20. 出来ない理由
身に覚えのない告発という言葉にリャナンは動揺した。その動揺を感じ取ったルトナーは、静かに言葉を続けた。
「“告発”は言葉が乱暴だったかな。昨日、畑で君は『国王認定のためには予備認定を通る必要がある。さらにその予備認定を通るには賄賂が必要だ』とね」
ルトナーの言葉にリャナンは昨日の八つ当たりとしか言えなかった、自分の言葉を思い出して赤面するしかない。
「あの発言は貴族に対する反発を目の前にいる人にぶつけてしまったただの八つ当たりです。未熟物の癇癪だと聞き流していただければ幸いです」
リャナンはどうにか言い訳を重ねながら、昨日の自分の軽率な行動に泣きたくなってきた。
「いや。別に怒っているわけではないよ。僕はただ事実が知りたいと思っているだけ」
すっかり恐縮しているリャナンをなだめるようにルトナーの口調はどこまでも穏やかだ。その穏やかな口調にリャナンは少し落ち着きを取り戻す。出されたお茶を一口含みゆっくりと息を吐く。
「申し訳ありませんが、私だってそれほど事実を知っているわけではありません」
と正直に告げれば、
「それでも公然と賄賂が存在していることを知っているよね。恥ずかしながら僕は君が言ってくれるまで存在すら知らなかったよ。なんでもいいんだ、例えば君に賄賂を払うことを持ちかけた人物のこととか」
ルトナーの言葉にリャナンはクラスメイトであるアリアラの豪奢な金髪が脳裏をかすめた。リャナンの顔色が変わったのを見逃がさなかったルトナーはさらに言葉を続ける。
「クラスメイトは告発できない?」
どこまでも穏やかな口調にリャナンは頷いてしまいそうになるが、どうにか思いとどまる。肯定はそのまま告発につながる。
「なぜクラスメイトに告発の対象者がいると?」
質問に質問で返すのは無礼だと思いつつも、リャナンは聞かずにはいられなかった。
「大半は憶測かな。僕に熱心に認定を勧めてきたのはストラス=ゼストで娘が学生だったなとか。見ず知らずの人間に賄賂を持ちかけられた話だったらそう言えば話がそこで終わるからそう言うだろうな。とかね」
大半が憶測というルトナーの言葉にリャナンは少し拍子抜けするが、その憶測が当たっているから恐ろしいのだと思い直す。それでも何も言えずに自分の手元に視線を落とすと
「君はいい子だね」
唐突なルトナーの感想にリャナンは直前とは全く別の理由で何も言えなくなる。怪訝な表情でルトナーを見つめてしまう。
「だってさ。『賄賂が払えないから畑守りになれればいい方』って言っていたでしょう?そんな状況を作った元凶を庇おうとするなんて十分いい子じゃない」
ルトナーの言葉にリャナンは脱力する。要するに褒められているわけではない。ここまで来ているのだ、事実を話さないで帰れるわけがない。開き直ったリャナンは、一気にまくしたてる。
「別にいい子だって思われたくて話さないわけではありません。誰からも嫌われたくない、恨まれたくない。とかそれだけです。全部自分のためですから」
リャナンの言葉にルトナーは少し苦笑いをすると、
「解ったよ。変なことに巻き込もうとしてごめんね。これ以上こちらの事情に君を巻き込むべきではなかったのに。賄賂の件はこちらで処理するべきことだったよ」
と言った。それからは特に会話は弾まず黙って二人でお茶を飲むだけでいた。
「あの、それでは、私はこれで失礼します」
気まずい空気が二人の間に漂いそれに耐えきれなくなったリャナンが、席を立つ。もう不敬だとかは考えられずにいる。
「遅くまで引き留めてごめんね。もう暗くなりかけているし、送らせるよ」
言いながら立ち上がると入ってきたときのように自ら先に立ちリャナンを誘導して二人は、部屋を後にした。