29. 作業は皮剥き
運び込まれてきた芋を一年生が簡単に洗う。宇宙芋の名前の由来はツルで伸びて土の中ではなく、空中に芋ができることから名付けられた。瓢箪の様な成り方をする芋なのだ。弦が伸びることを利用してスタンホール大学ではこの宇宙芋を夏の間は蘭温室の遮光に使い葉が紅葉したら空中になった芋を収穫してデンプンを取り出し畑に撒く。今日は一週間ほど前に一年生が収穫した芋からデンプンを取り出す作業なのだ。
リャナンたち三年生は芋の皮むきの仕事が割り振られている。程なく簡単に洗われた芋がリャナンたちの前に置かれていく芋自体の大きさは握りこぶし大で色は灰色をしている。形も歪で、一見するとそこらへんに落ちている石である。見た目に違わず皮が固く皮むきといえども、少し力がいる。
「形が歪で剥きにくいよね」
リトルアが手を止めることなく口が動き出す。
「学校に来て初めてこの芋の存在を知ったしね。口の中が渋くなって食べられたものじゃないなんてね」
リャナンも手を止めずに答える。
「その“この芋は食べられない”って先輩からさんざん聞かされたけど実際どうなの?」
手を止めてグレンが会話に参加する。
「まあ確かに食べたことないんだけど、食べられないって言われているものを敢えて食べる勇気はないかな」
剥きにくいと言いつつも既に二つ目の芋に取り掛かりながらリトルアが答えれば、
「気になるならお前が食え」
とクラークが短く切り捨てた。
「そんな言い方しなくてもいいじゃん」
グレンが拗ねた口調で言えば、クラークは「口動かしてもいいけど手を止めるな」とやっぱり、ばっさりと切って捨てた。クラークは芋の皮むきに集中しようとして答えが適当だったのだ。そんな様子を見つつリャナンも二つ目の芋に取り掛かる。リトルアは鼻歌交じりで作業をしていてもう四個目を終了させるペースだ。
「リトルアちゃん早いね」
感心してリャナンが呟くと、
「まあ実家は農家だしこういう作業は結構多いからね。慣れ?」
リトルアの実家は大学のある王都から馬車で南に一日程進んだところにあるアルタイ家領のヌンキ地方にある。リャナン自身王都から出たことがなく、実家から離れて寮生活など考えも及ばないし王都より外がどんなふうなのか想像もつかない。リトルアの言う農家の生活とやらもよくわからなかった。
「リャナンちゃんの家は王都の糸屋さんだもんね。寮に入らず学校に通えるなんて羨ましいよ」
リトルアの発言から何となく自分たちの地元の話になり、やっぱり口を動かすと手が止まるグレンにその都度クラークがツッコミを入れながらリャナンたちは芋の皮剥きを終わらせた。
皮をむいた芋は二年生がガーゼの上にすりおろし、最高学年の四年生が水に浸して上澄み液をすてながら、デンプンを取り出す。最終的には皮も搾り取った残りの芋も今は枯れた葉やツルも学校の外れにある穴に入れて土を被せて宇宙イモに関する学校行事は終わりになる。