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40. 前日

ルトナーとの早朝の再会を果たしてから数日間、結局リャナンは城に行くことは無かった。畑の冬支度が忙しいとか、家の手伝いしなきゃとか、自分自身に言い訳をして、どうにか避けている。本当は懐中時計を持って城に行って、「国王陛下に会いにきました」と言う勇気がないだけであることもよくわかっていたのだが当然のことながら、カミルの家に行くように簡単にはいかない。しかし逃げ回っていてルトナーが再び周りの目を盗んで、早朝の畑に現れたらそれはそれで大事なので、最近の朝は畑にルトナーの姿がないかと緊張していた。本格的に冬が近づき、忙しい振りをして作業を前倒しして行なっていたせいもあっていい加減仕事がなくなってきている。忙しいという言い訳が使えないのだ。これはいい加減城に出向かないといけないかもと猶予がなくなっていく心細さを感じていた。そんなことを教室でもんもんと考えていると、いつものようにリトルアが、


「リャナンちゃん、授業終わってるよ?」


と話しかけてきた。驚いて周りを見ると確かに教師の姿はなく、周りのクラスメイトたちも教科書を片付けながら雑談を始めている。


「考え事してた」


リャナンが正直にそれだけ言うと、


「今度は何?また何か巻き込まれてるの?」


リトルアが心配そうにきく。確かに最近のリャナンは変なことに巻き込まれて授業中に考え事をしていることがよくある。さらに言えば今回もまた巻き込まれている。と言えばそうなのかもしれない。しかし事がことだけに相談はできない。


「たいしたことじゃないから大丈夫。最近ちょっと頑張りすぎて疲れてるだけだよ」


リャナンは無理やり話題を終わらせる。


「それならいいけど。まあ明日は祈りの日で、学校休みだしゆっくりしたらいいんじゃない?」


この国での祈りの日とは、11月の末日に精霊・ヴァサーリーリエがこの世と死者の国を繋ぎ、霊が戻ってくる日とされている。そのため夜は出歩いてはいけない。夜に外に出ると悪い霊に連れ去られてしまうと、小さいころから教えられて育つ。各家庭で水盤に花びらを浮かべ死者への弔いをすることになっている。リトルアの言葉にそうだねぇと答えつつリャナンは一つ思い出した。


「祝日ってことは明日城でフランツェンを集めた園遊会だ」


呟いたセリフはきちんとリトルアの耳にも届いた。


「そういえばフランツェンになると城にイベントごとに招待されるんだっけ」


大変そうだね。と続く言葉にリャナンは苦笑いしか出ない。


「行きたくないけどそういうわけにもいかないよね」


貴族たちが犇めく園遊会など憂鬱以外のなにものでもないが、これもフランツェンの勤めの一つだと割り切るしかない


「陛下の初めての認定花の作出者だもんね。注目されそう。どんなだったか話をきかせてよね」


部外者の気安さでリトルアが笑う。そんな様子を見つつ、どちらにしろ明日ルトナーに会うことになるのだったら、懐中時計を返そうと心に決めた。やはり自分には白にあそびにいくということは、荷が重すぎたのだと思った。一度決めてしまうと気が楽になり、残りの授業はきちんと受けて、朝とは打って変わって軽い足取りで家路についた。


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