43. 確執
リャナンが、ルトナーと共に庭園に足を踏み入ると、既に来ていたフランツェン達の視線が一斉に二人に集まった。リャナンは居た堪れなくなって視線から逃げるように下を向く。何度体験しても視線が自分に集まることに慣れない。リャナンの隣に立つルトナーはというと、他人の視線等全く気にする様子もなくそのまま歩を進めて、庭の一番奥へと向かう。一人取り残された形になったとはいえまさかルトナーの後をついていくわけにもいかず、リャナンはそのまま立ち尽くす。とはいえ、このままここに棒立ちになっていれば悪目立ちをしてフランツェン達の俎上に乗り続けることはさらに耐えられない。とりあえず目立たないところに移動しようと無理やり顔を上げ人気の少なそうな所を探して移動する。ヒールが歩きにくい等と泣き言を言ってた割に、俊敏に移動出来た自分を褒めたいぐらいだと現実逃避も兼ねた自画自賛をしてみるが、虚しさが広がっただけだった。
すっかり園遊会の会場として形を整えている庭を誰とも目を合わせないようにしながら、あたりを見渡す。設えられたテーブルには色とりどりの生花が飾られ、お菓子類が並べられている。フランツェン達は、いくつかのグループに別れ、談笑をしているが、どうやら、今のグループがそのまま派閥であることが、遠目に見ているだけのリャナンにも理解できた。そこまで観察したところでリャナンに近づいてきた人物に、リャナンは身構えた。
「あら、珍しく随分と着飾っているじゃない」
父親の更迭以来学校に姿を現すこともなく今となってはその不在にもすっかり慣れてしまったアリアラが向かってきたのだ。
「お久しぶりです。アリアラさん。まさか今日会えるとは思いませんでしたよ」
アリアラの父親の更迭には少なからずリャナン自身も関わっていたのだが、平気で学校を休み続けても卒業後はフランツェンの地位に収まる気があるから、今日この場にいるのだと思うと嫌味の一つも言いたくなった。リャナンは教室内で波風の立つようなことは面倒だったこともあり、表面上だけでもうまく取り繕ってきていたせいで、教室内よりも数段オープンな場で言い返してくるとはアリアラも思っていなかった。それでもリャナンの嫌味を正確に受け取り二の句がつなげなくなった。リャナンは一歩アリアラに近づき耳元で、
「更迭が、不正のフランツェンにも及ばなくてよかったですね」
と囁きその場を後にする。リャナンがフランツェンになってから、同級生の貴族達が、すれ違いざまにリャナンだけに聞こえるように嫌味を言って来ることがふえ、それはアリアラのように早朝の教室で、大声で絡まれるよりもリャナン自身を傷つけていた。それをこの場でリャナンが実行してしまうのはダメだとは分かっていても三年分の確執に押されて実際に行動してしまった。言い返したからといってリャナンがスッキリするわけでもなく、むしろすぐに後悔したが、敢えて振り返らずにそのまま歩き出す。せっかく見つけた目立たなそうな場所だったが、アリアラが立ち尽くしたままなので、元いた場所に居続けることもできない。再び目立たなそうな場所を探すために庭を見回すと、心配そうな顔をしているルトナーと目があった。リャナンはしっかりとルトナーを見据えて、不敵に微笑んでみせた。かなり強がりだったが、ルトナーは同じように不敵な笑みを返してくる。結局リャナンはそのまま反対側の端に立ち位置を変えただけでそれ以上動くのを諦めた。