37. お茶会
一日中授業を受けて、リャナンとリトルアは早速、刺繍屋『アーベル』へと向かった。二人が連れ立って街を歩くことは実はあまり多くない。いつもは一人で行き来している道を二人で歩いていることに、リャナンは新鮮味を感じながら、授業のことや、先生の話、最近の寮内での出来事なんかを話しながら、石畳の道を二人で歩く。
目的の刺繍屋にたどり着くと、リャナンが扉を開ける。ドアベルの音を聞きながら、リトルアを先に入るように促してから自分も扉をくぐる。中ではちょうどカミル店番をしていた。
「いらっしゃいませ」
「おじゃまします」
カミルの挨拶にリャナンが返す。
「リャナンちゃん。どうしたの?二日続けてなんて珍しい」
「友達を連れてきたんだ。こちら大学の同級生のリトルア=ハース」
リトルアを前に出しながら、紹介する。当のリトルアは物珍しそうに店内を見回していた。
「で、こちらが、カミル=アーベル。私の襟に刺繍してくれた張本人だよ」
リャナンの紹介にリトルアはカミルを見て、
「はじめまして。リトルア=ハースです」
と挨拶をした。つられてカミルもはじめまして~。などと挨拶を返す。
初対面同士の挨拶が終わるとカミルが、窓際の椅子を二人に勧める。リャナンとカミルの二人は勧められるまま椅子に座った。カミルはお茶の用意をしに奥へと一度消えた。リトルアは猶も物珍しげに店内を見回している。
「そもそもリャナンちゃんが友達を連れてきたのって初めてじゃない。どうしたの?」
奥から戻ってきた、カミルがお茶を出しながら問いかける。
「襟の刺繍からそんな話になったんだよ」
リャナンが簡単に答えると、
「リャナンちゃんが国王認定取れたら襟に刺繍するって約束だったからね。いろんな人に話してくれて宣伝してくれてもいいんだよ?」
冗談めかしてカミルが笑う。
「ほんとに仲がいいんだね。実は前からリャナンちゃんのリボンの刺繍が気になってて、いつか聞きたいな。って思ってたの」
リトルアも初対面の人間に対して警戒心はない。笑顔でリャナンに約束を取り付けた理由を付け足す。
「だったらもっと早く言ってくれれば、ちゃんと連れてきたのに」
リャナンが自分の話題に出たリボンを撫でながら、呆れたように言うと、リトルアは「なんとなく言い出しにくかったの!」と拗ねてみせる。女三人集まると姦しいとはよく言ったもので、三人の会話は止まることなく転がり続ける。




