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49. 祈りの日

若干思想的なものが含まれています。

フェローニア王国のお盆です。

結局リャナンは日が沈みきるギリギリの時間に家に着いた。


「ただいまぁ」


途中で日没が心配になり、小走りや、速歩きなどいつもよりも歩く速度を上げたせいで若干息を切らせながら家に飛び込む。

 

 今日は祭りの日のため糸屋は休業だ。いつも出入りしている通りに面している店の入口ではなく横道を通ったところにある自宅の入口から入る。家の前には、祭り用のロウソクが既に灯されていた。玄関を明るくしておくことで悪い精霊は家の中に入ってこられなくなるとされている。家の中では、既に母親が台所で料理の佳境のようだ。お祭り用の料理はいつもより豪華になる。リャナンはそのまま台所に向かうと、案の定、食卓に並べられるのを待っている料理たちが置かれていた。


「ただいま。手伝う?」


リャナンが改めて声をかけると、鍋の様子を見ていた母親が振り返り、


「おかえり。リャナン。ちょうどよかった。鍋見ていて頂戴。煮上がったら火から上げてね」


言いながら母親はリャナンに場所を譲る。鍋の中身はホウレンソウとキノコをトマトソースで煮込んだ料理だった。祈りの日は動物性の物を食べない野菜中心のメニューとなっている。昼に行われた城での園遊会でも、動物性のものは出てこなかった。リャナンは鍋が焦げ付かないように混ぜながら火が通るのを待っていると、竈から甘い匂いが漂ってくる。

祈りの日の定番デザートであるさくらんぼのケーキが焼きあがったところだった。


「つまみぐいしないのよ!」


ケーキを見て鍋をかき回していた手が止まっていたリャナンに母親が、子供にするような注意をする。


「やりません!」


顔を真っ赤にしながらリャナンは反論する。確かに子供の頃は一年に一回だけ食べるこのケーキが大好きで毎年、祈りの日には兄と共に台所に忍び込んでこっそり先に食べようとしていた。必ずバレて怒られて、成功したことは今まで一度もない。もちろん最近はそんなことはしていないが、この日の定番ネタとして家族の中で定着している。リャナンや兄にとってはたまったものではないが、どうにもできないので苦笑いで終わらせる。

 

 料理が出来上がり、鍋を火から下ろして皿に盛りつける。その間に母親はすでに出来上がっていた料理を食卓に運び終えていてリャナンも手伝って、残りの料理を全て食卓に運び終えると、家族が食卓に付いていく。食卓から少し離れたローテーブルにはこれも祈りの日の決まりごとである、水盤に水が張られその上を色とりどりの花びらが浮かんでいる。

 

 全員が席に着くと、今日だけはひと組分席と食器類が多く用意されている。ご先祖様の分を用意しているからだ。せっかく彼岸からはるばる家族に会いに来るのに貧相な食事では申し訳ないという思想からこの日の食事は品数が多い。さらに、彼岸の住人は動物性の物を食べられないという思想もこの国ではごく自然に受け入れられている。

 

 食事が始まり、今日の話題は、既に他界しているリャナンの祖父母のことではなくリャナンが出席した園遊会のことになった。


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