44. 園遊会
追ってくることのないアリアラに内心安堵しつつ 、リャナンは警戒するようにあたりを見回す。フランツェン達は相変わらず、いくつかのグループに分かれて談笑をしていた。女性の中にはまだ園遊会が開始されたわけでもないのに国王・ルトナーに慣れた様子で挨拶に行く者もいる。とても真似できるものではないとリャナンは思いながら、先ほどまで自分がいたところにアリアラが一人で立ち尽くしているのが目にとまった。学校ではたくさんの取り巻きに囲まれていた姿しか見ていなかったので、一人でいるのはどことなく不自然だったが、周囲を改めて見れば、集団のほとんどがアリアラの方をチラチラと伺いながら何事かを話している。その話の内容がよくない噂であろうことはリャナンにも容易に想像がついた。だからといってリャナンは同情するわけでもなく淡々と人間観察に励む。
程なくして園遊会開始時のドリンクが配られ始め、リャナンもそれを受け取るとまもなく園遊会が開始された。宰相のローンが開始を告げるとルトナーが一歩、進み出て、
「今日は来てくれてどうもありがとう。君たちフランツェンのおかげで諸外国からも花の国としての地位を確立できています」
至極簡単な挨拶だったが国王であるルトナーが言うと、特別なことのように思えてくるものなのだと妙にリャナンは感心してしまう。国王認定をもらった時の玉座に座ったルトナーと変わらない堂々とした雰囲気は、周りの目を盗んでリャナンの畑に遊びに来るルトナーとは別人だと言われても納得してしまうほどだ。ルトナーの言葉の後に乾杯が行われフランツェン達は再び歓談に戻る。あっという間にルトナーの周りは人でいっぱいになった。 対して、アリアラ以外の知り合いもこの場にいないリャナンは特にすることもなく、ここは人間観察の場であると割り切って周りを観察している。
先王の治政下では予備認定のせいもありこの場に居るほぼ全ての人間が貴族・名家の人間だ。女性の服は一級品と思われるドレスで、晩秋の柔らかな光を受けて輝いている。男性も正装に身を包み立派に女性をエスコートしていて、リャナンとは場数が違う。リャナンは最初に渡された飲み物を少しずつ飲みながらできるだけ目立たないように気配をさらに消す。それでも、現王唯一のフランツェンということでリャナンにチラチラと視線を送ってくる人間は多い。その視線の前にはどんな噂話が飛び交っているのかとゲンナリした気持ちになっていると、
「こんな端にいなくてもいいのに」
と、声がかけられた。リャナンはその声に驚いて声のした方を向くと、人に囲まれていた筈のルトナーが立っていた。
「陛下。どうかされましたか?」
国王といることでさらに注目を集めることになり、リャナンは動揺する。できるだけ目立ちたくない。それでも家で接客をしている時のような営業用の笑顔を向けて答えた。
「“どうか“って何かなきゃ自分が認定したフランツェンに話しかけちゃいけないの?」
すねたようなルトナーの口調にリャナンは、さっきまで大勢の人に囲まれていたから。等と口の中で呟く。
「彼らは先王の遺物だよ。そんなフランツェンと会話をするくらいなら君と話したい。こういう場でもなきゃ君は城にこないじゃないか。」
基本的に一度フランツェンになってしまえば王が変わろうが、罪でも犯さない限りその人は一生フランツェンの立場にいる。しかし、先王認定のフランツェン達を遺物呼ばわりとはいくら賄賂を積んでなった人たちばかりにしても酷い言い草だ。一応周りには聞こえない声量で会話しているがうっかり聞かれたらどんなことになるか想像すらしたくない。
「あなたがリャナン=エルスターさん?」
周りのことをどうこう言っている時に突然第三者の声が割り込んできたのでリャナンは心臓が飛び出るほど驚いた。