられるなら、これから頑張って頂かないと、最近の花の質が落ちてきていることは諸外国にバレ始めていますからね。盛り返さないとこの国の危機ですよ」
「判ってる。だからこそ君のお父様に力添えいただきたいのだけど」
カールの父親を議員に据えるという話に戻り、カールは面食らったが
「だから、父には話だけしておきますね。期待せずにいてくださいよ」
と先ほどと同じ主張を繰り返した。
二人のやりとりに飽き始めたリャナンは、花たちのパワーに圧倒されつつも温室の花を見て回っている。