27. 変化
リャナンは二時間目も教師のリャナンへのお祝いの言葉から始まった。リャナンは正直周りの反応に疲れてきていた。
二時間目が始まる前の休み時間には他学年の話したことのない生徒がリャナンを見に来るなどとリャナンは自分が博物館に展示されたような気分になっていたのだ。
今の時点で幸いなことと言えばクラスメイトは朝に一騒ぎしたおかげで、今はすっかり落ち着きを取り戻し皆が2時間目の授業であるクリサンセマム学を大人しく受けている。リャナン自身、精霊学などの曖昧な授業よりも栽培技術などの目に見える形で進行する授業の方が集中しやすく、ましてやフランツェンになれることが決まった今、実家で今のところキクは使われていないとはいえ栽培に必要な知識として今まで以上に真面目に聞く気になっているからリャナンも結構現金な性格だったと自己分析までしてしまっている。
教師のキクの栽培話を聞きながらこれから段々と寒くなりキクも冬至芽の管理の季節かと窓の外を見る。外は朝と変わらず雨が降り続けていて黒い雲が空を覆っていた。この国では晴れの日と雨の日がだいたい同じくらいあるので雨が珍しい訳では無い。畑の種まき等の仕事が出来なくなるので長すぎる雨は困りものだが、適度降る雨は学校生活の一部に休息を与えてくれる。熱心に語る教師の声に再びリャナンは黒板に目を戻し板書を再開した。今日は授業の間の方が、穏やかに時間が過ぎていく。
授業終了後、いつも通りにリトルアと連れ立って食堂に向かう。その道すがら、周りの生徒たちから何か言われていることは解っているが、敢えて気づかないフリをして食堂に向かう。本日のお昼のメニューはソバがゆと鹿肉だった。しかしリャナンは食堂でもちらちらとリャナンを見る視線が気になりすぎて、味がよくわからなかった。元々リャナンは注目されることに慣れていないし、好きではなかった。徐々に消耗していくリャナンに気付き、リトルアは
「リャナンちゃん表情がなんとも言えない感じになってるけど大丈夫?」
と聞いてきた。リトルアは観察眼が鋭く、人の気持ちの変化にも敏感だ。自分の気持ちを表に出すことを躊躇うことが多いリャナンの気持ちですら正確に読み取りきっちり話しやすいように振ってくれる。
「うん。何かこんなに注目されるとは思わなくって。こっち見ないで~。って言いたいけど意識過剰みたいで言えない」
すっかり食欲をなくし鹿肉をつついているだけの状態でリャナンは答える。
「まあ。この状態なら言ってもいい気がするけどね。ちょっとみんな注目しすぎ。博物館の絵画並みだよ」
リトルアの発言にリャナンも顔に笑顔が戻る。
「私もさっきの休み時間の時博物館に展示されてる気分になったよ」
笑いながらさっきまでつついているだけだった鹿肉を口に運ぶ。
「まあ。すぐに収まるでしょう。でも今日の午後は全体で宇宙芋のデンプン取りだけどね」
さらっと午後の学校行事を切り出されリャナンのテンションは再び下がった。うなだれながらも
「頑張る」
とリャナンが言えば、
「うん。頑張れ。賄賂も払わずフランツェンに成れたリャナンちゃんならこれから大抵のことじゃへこたれないでしょう」
とリトルアは言って席を立った。リャナンも残っていた食事を素早くかきこみリトルアの後を追い、食器を片付けて食堂を出た。