18. 国王認定
リャナンは真っ直ぐに玉座に座る国王を見つめる。本当は朝のことも含めて色々と聞きたいことがあったが、許可なく国王陛下に話しかけるなど許されない。ただ黙って国王陛下の話を待った。実際の時間にしたらそれほど長い時間ではなかったが、リャナンにとって、それは退屈な授業を受けているときよりも時間の流れが遅くなったように感じた。ゆっくりと国王陛下は口を開く。
「リャナン=エルスターさん。わざわざ来てくれてご苦労様でした。君の造った花を正式に認定したいと思います」
その言葉を聞くと壁際に控えていた近衛兵がリャナンに向かってくる。
「こちらでよろしいですか?」
近衛儀の言葉にリャナンは慌てて横に置いてあった鉢を差し出して、
「よろしくお願いします」
と言って、近衛兵に向かって頭を下げる。近衛兵は恭しく鉢を受け取ると、国王陛下の元へと運んだ。鉢を受けとった国王は
「この花の名前は何か決めている?」
とリャナンに問いかけた。
「申し訳ありません。まだ何も。」
国王の問いかけにリャナンは歯噛みする。本来、名前は花の製作者が付けるべきものだ。認定が取れなくても、咲く花ごとに名前を付けている同級生もいる。朝に認定の話が出たのだから、呆けてないで考えておくべきだったのだ。
「そっか。じゃあ僕がつけてもいい?」
国王の楽しそうな声と、それでいて突飛な申し出にリャナンは目を丸くする。
「陛下!」
どれくらい突飛かと言えばそれまで横にいて成り行きを見守っていただけだった宰相が声を上げたぐらい突飛なことだった。その声に国王は叱られた子供のように首を竦めた。リャナンはそのしぐさが妙におかしくて、ここがどこで、目の前にいる人物が誰かも忘れて笑みをこぼす。
「この上ない光栄なことと思います」
少しでも笑ったことで、緊張が解けたらしくその言葉はするりとリャナンの口からこぼれた。
「ありがとう。じゃあねぇ…」
リャナンの言葉を受け国王は無邪気に考え出す。ゆるんだ顔に宰相もややあきれ顔だ。
「よし!この花はデメルング!」
さほど間を置かず国王は名前を決めた。
「 デメルング(夜明け)ですか。とってもいい名前です。ありがとうございます」
リャナンは素直に感嘆を漏らす。そして、彼の今朝の感想そのままの名前に新手めて目の前の人物が、今朝あった人間と同一人物だったと思った。実はリャナンは名づけが苦手だ。語彙や感性を増やすための海の向こうの神話や星座の授業は大好きだったが、それが個体名を決めることに結びつかない。考えることなく決めることができた国王には感動すら覚えた。一枚の紙に何事かを書きつけた国王が、
「じゃあ。これが認定書です。これからこの花で糸を染めたら学校を通してリャナンさんに糸が渡ると
思います。そしたらその糸を襟に刺繍して下さいね。市場に出回るまでにはもう少し時間をください」
と告げると先ほどの近衛兵が国王に渡されたその紙を持って再びリャナンの横に来る。持っているのは国王認定の用紙だ。それを認めるとリャナンは再び緊張した。震える手でそれを受け取り見てみると、国王認定の旨と国王陛下のサイン、そして自分の名前と、たった今、決められた花の名前が書かれていた。
「ありがとうございました。この花が国を支えられることを願っております」
授業で教えられたとおりの定型句をリャナンが告げると国王は満足そうに頷き部屋を出て行った。
それを見送ったリャナンも立ち上がり出口に向かう。さすがにずっと膝をついていたので腰が痛くなった。しかし、人生初の時間を終えて緊張が解けたので足取りは軽い。再び壁際に控えていた、近衛兵に頭を下げるとリャナンは出口をくぐった。
やっとここまできた。って感じです。書き始めたときは、ここまでで3話ぐらいの予定だったのに、どうしてこうなった。
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