3. 案内
とは言え、リャナンは今まで見学者の案内などしたことはない。まして自分の畑の説明など相手が何を知りたいのかもわからないのだ。相手を伺うような視線を向けると、それに気が付いたローンは、畑に向けていた視線をリャナンに向けながら、
「君は精霊に愛されているね」
と告げた。その言葉にリャナンは狼狽えた。精霊たちは目には見えない。節目のお祭りで祈ったりはするけれど特別加護があると感じることはあまり無い。むしろ精霊の加護は国に与えられるもので個人に精霊が肩入れをするとは考えもつかなかった。ローンはリャナンの狼狽を感じ取ったようだが、マイペースに話を続ける。
「国王認定の花を親株に使ったりはしないの?」
「国王認定の花は高いので庶民がおいそれと使える代物ではないですから」
リャナンは少々むかつきながら答える。基本的に育成株は生徒の自腹で買う。学校で同じ花を支給しては多様性が生じないというのが理由だ。しかしそこにも貴族たちと平民の間に差が生まれる。国王認定の花からはやはり国王が気に入りそうな花が多く作出されるのだ。そのため貴族たちは国王認定の花をふんだんに使い新品種の育成に勤しむ。庶民には経済的理由でそんなことは到底真似はできない。
「え?花って学校から支給されてるんじゃないの?」
「違います。自己負担の自己責任ですよ」
もはやリャナンは怒りを通り越して呆れてしまった。ひとつため息をついてリャナンは、
「じゃあこんなことは知っていますか?国王認定を取るためには貴族にお金を積まなくてはいけないこととか」
貴族が作った制度を貴族が知らないということに、呆れと怒りと諦めが絡み合って、リャナンは公然の秘密とも言えることを暴露する。ローンはとても信じられないというような顔をした。
「国王認定を受けるためには、貴族の予備認定を受けなくてはなりません。その予備認定をクリアするためには貴族であることか貴族にお金を払う必要があります。残念ながら私にはそんな財力は無いのでどんなに精霊に愛されていようとも将来的には畑守りになるのがやっとでしょね」
最大限嫌味に聞こえるように一息に行った後で、リャナンは我に返った。日ごろからどうにもならない焦燥感に駆られていて、それが目の前の青年との会話で破裂してしまった。これではただの八つ当たりである。気まずい思いのまま、もはやローンを見ることさえままならず、
「申し訳ありませんが、そろそろ授業の時間なのでこれで失礼します」
と言ってローンの前から辞した。