19. 仮の穏やかさ
入ってきたときと同じように近衛兵に扉を開けてもらいリャナンは謁見の間を出た。
数分前の出来事が未だに信じられないが、右手にはしっかり先ほどもらったばかりの国王認定証が握られている。それを折らないよう一旦立ち止まり、にノートに挟んで鞄に仕舞う。近衛兵に小さく頭を下げ廊下を歩き始めようとしたとき、リャナンは目を疑う人物を捉えた。リャナンが狼狽えていると、
「リャナンさん。これから少しお時間をいただけませんか?」
そういったのは先ほど謁見の間で見送ったはずの国王だった。国王の申し出を断れるはずもなくリャナンは、
「わかりました」
と答える他になかった。リャナンの答えを聞くと国王は微笑みを浮かべて
「じゃあついてきて」
と言いリャナンが謁見の間に来たときとは逆の方向に歩き始めた。供も連れず先を歩く国王に疑問を感じながらもそれを口に出すこともせず、また先を歩く国王が話しかけてくるわけでも無いのでただ黙って長い廊下を歩いた。いくつかの角を曲がり、階段も昇りリャナンが帰り道に不安を覚え始めたころ一つの扉の前に到着した。国王自ら扉を開けリャナンを招き入れる。
「今日は天気がいいからテラスで話をしようか」
扉を閉めながら、部屋の奥の大きな窓の外を指す。テラスには白いテーブルと椅子が二脚設えてあった。テラスに出て、国王が座ったのを見てリャナンも勧められるまま向かいの椅子に座る。謁見の間では考えられない程距離が近い。友人のような距離にリャナンは居心地の悪さを感じた。しかしどんなに居心地が悪くても国王より先に口を開くなど許されない。国王と目が合わせづらくリャナンは無意識を装ってテラスから見える風景に目を向けた。外には、しっかりと管理された広大な庭が広がっていた。
(すごい庭だな。さすが王城)
リャナン間が持たなくて視線を移しただけの庭にうっかり見とれていると扉をノックする音がした。その音に国王が応えを返すと静かに扉が開けられ、一人のメイドがお茶のセットを持って入ってきた。メイドは姿勢よく歩き、テーブルの前までやってくると、手早くセッティングを行い
「失礼します」
と言って踵を返し歩き出す。思わずリャナンが、
「ありがとうございました」
と返すとメイドは少し驚いたように振り返り、微かに微笑むともう一度会釈を返して、今度こそ部屋を後にした。
出されたお茶からバラの香りが広がってくる。
向かいでは国王がさっそく出されたお茶を飲んでいるが、その動作が一枚の名画を見ているようで、リャナンは呼吸さえ止めてその姿を見つめる。
国王が、その視線に気が付くとカップを置いてゆっくりとリャナンに微笑んだ。その動作にリャナンはいかに自分が不敬なことをしていたかに気が付いて慌てて視線を逸らした。その行動に国王は、今度は声を立てて笑い出した。リャナンは最早どう対応していいかわからずいっぱいいっぱいになっていた。
「いや。ごめんね。こんな風に誰かとお茶を飲むなんて久しぶりでつい全部忘れそうになるよ」
ようやく笑いが収まった国王がようやく話し始める。
「陛下はまさかお茶を飲むために私を呼んだわけではないですよね?」
なぜ自分がここに呼ばれたかすら未だに理解できないリャナンが素直に疑問を口にする。
「ここでは陛下でなくルトナーと呼んでほしいな。あと、そうだね、共にお茶を飲むためだけに呼んだわけでないことも認めるよ」
そう言った国王は先ほどの笑顔は消えていた。一瞬にしてまとった厳しい雰囲気にリャナンの背筋は自然に伸びる。
「リャナン=エルスターさん。昨日の告発について詳しく聞かせてほしい」
思いがけない国王の言葉にリャナンは茫然とするしかなかった。
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告発内容まで行き着かなかった。
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