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4. 授業前

 全力疾走ともいえる速度で校舎に逃げ込んだリャナンは教室の前で座り込む。授業を口実にしたが、本当は授業まではまだ時間がある。人影も疎らでおそらく教室内にはまだだれも登校していないはずだ。それでも見知らぬ男性に八つ当たりともいえる発言をしてしまったことが後ろ目たくそのまま教室に入ることができなかった。呼吸を整えて廊下にある窓から空を見上げる。

 リャナンの心とは真逆の澄み切った青空を見て、今日も一日晴れそうだと思った。それをきっかけに徐々に通常の思考回路が戻ってくる。ローンに八つ当たりとしか思えない発言を謝りに畑に戻ろうかとも思ったが、まだ畑に居るとは思えなかったし、やはり気が重い。

 深呼吸をして、リャナンは立ち上がり今度こそ教室に入る。案の定まだ人影はなく、リャナンは一番乗りだった。

 席は特に決まっているわけではないのだが、三年も通っていると自然と定位置が決まってくる。自分の定位置に座ると教科書を机の上に出す。忘れ物がないかを確認したら、一時間目の授業の教科書のみを残して再び残りを鞄にしまった。そこまですると廊下から学生の足音が聞こえてきた。この学校は他の領地から入学する生徒も多いので寮制度がある。平民で他領地の生徒は寮生活、貴族階級の生徒は大学のある国王直轄地に別宅を設けているのでそこから通う。幸いリャナンは大学のある直轄地に実家があるので通学生だ。

 教室の扉が開くと十数人の生徒が教室に入ってきた。


(いつもと同じ顔触れだ)


とリャナンは思った。無意識にローンが入ってくるのではないかということを期待していたらしいことを自覚して首を振る。


「おはよう。リャナンちゃん。今日も早いね。っていうか何かあった?」


と話しかけてきたのは、リトルア=ハース。肩まである茶色い髪をまっすぐ下して、リャナン同様オーバーオールを身に着けている。緑色の瞳が印象的な可愛らしい顔をしている。本人は実年齢よりも年下にみられることが不本意らしい。本来は同じ年だが、実年齢よりも上に見られることのあるリャナンと並んで姉妹に見られたこともある。

リャナンと同じクラスの生徒だ。そして彼女の襟もまた真っ白である。


「おはよう。別に変ったことは何もなかったよ」


と、リャナンは嘘をついた。どうやら少し挙動不審だったらしい。曖昧に笑いながら、隣に座りながらリトルアが話す寮内での珍事に耳を傾けた。話を聞いているうちに、再び扉が開くと、現れたのは、アリアラ=ゼストだった。貴族四家のうちの一つゼスト家の令嬢である。派手な金髪の髪を頭頂部でまとめ上げ派手なドレスを着こんでいる姿は、もはや畑に出て作業をする格好とは思えなかった。その姿を認めるとリトルアはあからさまに顔を顰めたが、そんな様子に気づくことなくアリアラは二人に近づいてきた。襟には赤い糸で一本線が入っている。


「おはようございます。二人とも予備認定の準備は済みまして?」


甲高いアリアラの声が響く。その言葉にリトルアは増々険しい顔になった。要するにアリアラは予備認定を通すための賄賂を二人に要求しているのだ。


「すでに国王認定を頂いているあなたには全く関係のないことです!間違ってもあなたに

 頼ることはございませんのでご心配なく!」


教室中に響きわたるような声でリトルアは反論した。このやり取りは三年生になってからここ一か月程毎日のように続いていた。なぜアリアラが数多くの同級生の中から自分たちに声をかけるのかよくわからないが、ここまで続くとリャナンもさすがにうんざりしてくる。教室内で堂々と賄賂の話ができるほど貴族の副収入は公然の秘密となってしまっていることにも行き場のない怒りを感じた。リャナンがすっかり他人事のように二人のやり取りを聞き流していると、


「貴方達、私の機嫌を損ねたら予備認定すら通らなくなりましてよ」


アリアラは捨てゼリフを投げつけ、自分の定位置に戻った。リャナンはその言葉をやっと終わったかと安堵の息をつきながらふと引っかかったことがあった。しかし、その思考回路は一時間目の教師の入室と共に一度遮られることとなってしまった。


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