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51. 約束時間

一日分の授業が終わり、いそいそと帰り支度をするリャナンをリトルアが


「随分と急いでるねぇ。お店忙しいの?」


と声をかける。リャナンが急いで帰る日は、実家の家業が忙しい日というのが相場だからこそのセリフだ。しかし、今日はいつもとは事情が違う。


「いや。お店も冬は暇だからそういうわけじゃないんだ。ただちょっと約束があって」

答えるのももどかしいように、リャナンが早口でまくし立てると、リトルアは驚いたようにリャナンを見つめる。


「何?新しい友達でも出来たの。紹介してよ」


リトルアの悪意の無いセリフだったがリャナンは困った顔をすると


「多分…。無理かな」


結局ごまかせずに否定する。今までにないリャナンの態度にリトルアはさらに驚き


「無理って…。珍しいね。まあいいけど。いってらっしゃい」


拗ねた口調で会話を打ち切り、リャナンを送り出した。その態度にリャナンは言い訳をしたくなったが、思いつかず「ごめんね」と謝るだけで教室を飛び出した。

 相変わらず雨が降っており、向い側にある城に行くだけだがリャナンは傘をさして校舎を出た。道を横切り、跳ね上げ橋を渡る。いつぞやのように門の前に立っている近衛兵に話しかける。


「国王陛下にお取次ぎ願いたいのですが」


懐中時計を差し出しながら言えば、近衛兵も心得ていたようで、あっさりと中へと通された。前庭を越えて城の中に入るとそこには宰相のローン=ニエルが待ち構えていた。


「ようこそ。リャナン=エルスターさん」


ローンまで数歩の距離を残して立ち止まると、早速ローンが口を開く。


「図々しくもお城まで伺わせていただきました」


リャナンが挨拶を返すとローンはさらに


「陛下が我侭を申したようで。いらしてくれてよかったです。また城を抜け出されても困りますから」


とあっさりと言い放つ。国王に対して随分酷い物言いをするものだとリャナンが焦った。そんなリャナンの焦りに気がつくこともなくローンはリャナンを奥へと促した。


「それと申し訳ありませんが、陛下はただいま急な謁見の申し込みが入りまして、対応中です。少しの間お待ち頂きたいのですが」


歩きながらのローンの説明にリャナンは了承すると、来るたびに通されている部屋に案内された。雨のためか室内に設けられた椅子に、進められるまま座ると、すぐにメイドがお茶とお菓子を持って現れた。リャナンの分だけ出されるお茶にまだ部屋にいるローンに目を向けると、


「何か足りない物でもありあましたか?」


ローンが聞いてくる。


「そういうわけではないですけど、あの宰相様は、お座りにならないのですか?」


自分が座っているのに相手が立っているという状況にえも言われぬ罪悪感が湧き上がってきて思わず声をかけてしまう。それを聞いたローンは驚きを見せたが、


「私のことはお気になさらずに。何かあれば遠慮なく仰ってください」


とあっさりとローンは躱した。リャナンは出されたお茶にも手をつけられないままどうにも気詰まりのする時間を過ごした。リャナンはなにを考えるわけでもなく無為に時間をやり過ごしていると部屋のドアが開く音がした。リャナンは音に釣られるように扉の方を向くと、


「ごめんね。お待たせしました」


と言いながらルトナーが現れた。


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