46. 小休止
園遊会は無事に終わった。借りていたドレスから自分のワンピースに城のメイド達に手伝ってもらいながらも着替えた。化粧も落として髪もほどく。すっかり軽くなった周囲に安堵のため息をつきながら、手伝ってもらったメイド達に「ありがとうございました」と頭をさげる。するとメイド達は驚いたように目を瞬かせる。そのうちの一人が、
「陛下のご命令に従っているだけですから」
と呟いた。その様子に、
「えっと。例え相手が仕事でもお礼位は言いません?」
別に親しい相手というわけでもないのだから別に反論の必要はないのだが、園遊会からの開放感も手伝って思ったことをリャナンはそのまま口に出す。するとメイドも驚いたのか、
「まぁ確かに悪い気はしませんが」
と返してくる。その様子にいままで、同じ表情で淡々と仕事をしていただけという印象から人間味のあるものに映った。しかし、一番の年長と思われるメイドが聞こえるように咳払いをして、呟いたメイドがビクリと肩をすくめたのを見てこれ以上の会話を諦めてもう一度「ありがとうございました」とお礼を言って部屋を後にする。無駄に立派で重たい扉を開けて廊下に出る。するとそこには、案の定というか、考えないようにしていたが、ルトナーが立っていた。
「今日はお疲れ様」
ニッコリと効果音がつきそうな笑顔でリャナンを労うとそのまま付いてくるように示したが、リャナンは躊躇する。今日は日が暮れるまでに家に帰らなくてはいけないとされている日だ。遅くなるのは避けたい。しかし、そんな伝承で断るのも間違っている気がしたので黙って付いていくことにする。
「あっ。日が暮れるまでにはちゃんと家に返すから安心してね?」
とフォローがルトナーから入った。
「別に、この年になって伝承を信じてるわけではないから日が暮れても一人で帰れます」
リャナンは、思わず反論したが、
「伝承もそうだけど、女の子一人で暗くなった道を歩かせるわけにはいきません」
ルトナーにピシャリと言い返された。リャナンはむしろ伝承を気にいていたことを自白したみたいで、余計に恥ずかしくなる。
「でもさ。きちんと伝承を信じて行動できるって知れてよかった」
最近の人は伝承とか行事とか適当で呆れるばかりだよ。と続いた年寄りくさい物言いに思わず笑ってしまう。リャナンが伝承や行事にキチンとしているのは祖父母の影響が強く、行事の度に話してもらう昔話は幼いリャナンを一気に精霊の世界へと旅立たせてくれたもので、さらにそんな祖父母も年々適当になっていく周りの行事に対する姿勢に「最近の若いものは」とよく嘆いていたことをまとめて思い出し、笑えてきた。それをみてルトナーが不思議そうに「何?」と聞いてきたが、「なんでもありません」とごまかして、二人並んで長い廊下を歩く。ルトナーに案内された先は、国王認定の時に通された部屋だった。
「流石にもう寒いから部屋の中ね」
そう言いながら窓際に用意してあった椅子をリャナンに勧めた。




