34. 再会
それからしばらくは何事も無く過ぎていった。あの日以来アリアラが学校に現れることはなく、クラスメイトたちもアリアラの不在に慣れ始めている。不在をいいことにほかの貴族達はゼスト家失脚の噂話に忙しいがリャナンは務めて気にしないようにしていたし、リトルアも話題にしてくることはなかった。
十月も終わりに近づき、そろそろ畑も冬支度をしなくてはと、上に着る作業着を一枚増やして、リャナンは今日も朝から一人畑に向かう。日の出が遅くなった影響で、リャナン自身が家を出る時間が遅くなっているため、朝食を調達してから畑に向かう。自分の畑に行くと朝靄の中に人影が見えた。リャナンは事態が急変した日を思い出して、慎重に人影に近づく。すると足音で気がついたらしい人影がいち早く声をかけてきた。
「あっ。おはよう。リャナン=エルスターさん」
無邪気な笑顔を見せて挨拶をしてくる人物にリャナンは脱力してその場に踞りたくなる。
「おはようございます。国王陛下。こんな所においでになるとは思いませんでした」
それでも、リャナンはなんとか言葉を返す。よく考えれば初対面も朝の畑だったのだから、リャナンは今更なセリフだと口に出してから後悔する。
「他にどこに行けば君に会えるか解らなかったからね。それにこの時間なら朝の会議までに帰れるから僕にとっても都合がいいんだ」
それでもにこやかに応じるルトナーに、まるで自分に会いに来たかのような物言いにリャナンは困惑する。
「今日はさ、これを持ってきたんだ」
言いながらリャナンに一枚の紙を差し出した。リャナンは差し出された紙を困惑を深めながら受け取り内容を見る。
「これっ」
そこに書かれているものを見て、驚きルトナーを見る。
「昨日の夕方出来上がってきたんだ。良く描けてるでしょ?次のカタログからそれが載るから。」
ちょっと自慢気にルトナーは話す。そこに描かれていたのは、リャナンが作出した国王認定花だった。ルトナーが名付けたデメルングの名も入っている。リャナンは受け取った紙を凝視したまま固まっている。
「何か気に入らなかった?今なら訂正できると思うけど」
反応のないリャナンにルトナーは心配そうにリャナンの顔をのぞき込む。
「いやっ。大丈夫です!すごく素敵に描かれているので放心してました」
あまりのルトナーとの近さに一気に正気に戻ったリャナンはそのまま数歩後退る。
「わざわざありがとうございました」
言いながら冷静さを取り戻しリャナンはルトナーに紙を返した。
「多分今日当たり学校にも渡るし、そしたら嫌でも見ると思ったんだけど、君に会いたかったし」
さらりと凄いことを言われた気がして、咄嗟に返事ができずにいると、
「襟に刺繍する糸も今日届くと思うから。楽しみにしててね」
ルトナーは一人で話を進めていく。さらに、「それじゃあね」と、さっさとここを立ち去る体制に入っている。
「はい。わざわざありがとうございました」
とリャナンは話の流れに乗るしかできない。会いたかった発言は空耳だったんじゃないかと思う程の変り身の速さだ。
「ねぇ。また明日ここに来てもいい?君は毎朝ここに来ているんでしょう?」
数歩進んだルトナーが振り返り、リャナンに聞く。
「雨が降らなければ来ます」
リャナンは驚きつつも事実だけを答える。
「そっか。晴れたら、また明日ね」
にっこりと微笑み片手を上げてから再びルトナーは門の方へと歩き出す。
リャナンはあまりの出来事にルトナーが去った後もなかなか動けなかった。




