30. 帰宅道
会話がないです。
出席者がクラス全員でなくとも作業は順調に終わり、一日授業である日よりも早くリャナンたちは帰路につくこととなった。学校側も全員が出席するとは思っていないから仕事量が教師達によってコントロールされていることは三年目にもなるとリャナンたちにも透けて見えている。今回、仕事の出席者はリャナンたち三年生の出席者は十人ちょうどで、三十人いるクラスメイトの三分の一が出席していた。十人全員がリャナンと同じ平民で平民の出席率が百パーセントという事実にリャナンとしては忸怩たる思いがあるのだが、今に始まったことではないと自分を無理やり納得させる。
朝から降っている雨は一向に止む気配がないため、リャナンは畑によることなく家に帰ることにした。丁度、今日は母親から「早く帰ってこい」と言われているのでいつもより早く学校を出られたことは僥倖だった。雨にぬれた石畳を早足で歩く。雨のせいでいつもより人通りも馬車の通りも少ない。リャナンはいつもの雨よりもさらに馬車の通りが少ないような気がしたが、馬車が少ないと歩きやすいので、むしろラッキー位の気持ちで進む。
どこからともなく夕飯の美味しそうな匂いが漂ってきてリャナンの歩調はさらに早くなる。今日は家族が、国王認定が取れたお祝いをしてくれると言っていた。母の手料理は贔屓目無しに美味しい。学生食堂の料理は美味しくなくて大学に入ってからの三年は昼ご飯が作業と化している。普段は商売をしているから普段母親が凝った料理を作ることは無いが、各種イベントの時はかなりの料理が並ぶ。子供の頃は兄と競ってテーブルに並べられた料理を食べていた。そんな理由から、今日の“お祝いの食事”が楽しみなリャナンははやる気持ちをそのままに店の入口から家に入る。
「ただいま」
お店の中にはお客がおらず兄嫁が一人で店番をしていた。
「あら。おかえり。早かったのね」
リャナンの帰宅に兄嫁が答える。
「何か手伝うことある?」
いつも通り、リャナンは聞く。
「雨でお客さんが少ないから今日は大丈夫。閉店の時に手伝って。あとお義母さんが台所で料理作って
いるからそっちに声かけてみてくれる?」
兄嫁の言葉にリャナンは了承を示すとそのまま奥につながる扉からお店を出た。いったん二階の自分の部屋に上がり荷物を置いてから母親のいる台所へと入る。予想通り母親は料理に熱中していてリャナンが入ってきたことにも気がつかない。
「ただいま。何か手伝う?」
少し大きな声で声をかけると母親はびっくりしたように振り向き、
「あれ。おかえり。早かったのね。ここは大丈夫だからお店か工房いってみてくれる?」
結局お店の兄嫁と同じことを言われて、リャナンは父と兄が働く工房へと向かったがそこでも今日は仕事がないからと言われてしまい、自分の部屋に戻ってきた。何もすることがないと言うのも困ったものでリャナンは手慰みに一冊の本を開く。それは、今年発行された国王認定のカタログで、今まで認定された花が載っている。なんども見ている本だが、いつ見ても洗練された花たちは見ているだけで心が弾む。ベッドにうつぶせの体制で夢中でページをめくっているといつの間にか閉店時間になっていた。本を閉じて本棚のもとあった場所に戻すと、再び部屋を出てお店に向かう。閉店準備をする兄嫁を手伝いながら、来年発行される本からは自分の作った花が載るのだと思うと、リャナンは不安と期待が入り交じったなんとも言えない気持ちになった。